コミックマヴォVol.5

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2005/04/05

【蔵出】アサノのカツカレーについて

【はじめに】ええと、ちょっと忙しくなってきたのでしばらく蔵出しシリーズでお茶を濁します。といっても今回のは11月にmixiの自分の日記でアップした文章なんですけどね。「たけくまメモ」を始めるまでは、mixiにもこういう長文をけっこう上げていたんですけど、最近はすっかりいいかげんな更新になっております。マイミクの皆さんには申し訳ない。

町田に「アサノ」というカレーショップがあるんですよ。
駅から東急ハンズ近くまで歩いていって、ちょっと説明しづらい路地を入った途中にある。カウンター席しかなく、6人か7人でいっぱいになるような小さい店です。

gorubiarimotoaramaki






ここを一人でやっている、70代後半くらいの白髪のじいさんがゴルバチョフに似ているんですがね。目つきが鋭いので拉致被害者の有本恵子さんの父親にも似ている。あとは「攻殻機動隊」に出てくる白髪ハゲの刑事課長かな。それでいつも虚空を睨みながらカレーを作っているわけです。以前は奥さんらしきばあさんもいたんですが、最近は見ません。大丈夫かしらん。

数年前、この店に最初に入ったとき、本能的に「ヤバイ」と感じました。いわゆる「こだわりの店」のにおいがしたからです。昔、吉祥寺に住んでいた頃、伊勢丹の地下にやはり「こだわりの店」があり、ここでは15分から20分くらい店主の「真実のカレーとは何か」という説教を聞かないと、食べさせてもらえなかったのを思い出しました。お客に極度の緊張を強いる店で、店主に怒られつつ食べるカレーは味もよくわからず、その後二度と行きませんでした。

アサノの店主も、鋭い眼光でこちらを睨みつけながら「ご注文は」などという。「あの、チキンカレーを」と言うと、問答無用といった感じで「うちはカツカレーが名物なんだ!」と吐き捨てるように言うではありませんか。間違いない。ここは「こだわりの店」だ。

メニューには
●チキンカレー 900円
●ビーフカレー 900円
●リッチなカツカレー 1400円

とある。何がリッチかわからんが、ちと高いのではないか。

「あの、チキンはないのですか」
「あるけど、カツカレーにしなさい」
「………」

ええ、仕方なくカツカレーを注文しました。店内には俺と店主しかいません。ガチガチに緊張して出されたカレーを食べました。

う、ううまいではないか! これは驚いた。芳醇な香りを発散するカレーをからめたライスを口に含むと、スパイスの小宇宙? っていうんですかね? プチプチと音を立てるような感じで爽やかな辛さが口いっぱいに広がる。それ以上にカツがうまい。やや薄切りのカツはその厚みを含めて研究しつくされた感じで、正直、こんなトンカツは専門店でも食べた記憶がありません。

俺が驚いた顔を親父に向けると、ニヤリとして「この味を出すのに20年はかかりました」などと言う。確かにここのカツカレー、自分のカツカレー人生でもベストと言うしかありませんでしょう。

断っておきますが、俺はグルメではないんですよ。メシなんてガソリンみたいなもので、腹を満たせればいい、味がついてりゃいいってなもので。逆にいえば、こういう味オンチにも「うまいとはこういうことか」と思わせる説得力がこの店のカレーにはあります。

食っている途中で別の客が来たんですが、そいつが「ビーフカレー」と言うと、やはり「せっかく来たならカツカレーを食べな」とか折伏している。この店でチキンやビーフを食べた人っているのでしょうか。

それ以来、俺は月に1~2回くらいのペースでこの店に通っているんですが、まだ一度もチキンやビーフを食べたことがありません。いつの日か、他のメニューにも挑戦してみたいと思うのですが、とにかくこの爺さんの物腰からは、俺の目の黒いうちはカツカレーしか食わせない、という無言、もとい有言の圧力が高濃度に発散しております。

それで本日もアサノでカツカレーを食べたんですが、久しぶりなのでメニューにある「大盛り250円増し」を注文したんですよ。そしたら、

「お客さん悪いね、大盛りは今やってないの」

「え、どうしてですか」
「俺も歳だからね、大盛りはできないんだよ」

年齢と大盛りのどこが関係あるのかさっぱりわかりませんが、とにかくこの店主にとって、カレーの大盛りを作ることはよほど体力を消耗する作業のようです。

よく見ると、最近は店主の動作が緩慢になっている気がする。いや味は変わらないんですがね。もしかするとアサノのカツカレーを食べるのはここ1、2年が最後の…いや、縁起でもないことは言いますまい。

あまり込むと店主が卒倒するんで場所ははっきり書きませんが、午後3時くらいに材料が切れることが多いので、遅くとも午後1時くらいまでに店に行くのが吉かもしれませんね。

◎このエントリへのコメント→★

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コメント

>俺はグルメではない
とお書きですが、カツの詳細な描写などおいしそうな文章です。ホントはグルメだったりして・・・
しかし東京ネタは、地方在住のあたしにとっては目の毒ですね。残念!

