平田弘史・もうひとつの伝説
当オススメ本コーナーでも紹介しておりますが、平田弘史先生の『血だるま剣法・おのれらに告ぐ』が青林工藝舎から出版されております。アフィリエイトでアマゾン・コムと連動しているんですが、なぜかアマゾンに書影が登録されていませんので、改めてここに、俺が勝手に表紙を紹介しておきます。(クリックで拡大)
今から40年以上も前に大阪の貸本出版社から出された本ですが、親兄弟を皆殺しにされた被差別部落出身の若者が、武芸で身を立てようとするものの、本人もひどい差別を受け、いろいろあって両手両足を切り落とされダルマのような姿にされながら、異常な執念で差別した連中に復讐するというその内容が問題となりまして、著者および版元の社長が糾弾されて、その目の前で回収本が焼かれるという数奇な運命に逢った作品です。
もちろん作者である平田先生に差別の意図は毛頭なく、むしろ「差別はいけない」ということを訴えた内容なのですが、描写に迫力が有り過ぎ、また、差別問題に関して誤解されかねない記述も一部にあったものですから、やむなく絶版の憂き目にあったわけです。
←『血だるま剣法』より(平田弘史『血だるま剣法・おのれらに告ぐ』青林工藝舎)
ただ作品としては平田弘史の貸本時代を代表する傑作であり、本人もよほど残念だったものか、後に内容を大幅に改めて『おのれらに告ぐ』というタイトルでリメイクしたくらいですが、オリジナルの方は内容が内容ですので、おそらく未来永劫出版できないであろうと言われていたものです。それが出たわけですから、これは出版史上の奇跡であろうと業界内ではささやかれたのでありました。今回の再版は、問題の箇所(ネーム部分)を伏せ字にするなど修正が施されているものの、ほぼ完全な形での復刻であります。
編集発行人は浅川満寛さん。俺も本人を存じ上げておるのですが、編集者であると同時に貸本劇画の研究家でもありまして、たいへんいい仕事をする人です。監修の呉智英氏とともに、お疲れ様と言わせていただきます。またリメイク版の『おのれらに告ぐ』も併せて収録されていて、オリジナルをまんだらけで数十万で購入するよりお得な内容になっております。
と、宣伝はこのくらいにして、せっかくなので平田先生のお人柄についてご紹介したいと思います。この先生、ある意味「手塚伝説」に勝るとも劣らぬ伝説の持ち主なんですよ。いや、その強度においては手塚先生を凌駕しておると申しても過言ではありません。
で、たぶんほとんどの人は知らないと思いますが、俺は今年の春くらいまで、「アサヒ芸能エンタメ!」というちょっぴりエッチな雑誌に「漫画人間国宝」というコラムを連載しておりました。主旨は、まさに「手塚伝説」みたいなものなんですが、誰も知らずにひっそりと終了した短いコラムですので、ここに「平田弘史の巻」を全文再録したいと思います。
【以下再録】
平田弘史といえば時代劇画の巨匠である。寡作ながら一作一作が研ぎすまされた名刀の趣を持ち、その圧倒的に迫力ある画風は、日本ばかりか海外にも信奉者が多い。
しかしこの先生、巨匠なのに決して自分をマンガ家とは自称しない。機械いじりが大好きで本当は電気屋さんになりたかったらしいが、「生活のため」に「やむなく」マンガ家になったとおっしゃる人なのだ。
だが作品を見ればわかるが、「生活のため」とはとても思えない仕事ぶりである。一作に二年三年かけるのは当たり前。どんな仕事ぶりかというと、たとえば新作にとりかかる前、先生はおもむろに方眼紙をとり出して図面を引きはじめる。マンガのネームではない。それは「その作品を描く専用の“机”」の設計図なのだ。
完全主義者は多いが、机や椅子から製作を始めるマンガ家というのは、後にも先にも平田先生だけであろう。近年はシンセ音楽に凝っていて自宅の録音スタジオまで自前で設計したというが、たしかこの人、もう七〇歳くらいのはずだ。
先生のホームページがあるが、まず普通に見ただけではマンガ家のHPとは誰も思わないのではないだろうか。なにしろ自己紹介に
劇画製作、イラスト、挿し絵、ビデオ編集、動画シアター、アニメ原作「宇宙の原理」「宇宙シアター」テレシネ映写機の製作、工作機械加工、試作機械開発、板金、土木、木工、その他、興味と実益ある、物加工に挑戦。
と書いているのだから。日記を見ても、庭先の排水溝のフタを“自作”する過程が克明に紹介されていたりして、なんというか、凄い。もちろん劇画ギャラリーもあるので、平田弘史を知らない人も、一度ページを覗いてその「凄さ」に触れてみてはいかが。
●平田弘史HP http://www2.wbs.ne.jp/~tesh/
【再録終わり】
そんなわけで平田ホームページですが、見るたびに内容がすさまじくなっております。トップページから書かれてある指示に従わないとその先が見られないという、アドベンチャーゲームのような凝りようですので注意してください。おそらく自分でHTMLを書かれているものと思われます。
最近はホームシアターに凝っておられるみたいですが、自宅に大型の旋盤加工機械を所有されておられる先生のこと、ただの凝り具合ではありません。以前、東京から伊豆の山中にお住まいを移しましたときに、引越業者から町工場の移転と間違えられたそうです。
ほかに先生に関する業界の伝説では、
●時代劇執筆中、人を斬る感触がどうしてもわからず、骨董屋で日本刀を入手してそこらの野良犬を斬りまくった。とか、
●親の代からの敬虔な天理教信者(これは本当)で、あるとき教団本部から「教祖・中山みき伝」の執筆を依頼された。例によって数年かけて歴史的資料にあたり徹底的に調べ上げたところ、「現在の本部の教えは間違っている」との結論に達し、仕事を降板した。とか、
なんか真偽のほどはちょっぴり不明ながらいろいろものすごいエピソードが伝わっております。これもいずれ集まったら「手塚伝説」みたいに紹介してみたいなと思っています。
http://www.narishi.com/~nari-hrt/Kinkyou/Kattyu.html
↑ちなみにリイド社の企画で戦国武将のコスプレをされた平田先生。カッコイイ!
http://www2.wbs.ne.jp/~tesh/sakuhin/saku-main-bord.html
↑ああ、このページにある仕事場風景も素敵!
