[電波女]男は宇宙のカス
先日のエントリー「本田透君が心配だ(2)」で、俺、次のようなことを書きましたよね。
>本田君が夢想するようにすべての男性が萌えるなら、世界は確かに平和になるだろうが、
>人口も激減するだろう。
>そのとき資本主義社会は崩壊し、同時に萌え産業も崩壊するのではないだろうか。いや、
>それ以前に人類が滅亡するかもしれない。
これに対して、直後に本田君からメールで返事がありました。内容は「子供いなくなる問題のほうはそのうち小説という形で解決策?を書いてみたいと思っていますが、実際に書くチャンスがあるかどうかはまだ判りません。サイトのほうでも、今後の大きな課題として扱っていきたいと思います」というものであります。
本田君とのこのやりとりで、ふと思い出したことがありました。いや、それはアンディ・ウォーホルを撃った女として世界に悪名をとどろかせたヴァレリー・ソラナスのことなんですが。まあ参考になるかはわかりませんが、ちょっと『電波男』に通じるものがあるかもしれないので、書いてみたいと思います。
ウォーホルといえばポップアートの巨匠ですが、60年代に自分のアトリエをファクトリーと名付けて、ジャンキーとか、頭のおかしいヒッピーとか、性倒錯者とか、いろいろ電波な人たちのたまり場にしていたことで有名です。それでウォーホルは、そういう電波人間をスーパースターと名付けて、彼・彼女らを主役に、大量のアングラ映画を撮っていました。ヴァレリー・ソラナスも、そんなスーパースターの一人でした。
家庭での愛情に恵まれなかったソラナスは、少女時代にレズビアンとしての自覚を持ち、自分を理解してくれる仲間を求めて田舎からニューヨークへとやってきます。そこでファミニズムの思想に触れ、ますます自分の正しさを確信するのですが、彼女の「男性憎悪」はあまりにも激しかったものですから、仲間はなかなかできませんでした。
彼女は作家・脚本家として活動を始めますが、これは「自称」であって、ほとんど仕事にはならなかったようです。では実際に何で餓えをしのいだかというと、売春婦としてであり、本田透君いうところの「恋愛資本主義」の最末端で生活したことで、レズビアンとしての彼女の精神は引き裂かれ、男性憎悪は、ついには電波の域に達していきました。
ソラナスは戦闘的レズビアン集団「男性切り刻み協会」を組織、「SCUM宣言」を自費出版して自らの思想を呼びかけました。ちなみにSCUMとはThe Society of Cutting Up Menの略なんですが、同時に「カス」「クズ」「ゲロ」みたいな意味があります。彼女はこの言葉に、彼女が考える「男性の本質」を込めたわけです。
彼女の著作をもとに、その思想および行動指針のエッセンスを箇条書きにしてみましょう。
●男性は、生物が進化する過程の混乱で生じた「間違った性」であり、女性こそが完全な生命体である。
●不完全な性である男性は、その不完全さを隠蔽するべく暴力的・制度的に女性を支配している。この間違いは、糺さなければならない。
●男性は、生物として本質的に不完全であるので、その不完全さは、制度の変更や、後天的な教育で修正できるものではない。
●したがって、われわれ男性切り刻み協会は、ここに地球上における全男性の抹殺を宣言する。
●すべての女性は立ち上がり、男性を皆殺しにして、世界に平和をもたらさねばならない。
●男性切り刻み協会は、公平で民主的な選挙によって世界政府を樹立するが、その当面の目的は、
(1)全男性の根絶
(2)卵子のみで子孫を繁殖する「単性生殖」の研究
である。
●上の(2)の目的のため、単性生殖が実現するまでの間、少数の男性のみ厳重な監視下で生かしておく。以上。
パンサークローと死ね死ね団と家畜人ヤプーがあわさったようなものですが、すごいですね。フェミニズム思想もたくさんありますが、ソラナスのそれほど激烈なものは、ちょっとないでしょう。実際ソラナスの電波には誰もついてこれずに、「男性切り刻み協会」のメンバーはソラナス一人だった、とも言われております。
「電波マニア」であったウォーホルは、彼女を自分のアングラ映画に出演させますが、もちろんこれはソラナスをスーパースターとして見せ物にするためです。有名なウォ-ホルに認められたと勘違いしていたソラナスは、やがて裏切られたと感じ、彼をピストルで撃ったのでした。ウォーホルは九死に一生を得、以降はファクトリーを閉鎖して電波恐怖症になったといいます。
