WEBマンガの感想
さて少し遅れましたが、皆さんからご紹介いただいたWEBマンガをざっと見てきましたので、簡単な感想でも。
現状のWEBマンガを大きくわけるなら、(1)従来の紙マンガの延長に位置するもの。(2)スクロールやアニメを組み合わせ、モニターで読むことを前提として創られた作品。に分けられると思います。(1)に関しては、やっぱりできれば本の形で読みたいというのが正直なところでしたね。特に、すでにマンガとして完成されたものを無理矢理電脳化したものに、それを強く感じました。
(2)に関しては、全体にまだ試行錯誤といったところなんでしょうが、なかには紙マンガでは実現できない表現があったりして、可能性を感じます。はたして俺が以前書いたように、WEBマンガはアニメやゲームと融合してしまうのか、あるいは独自の形式として確立するのか、今後の流れを興味深く見守りたいと思います。では、以下寸評。
●1 紙マンガの再録・WEB用演出モノ
▼e-manga
http://kodansha.cplaza.ne.jp/e-manga/
↑あすなひろしの作品が無料で読める。WEBで読ませることを想定してコマごとに表示時間の調整やアニメ的演出を行っているが、もともと本で読ませることを前提に描かれたマンガを、本人の意志に反して(あすなさんはもう亡くなられている)こういうことをするのは、個人的に好きではない(もっとも、e-mangaの掲載作品はすべてこの調子)。
遺族の了解を得ているのでいいのかもしれないが、最低でも、こうした演出をした者は誰なのか、名前を明らかにするべきだと思う(どこかにスタッフリストがあるのかな?)。作品の見せ方を決定するのは演出の領域の仕事で、それは作者の特権なのであり、その部分に介入した第三者は、もう他人ではなく「共同作者」だからなのだ。
ただ、ちゃんと本の形式でも読めるように配慮して、公式サイト(通販を行っている)を紹介しているのはエライと思う。
▼ギャラリーフェイクWEB版
http://spi-net.jp/gallery/
↑ああ、スピネットのやつね。紹介してくれた忍天堂さんも書いてたけど、たしかに演出がうるさい。こういうたるいアニメ的な演出は、表示を待っている時間がイライラするよね。かえって作品を殺してる。紙媒体で成立したマンガに対して、なんでわざわざこういうことやるんだろう。
紙マンガのいいところは、非常にインタラクティブなところなんだよね。要するに、時間が読者の側にあって、あるコマを1秒で読み飛ばしても、1時間眺めていても読者の自由。そこで作者は、読者の目線の動きを考えながら、コマを割ったり構図を決めたりするわけです。それが紙マンガの本質で、作者と読者が無意識下でせめぎ合うスリルがあるんですよね。
しかし、紙マンガをバラバラにしてアニメ的演出を加えてしまうと、紙マンガがもともと持っていたインタラクティブ性が失われてしまう。その結果、たるいアニメ紙芝居となるわけです。それなら、最初からアニメとして創ったほうがはるかに見やすいよね。
ちょっとこれに関係するかどうか知りませんが、大島渚が大昔にATGで撮った『忍者武芸帖』を思い出します。当時ATGは「一千万円映画」を提唱していて、松竹をクビにされた大島がここで低予算で映画を作ってブレイクするんですよ。それでも、いくらなんでも1千万円で長編アニメは無理だろうと思ったら、完成した映画はなんと白土三平のマンガ原稿を真上から映画カメラでコマごとに拡大接写(コマ撮りではなく、普通にカメラで撮っているだけ)し、動かない絵(ただしカメラワークで動いているようには見せかける)に役者の声を無理矢理あてるという、まさにフィルム紙芝居というか、ものすごい作品でした。昔、文芸座のオールナイトで見たんですが、ツライのなんの…。まあ映画史上の珍品でしょうね、あれは。
●2 従来のマンガ的な読ませ方
▼+-- Cafe Noir --+
http://park6.wakwak.com/~blanc-noir/