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コメント
Mac@safariでは先に進めないようです…たぶん。
投稿: たくろ | 2004/12/23 12:00
そのできごとの一つ一つが激しすぎて、吹いた。
これは買わねば。ご紹介ありがとうございます。
投稿: ちんぷぃ | 2004/12/23 12:20
平田先生ページより、御近影をリンクしたのでご堪能ください。
投稿: たけくま本人 | 2004/12/23 12:22
ご紹介ありがとうございます。
これまでこの人の名前を知らず生きてきたのが悔しい限りです。「血だるま剣法・・」トビラの絵に気圧されて早速買ってしまいました。他の作品も「黒田三十六計」は登場人物が好きなんで購入します。
しかし、エピソードといいHPといい神レベルの方ですね。
投稿: たなb | 2004/12/23 14:33
アックス41号は平田弘史特集ですので、興味のある人は読んでみてはいかが?
投稿: 通りすがり | 2004/12/23 16:17
平田先生のHPすげーですね。このエネルギーはどこからくるのか。爪の垢でも飲ましていただきたい。
投稿: うにぞう | 2004/12/23 18:56
この本について長谷邦夫さんが、ダルマになった主人公の描写に作者のギャグセンスが感じられると言っていました。うーんすごい。
投稿: やたがらす | 2004/12/25 11:53
>やたがらすさん。
これは、「新現実」でのみなもと太郎さんの
平田ギャグセンス発言を読んで、見直して
みた感想です。
<壮絶>といった視点で、激烈さだけを見て
いたのですが、冷静にみてみると、お腹の皮を
傷つけ、蛇腹状にして木に登る~というのが
かなりナンセンスな味がありますよね。
江戸川乱歩の『芋虫』のパロディにも思えて
くるし…。
投稿: 長谷邦夫 | 2004/12/29 00:03
「血だるま剣法」紹介していただきありがとうございます!平田弘史左衛門氏のギャグセンスが注目されている折(!?)、1月には異色中の異色作「お父さん物語」も青林工藝舎より復刻することになりました。ヤンマガワイドKC版をお持ちの方にもご満足いただけるよう、単行本未収録「平田弘史のギャグマンガ」「おれたちは生き苦しいのだ」を追加収録のうえ、元版にあった巻頭プロフィールも2005年バージョンに更新してあります。平田作品および作者自身をより深く知るために格好の一冊!皆様是非!
投稿: 浅川 | 2004/12/29 03:17
これはよくいらっしゃいました>浅川さん
ななな「お父さん物語」まで出るのですか!
あれもまた「血だるま剣法」とは違った意味で
問題作ですよね。
投稿: たけくま本人 | 2004/12/29 03:23
平田センセというと
「拙者、『ばんぺいくん』・・・・でござる」(大合作)
で一気に惚れ込んだ口です。
てかあれはトニーの功績ですね。偉い!トニー
投稿: any | 2004/12/31 15:31
「血だるま剣法」紹介いただいてありがとうございます。買って読みました。
やはり平田作品の中でも10指に入る傑作といったところでしょうか?
ところで「漫画人間国宝」は出版されないのですか?
(別冊アサ芸のとき愛読していました。)
投稿: HAMADA13 | 2005/02/21 00:38
本日手塚版「バンビ」復刻の記事を拝見させていただいた折りにこの項を知り遅ればせながら拝見させていただきました。
平田弘史の入魂の一冊、テレ東の「美の巨人たち」でも採り上げて貰いたいところです。是非購入したいと思います。
ところで、あらすじを読んでいてふと気になったのですが、楳図かずおさんの「復讐鬼人」は、これにインスパイアされたのかなと思ったのですが、「復讐鬼人」も発禁になっているのでしょうか?
まあ、あの時代の楳図作品は今の世情では発禁になっている可能性は高いでしょうね。「半漁人」とか「肉面」「ひびわれ人間」とか、好きだったんですけど。
投稿: 巴啓祐 | 2005/02/21 02:43
平田先生の「士魂」は傑作でした、我が家に置いた漫画家別コミック友人盗難率、平田先生は第2位でした(ちなみに1位は群を抜いてダーティ位松本です)
投稿: あぽちゃん | 2005/06/26 13:07
今を去る四十数年前、小学生のとき貸本屋で平田弘史作品を片っ端からむさぼり読みました。「変人武士道」?という劇画(さいとう・たかをが言う前に平田弘史は言っていたように思う)を覚えています。何故か作者が山田某?に途中から替わった。作品数は少なかったけれど強烈な絵と平田弘史の名前は今でも鮮明に覚えています。
戯れに、Google で検索したら思いがけずヒット、平田弘史の人となりについて無知でしたが、知ってビックリ開けて玉手箱。
岩田専太郎を荒々しく無骨にし、女ではなく男を描いた絵という印象だった。
投稿: tomy field | 2007/05/06 17:47