投稿: 194ちゃん | 2005/04/05 19:57

「とにかくこの店主にとって、カレーの大盛りを作ることはよほど体力を消耗する作業」に(笑)。
元気にうちに一度は行っておかないと、とソワソワした気分です。

投稿: 佐々木 | 2005/04/05 22:57

正直この手の店は「殿様商売」の感がして気が引けるのですがねぇ。味が良くても居心地悪けりゃ一度っきりですねェ。個人的に。9課の荒巻課長はもちょっと譲歩しますよ、と言ってみるテスト。

投稿: vio | 2005/04/05 23:27

アサノはネットは言うに及ばずグルメ雑誌のダンチューにも
出てる店だから店主も卒倒はしないとおもわれます!

投稿: katsu | 2005/04/05 23:52

はじめてコメントします。
アサノ、知り合いにすすめられて一度いきました。待っている間に、「ダンチュー」の紹介ページを見せられました。チキンカレーを頼んだのですが、カツはすすめられませんでしたねえ。「誰から(この店のことを)聞いたのか?」みたいな質問とかされましたが。

投稿: 廣島屋 | 2005/04/06 00:14

↑え? 勧められなかったですか? それは逆に珍しいような…。たまたまカツが切れていたのかも。

投稿: たけくま | 2005/04/06 01:52

「ご注文は!?」
「あの、えっと…あ、エッグカレーっていうのください」
「エッグカレー!?卵あったかな…(渋)」
数分後
「で!?ご注文は!!」
「あ、あれ?すすいません…(汗)えっと、じゃあリッチなカツカレーの方で…。」
「はじめからそういってよね(怒)!!!」
orz

投稿: なにがし | 2005/04/06 08:29

>あとは「攻殻機動隊」に出てくる白髪ハゲの刑事課長

荒巻部長と呼んであげてください。TV版のほうの中の人はこの役をとても気に入っておられるとか。

投稿: ああ | 2005/04/06 09:48

あさのじゃなくて吉祥寺の方の店には何回か行きました。独特な味だけど、うまいかと言われると返答に困るような気がしましたね。

投稿: mgkiller | 2005/04/06 14:14

↑うーん、だいたいあってるけど、これだと迷うだろうなあ。なにしろ、地元民でも全然気が付かない奴がいるくらいですから。

投稿: たけくま | 2005/04/06 16:57

激しく食べたいのですが、夜型生活者にとって
1時までは厳しく超難関。

ところで、込む→混むでなくてよいのですか?

投稿: jk | 2005/04/06 19:29

あ、もちろん込む→混むでした。

投稿: たけくま | 2005/04/06 20:47

一応常連ですが
実はカツカレー(ポーク)しかここ数年用意してないみたいです
私ももう少し辛いビーフカレーが食べたいとは思うんですが…
後大盛りに関してはカレースープと用意しているご飯の量の問題でやっていないんですよ

あと奥さんはたまに日曜日に居ます、手伝いでサラリーマンって感じの息子も手伝っています

投稿: さぶ | 2005/04/22 21:07

いやあ、懐かしいなあ。町田の予備校に通ってたころ(15年前)よく行ってました。あのころはチキンカレー600円だったかな?

投稿: てるてる | 2005/08/01 00:03

はじめまして。
某今川焼屋を探していたら、
何故か、ここへ辿り着きました。
とても興味あるお店ですね。
ここのカツカレーを是非食べてみたいです。
そして、大盛注文したいです。

投稿: スミス | 2005/08/30 02:50

はじめまして。戯れに「リッチなカレー」で検索したら、ここに辿り着きました。
僕もかれこれ11年通っています。町田に越してきて間もなく、偶然見つけて虜になりました。ピーク時は週に5回ほど、でも飽きなかった! いまは、仕事の都合で月に2~3度です。昔は、大盛りだけでなく、ルーの持ち帰りなんてのもあったし、漬け物をビンに分けて貰ったこともありました。ちょくちょく注文したエッグカレーは、チキンカレーにゆで卵をのせた物でしたが、ゆで卵が切れているときなど、わざわざ目玉焼きを焼いてくれることもありましたよ。
いつだったか狂牛病騒ぎでビーフカレーの注文が激減したとかで、まずメニューから消え、今は体力のご都合で、ポークとカツだけになったようですね。あのチキンは絶品だっただけに、もう二度と食べられないのが残念だなあ。また、一人でも多くのお客さんに食べて貰いたいとかで、大盛りも断られます。
この絶妙の味を継げる人はいないでしょう。おやじさんがお元気なうちに、1回でも多く食べておきたいと思っております。

投稿: knacky | 2006/07/11 01:17

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