↑4コマをそのまま載せている形式。作品の一覧性を考えると、1画面でサクっと読めるという意味で4コマはWEBマンガ向きですかね。
▼風刺習帖
http://blog.livedoor.jp/psi/
↑こちらは一こまマンガ。感想は上に同じ。
▼センネン画報
http://juicyfruit.exblog.jp/i4
↑こういう気楽なエッセイ形式もWEBマンガにはいいのかもしれない。
▼戸田誠二のコンプレックスプール
http://www2.odn.ne.jp/~cbh42840/
↑画はラフだが才能を感じさせる。で、ちょっと思ったんですが、WEBマンガのネックは「読者のモニター環境が一定してない」ことかもしれない。いえなんでこう思ったかというと、俺のモニターとブラウザではぴったり1ページが表示されない(画面が下にちょっと余る)ので。中には、モニターの解像度を指定しているWEBマンガもあるみたいだけど、これは今後の研究課題かも。
▼Studio221
http://www.h5.dion.ne.jp/~pn221/index.html
↑普通のマンガとしてよくできてると思う。
▼はねむす
http://homepage2.nifty.com/kaeruz/
↑ああ、綺麗な作品ですね。普通のマンガの描き方ですが、へたに画面演出を加えるよりこういうシンプルなのがいいよね。
▼イオン
http://members.stvnet.home.ne.jp/naoki12/manga_ion.htm
↑ページ単位でクリックして読ませる形式。全部読んでないけど未完らしい。うまい人だな。
▼コミックシード
http://www.comicseed.com/
↑WEBマンガ雑誌。専用のビュアーをダウンロードさせて読ませるもので、インストールに抵抗ある人もいるかも。中身は普通の形式のマンガで、いずれもレベルは高い。この形式の利点は、WEBでとりあえず作品を発表しておいて、後で単行本にもそのままできるところか。旧来の文法で描かれたマンガは、当然本の形式で読むのが一番。
▼マンガ雑誌ノウ
http://www.web-know.net/
↑これもWEB雑誌。ただし専用ビュアーは不要。マンガ自体は紙マンガ形式をそのまま見せるものだが、ここの面白いところは、ページ単位で読むか、見開き単位で読むかを読者が選べるところ。
●3 スクロール形式
▼うみのゆき
http://mrsnow.hp.infoseek.co.jp/manga/uminoyuki2/uminoyuki2.htm
↑今回、一番感動した作品かもしれない。自分の世界をしっかり持っている作者です。この縦スクロールを前提としたコマ割りは、WEBマンガの基本スタイルとして長く続きそうだ。
▼篠湯
http://www.medianetjapan.com/2/16/entertainment/nisekann/sinoyu.htm
↑これもスクロール前提のコマ割り。
▼NEKOCUBE
http://www.nekocube.net/
↑いろいろな形式を試しているが、「NECRODISC」というのは典型的な縦スクロールマンガ。色彩感覚がなかなかGOOD。フルカラー作品は紙マンガだとなかなか実現できない(主に版元の事情で)ので、色彩を前提とした作品はWEBマンガの独壇場になるかもしれない。
▼コメットさん
http://www.comet-san.jp/
http://www.comet-san.jp/24hour/24h_1/
↑非常にイマ風の作画で、ノリもいい。ちょっとH系ですね。基本的に普通のマンガ的な読ませ方なんだけど、1画面=1ページ単位を、下にスクロールさせることで読ませている。その意味では、(2)と(3)の中間か。
●4 オリジナル(紙マンガ)をゲーム的に読ませるもの
▼741.5 Comics - Five-Card Nancy?
