そんなに俺は怪しいのか

俺、一人暮らしが長いんですよ。２１歳で家を出てから、途中数年間、諸事情で二人暮らしだった期間を除けば、チョンガー歴２０年ってところですか。普通このくらい年季が入ると料理のひとつくらいなんとかなるものでしょう。ところがこれが全然ダメ。未だにお湯を沸かす以外の行為がほとんどできないのでありますよ。まあ、ご飯くらいは炊けると思いますが、もう１０年くらいまともに炊いたことがありません。

したがって、メシはオール外食。ついコンビニ弁当で済ませることが多いんですけれども、それだけだとブクブク太る一方だし健康も心配ですので、昼か夜のどちらかは運動を兼ねて、チャリンコで町田まで飯を食いに出ることが多いです。アサノのカツカレーとか。

それでまあ、今日も昼飯のためにチャリンコで走っておったのですがね。いるんですよ。待ちかまえておるわけです、前方に警官が。必ず二人組でね。今みたいな季節の変わり目になると、盗難自転車の取り締まりをしているんですね。

これが本当に鬱陶しい。というのは、俺の場合、まず９９％呼び止められるからです。チャリンコ歴は一人暮らしより長いわけですが、昔はねえ、明らかにカギが壊れているとか、夜なら無灯火走行してたとか、そういう切っ掛けがないと止められなかったんですがね。最近はもう、問答無用で呼び止められる。神奈川県警のノルマがきついのかは知りませんがね。それともなんですか、俺の人相が怪しいんですかね。自分じゃわからないんですけども。

ここのところ取り締まり強化月間らしくてですね。連続３日ですよ。特に今日はひどかったです。同じ道を走っていて、たかだか２０分くらいの間に、連続して３回も！　３回ですよ信じられますか？　なぜこんなことになるのか、ちょっと説明が必要かもしれませんね。要するに俺が住んでいる所は、座間市と相模原市の境界線でして、一応住所は座間市なんですが、３０メートルくらい歩くとすぐ相模原市なんですね。

それで、今いるボロマンションの前の道は、米軍の座間キャンプから町田市街まで一本で繋いでいる道でして、つまり町田に行く際には座間市・相模原市・東京都町田市という３地域を必ず横断することになるわけであります。

これを警察的に考えるならば、つまり警視庁町田署と神奈川県警の座間署・相模原署という、計３つの管轄をたかだか２０分の間に通過することになるわけです！　

で、問題なのは神奈川県警なのですが、てめえんとこは不祥事ばかりやってるくせにチャリンコの取り締まりとか、そういうセコイ仕事には特別に熱心でして、こないだからもう何回も何回も何回も職質を受けまして、そのたびに自転車の登録を調べられて俺としてはもうキレる寸前ですよ。でもまあ、国家権力を相手にしても勝てるわけないので、先日、もうやんわりとですね、

「なんとかなりませんか」

と哀願口調で訴えましたところ、そのときの相模原署の警官のあんちゃんがわりと人が良さそうでね。「ちょっと待ってください」と、なんか名刺みたいなカードにボールペンでメモをして、渡してくれました（左図）。

「次に職質を受けたときは、これを提示してください」と。

どうも、これを差し出せばこの自転車は盗品ではないという証明になるようで、こんな便利なものがあるのならもっと早く出してくれよと。

それで、今日の話なんですけどね。今日も今日とて、チャリで町田に向かっていたわけです。そしたらもう、マンション出て十メートルで早速呼び止められました。座間署のポリさんに。でもこっちは余裕ですよ。サッと財布からカードを取り出しましたところ、「あ、結構です」と。あっという間に解放してくれました。カードの威力は絶大でした！

まあ考えてみれば、向こうもさっさとノルマをこなしたいわけだから、明らかに関係ない市民には時間をかけたくないわけでしょう。その意味では、警官側にとってもこのカードは都合がいいんだと思います。

それから町田方向に数分走りますと、今度は相模原署の警官が前に立っている。もう間違いないですね、神奈川県警の本部長あたりから、「今月は一人３０台！」とかお達しが出ているに違いありません。もちろん、速攻でカード提示ですよ。「ああ、お疲れさんですねえ」とか、心にもないお世辞をいってですね。サっとか敬礼のマネしたりして。

なんか水戸黄門にでもなった気分ですよ。もうこれからは自転車取り締まりも怖くはないです。俺には神奈川県警のカードがあるんだから！

と、こう油断していると、思わぬところで足下をすくわれるものです。相模原市の境界からついに町田市に入ったあたりで、なんと３度目の呼び止めをくらいました。町田は東京都ですから、今度は警視庁の取り締まりですよ。俺の長い職質経験の中でも、日に三度、それも三つの管轄にまたがってというのは生まれて初めてです。

そんなに、自転車に乗っている俺は呼び止めたくなるオーラが出ているのか？　まあ、それはともかく。

さすがに俺もイラツキまして、「はいこれ」と、例のカードを示したわけですよ。「もう、行ってもいいでしょ？」と、走ろうとしたら、いきなり警官が前に立ちふさがりましてね。コラちょっと待てと。用は済んでないんだよコノヤロウ、って感じで、無線で交通課かなんかと連絡をとっている。カ、カードが効かない……？　それでカードをしげしげとながめて、俺はあることに気が付きました。

これは……ピーポ君ではない！

神奈川県警の、なんていうのか知らないが黄色い変なキャラクターだ！

そうか、警視庁にはピーポ君でなければ通用しないんだ！

結局盗難車でないことがわかって、すぐに解放されたわけですが、警視庁と神奈川県警がものすごく仲が悪いことがこれで改めてわかりましたね。ひとつ勉強になりましたよ。

まあそれはそれとしても、明日からチャリンコに乗るのがものすごく鬱陶しい今日この頃です。

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