ソラナスの思想は、ルサンチマンが元になっているとはいえ、「子孫繁栄」についてもきちんと考えられているところが面白いです。もちろん本田君の思想は「誰も傷つけない」ことに主眼を置いたはるかに穏健なもので、「悪いのは恋愛資本主義で、女性そのものではない」こともよく読めばわかるように書かれていますよね。電波の質が全然違いますので本田さんにとっては迷惑かもしれませんが、参考になれば幸いです。
余談ですが、俺はかつて「クイック・ジャパン」の赤田編集長とともに、ソラナスにインタビューを申し込もうとしたことがあります。ああいう思想の持ち主ですから、女装して会いに行こうとか言ってたんですけど、調べたら、89年に死んでいたみたいでガッカリしました。刑務所から出所した彼女は、その後精神病院を出たり入ったりしたあげく、最後はホームレスとして亡くなったそうです。
ちなみに一番上に赤い表紙を掲げたソラナスの「SCUM MANIFESTO」は、赤田君がロサンゼルスに行ったときに俺へのおみやげで買ってきてくれたものです。横の本は日本語で書かれたソラナスの伝記ですが、例によって品切れみたいですね。本当、いい本はすぐ品切れになるのでうかうかしてられません。
| 固定リンク
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 50歳まであと6日(2010.08.23)
- 死ぬことは生きること…今敏氏の逝去を悼む(2010.09.02)
- ツイッターの更新しやすさは異常(2011.01.15)
- 0年代、自分の身に起こったことなど(0)(2011.02.01)
- 震災1週間目のツイートより(2011.03.19)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 【お尋ね】ヨーロッパの「学園祭」について(2010.02.17)
- 都条例「非実在青少年」規制問題について(2010.03.11)
- まんが・条例のできるまで(1992年作品)(2010.03.17)
- 明治大学の野望・2(2009.10.24)
- メビウスが描いたアトムが…(2009.04.16)
「エッセイ」カテゴリの記事
- 学生にお金を払う大学(2010.06.22)
- タイガー・ウッズに見る“モテの魔”の恐怖(2009.12.17)
- 独学に勝る勉強はない(1)(2007.11.27)
- 独学に勝る勉強はない(2)(2007.11.29)
- 70年代は変な時代だった(2008.02.16)
「おたく」カテゴリの記事
- 田中圭一制作総指揮のマンガ作成ソフト、なし崩しで情報公開へ!(2010.10.05)
- コミPo!と私(1)(2010.10.17)
- 早速、コミPoで傑作が!(2010.10.27)
- コミPoを使った作品が早くもニコニコ動画に!(2010.11.21)
- コミPo!体験版で1こままんがコンテストが開かれています(2010.12.04)
この記事へのコメントは終了しました。





コメント
>ヴァレリー・ソラナス
田嶋陽子を過激にした感じですね(笑)。
アンディ・ウォーホルに関しては、
バレバレなカツラを取られて発狂した話など
かなりの電波なエピソードがありますが、それを上回ってますね。
投稿: 忍天堂 | 2005/03/24 00:28
こういう刺激的なネタがあるので目が離せないたけくまメモに乾杯
投稿: ああ | 2005/03/24 06:00
がんばって読みましたが、もうちょっと
どのあたりが関係があるのか、
または関係があるように感じたのか書いていただければと。
本田さんの今回の本は「力のある演説」(海外小説ででてきた言葉)を感じる珍しい本でしたが、
このソナラスという人は単なる電波では・・・
投稿: m | 2005/03/24 07:37
ウォーホル→ルー・リードつながりですな
投稿: | 2005/03/24 08:32
サガノヘルマーの『BLACK BRAIN』にまさにそういうおばちゃんが出てきますね。「人類最大の病・・・それは男という性である」とか言ってた気が。元ネタはこのソラナスなんですかね。