http://www.7415comics.com/nancy/index.shtml
↑こういう形式は初めてみました。マンガのコマの福笑いというか、ジグソーパズルみたいなものかな? ゲームとしてなら面白いと思います。
いわゆるゲームマンガ?というのかな。ストーリーがないからゲームに近いのだけれど、けっこう昔からあって一部で有名なサイトにこれがありますね。
▼Modern Living
http://www.hoogerbrugge.com/ml.html
↑この人、完全にプロなんだろうがメチャクチャうまいよね。作品もプチプチシートをつぶしていくような感覚があって、なんかはまる。まあ、マンガではないかもしれないけど。
●紙芝居形式
▼藤島ツトム『comic cook web』
http://www.comiccookweb.net/
↑この人もプロだね。マンガとイラスト両方やってるらしい。プロフィール見たら、なんと楽書館出身だって! 楽書館ってみなさん知ってる? もう30年以上続いている創作同人誌の老舗で、高野文子や高橋葉介が在籍していたことで有名なところ。
●紙芝居+アニメ
▼ポカちゃんと僕
http://crossing.jp/archive/pokaboku/index.html
↑これはもう、ひとつの様式として完成してますな。クリック感もサクサクしていて読みやすい。この紙芝居とコマ内アニメを組み合わせた形式は可読性からいうと一番かも。
▼eviYanさんの「遠泳」
http://www.fsi.co.jp/conts/a/11/eneiintro.html
↑これは大変好感の持てる絵と雰囲気ですね。データを読み込む時間が少しかかる感じがしますが、一回に表示する画面スペースとアニメ的演出がかみ合っている。同じアニメ演出でも、上にあげた「ギャラリーフェイク」より全然読みやすいのは、たぶん作者が最初からこの形式を前提にして作品を創っているからでしょう。ちょっとまだ全部読んでないんだけど、最後まで読みたいです。
●その他・表示の仕方に工夫があるもの
▼ZOIDS
http://www.tomy.co.jp/gamesoft/webcom/zoids/zoids.htm
↑ちょっと凝りすぎでサクサク進まないのが欠点か。いや、よく創ってはあるのだが。
▼栄冠は君に輝かない
>初めまして。いつも更新を楽しみにしています。
>私の場合web漫画と言うと、コレをまず思い浮かべます。
>大河野球漫画「栄冠は君に輝かない」
>http://comic-ekk.homeftp.org
>緻密な設定と、下手な絵。大作ですが、ハまっています。
>(投稿・194ちゃん)
↑確かに絵は下手…というか殴り書きなんだが、とにかく量が膨大で、あらゆる角度から作品内を「検索」できるインデックスが付いている。こんなのは初めて見ました。たしかにWEBマンガでないとこれはなかなかできないね。
なんか、ざっとした感想しか書けずにすみません。まだ全部読めてないのもあるし…。でも、大変参考になりました。今後も面白いWEBマンガがあったら教えてください。
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コメント
フムム、なるほど面白いですね。
WEBコミックはいろいろ試行錯誤を繰り返してますが
所謂”動画”でない紙媒体の延長線上にあるWEBコミックは上から下へスクロールさせて読むのが一番自然な形なのかもしれませんね。。
投稿: yochy | 2005/01/10 00:57
解像度の問題は、モニタの詳細度の標準が少なくとも今の倍(1920×1280ぐらい?)で、
ソフト(ブラウザ)がフリーサイズ拡大縮小に対応してくれれば何も問題ないのですが、これも過渡期故でしょうね。
今は印刷の為にペン入れするのが主流ですが、デジタルとの親和性を考えるならば画面に合わせて拡大縮小が楽にできる様に
線をベクター化するタブレットペン入れの方が合理的?? (結局はその方が印刷にも応用利きますし)
投稿: タニ | 2005/01/10 02:03
ちょっと問題があるかも知れないけど、デスノコラ
http://roripopnet.kir.jp/deathnote/futaba.htm
http://members.at.infoseek.co.jp/kuro725/index.htm#deathnote
こういう流れはWEBならではと感じます
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20041228205.html
身内の中ではデスノコラのネタに追いつく為に
最新のジャンプを読んで来なきゃ、という流れ
になってますし、この流れに関しては作者と読者の
見事な相乗効果になってますね。
あとWired Newsでもう一つ
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/culture/story/20040607203.html
投稿: any | 2005/01/10 23:24
株式会社不二家様の森を育む活動報告サイトです。
http://www.peko-mori.comこのページの月刊ファミリーのマンガレポート みなさんの厳しい感想おきかせください。現在、改良にむけて試行錯誤しております。なんせ重いんですよ…カラーだし…
投稿: たましすたー | 2005/05/24 11:39