投稿: SLASH | 2005/03/24 10:40
「女はおっかねえ」ということを仰りたかったんですよ!(`・ω・´)
投稿: 本田 | 2005/03/24 10:56
>mさん
本田氏の『電波男』にも、オタク的な人格が暗黒面に落ちるとどうなるかの例として津山30人殺しの犯人について書かれていました。同時に、宮沢賢治の生き方を対比させることでバランスをとっているのが、あの本のいいところだと思います。
同様に『電波男』の思想が暗黒面に落ちるとこうなるのではないかという例として、ソラナスについて書いてみたのです。もちろん本田氏の結論とはまったく違いますが。
投稿: たけくま | 2005/03/24 11:01
おお、本田さんの書き込みがいつのまに。
投稿: たけくま | 2005/03/24 11:02
暗黒面に堕ちてしまった世界というのを思考実験的に小説形式で描きたかったわけなんです。でも僕にはSFを描く技量がないので無理そうです。
投稿: 本田 | 2005/03/24 11:33
こんちは。
ソラナスのことを描いた映画「I SHOT ANDY WARHOL」は封切りで観ましたが、映画としては退屈でした。ウォーホルのファクトリーを忠実に再現! といわれていて、実際にそれは確かなんでしょうが、少々考証負けした感がありましたね。
ただ、この映画の「ウォーホル」やファクトリーの雰囲気は一見の価値があると思います。
投稿: 伊藤 剛 | 2005/03/24 11:53
↑ああ、映画版はつまらなかったよね。紹介するかどうか迷ったんですが、やめました。DVDも出てないし。
投稿: たけくま | 2005/03/24 12:04
するってえと、ルグインやら自殺しちゃったティプトリー姐さんも 電波女ですかね?
投稿: じょなさん | 2005/03/24 13:55
『エロイカより愛をこめて』20~21巻に、生物兵器による男性抹殺をもくろむフェミニスト過激派が出てきますね。
日本の女性運動の中では、「レズビアン分離派」という男との共生は不可能とする一派が、かつてそれなりに勢いを持っていました。
投稿: o-tsuka | 2005/03/24 14:38
>竹熊さん
ていねいなレスありがとうございます。理解できました。
>じょなさん
ルグインというのは、ゲド戦記シリーズの作者の方でしょうか?
最近出た「本当の最終巻」でゲドの奥さん(元地下神殿の腕輪を守ってた巫女さん)が「結婚しなければならない」王様を見て「女を怖がってる」と発言してる所が、自分にとっては初めて女性が「男が女を怖がってる」と非難してるのを見たので凄く印象に残ってたました。
投稿: m | 2005/03/24 22:48
ソラナスの思想は4個目あたりから突然電波を受信しはじめますが、
最初の3つはなるほどある面からそういう見方をすればその通りですな(笑)。何でもそうか。
僕も田嶋陽子氏を思い出しました(笑)
投稿: 茶人 | 2005/03/25 02:33
なんかこの記事にふさわしい必見のblog
80年代あたりのウルトララディカルフェミニズム
の劣化版みたいな、素晴らしさであります。
ttp://manhater.exblog.jp/93804/
投稿: Armando | 2005/03/25 21:00
こういうサイトもあります↓。
http://shibuya.txt-nifty.com/blog/
この人は本田師父と同じく関西出身、しかも師父の大学の後輩でもあり東大の院に行って天下の文芸春秋社の文春新書から「日本の童貞」(!)という本まで出しているれっきとした学者さんですのでさすがに抑制がきいてますし
あちら↑みたく男の悪口ばっかしでもないですが時々ギラリと尖鋭な男嫌いぶりをひらめかせてまして頭が良くて文章も上手いぶんその切れ味たるや正にガクブルものです。
でもこの人「男嫌い」よばわりされたら怒りそうだなぁ。
投稿: 上北沢 | 2005/03/25 22:35
初めまして。
でも陽子タソの言い分って、男女入れ替えると某都知事の「うっせえババァ!」と一緒になっちゃうんで別物だと思いますがどうでしょう?
投稿: Ryu.Amano | 2005/03/25 22:46