平田弘史先生訪問記(其ノ弐)
本稿「其ノ壱」をアップしてからマゴマゴしておりますうちに、コメント欄が大変なことになってきており緊張に身の縮む思いがする昨今ですが、頑張って続けたいと思いまする次第。それはともかく…
さて離れの作業小屋から母屋に向かおうとした我々ではありましたが、途中のお庭があまりにも立派なのでしばし拝見することになりました。
「そういえば先生のホームページに、天気のいい日は庭で原稿を描くと書かれておりましたね」
「おう、ホームページの写真はここで撮影した。他にも、あっちやこっちで原稿を描くよ。あまり部屋でウジウジしておったら気合いが入らないだろう。劇画家といえども太陽の下で光合成をせねば血行が悪くなる。人間も動物も、太陽の光があるから生きているんだ。だから忙しいと、俺は外へ出るんだよ。部屋にいると、メールの返事を書かねばならんし、ついヤフオクが気になって仕事にならんからな」
「おっしゃる通りですね。私なども気が散る性分で、本当、困ります」
「こちらは家庭菜園ですね」
「これは家内の領域でね。最初は俺も手伝っていたのだが、忙しくてなあ。今ではすっかり家内にまかせてある。ここはサツマイモを植えているが、あちらにはネギを植えたり…」
「これだけ広いと、一家のぶんは十分にまかなえますね」
「無農薬だしな。野菜にしても、時節にかなったものを食べるのは人間にとっていいことなのだ。それより、こちらを見てくれ」
「おや、木が倒れてますね。あ、あちらでも」
先生の視線の先には、ボッキリと折れた庭の樹木が。よく見るとあちこちの木々が痛々しく倒れております。これらはすべて、昨年、伊豆を直撃した台風の爪痕なのだとか。この規模の庭ともなると整備も大変だと思うのですが、先生は基本的に自然に任せて放っておくことにしているのだと豪快に笑います。
「俺があと20歳若かったらなあ。ウチに一台、四駆の軽トラがあるんだが、そいつを改造してトラクターにすれば、こんなものすぐにでも片づけられるんだけど。そこにロープをかけてさ。…さすがに歳には勝てないな、ハハハ」
こういう場合、普通の市民が真っ先に考えるであろう「業者に依頼する」ということなど、髪の毛の先ほどにも考えないのが先生の先生たるゆえん。ちなみに、台風直撃によって起きた「いいこと」もあったとか。
「台風で梅の木も倒れてくれたのでな、こうして手を伸ばせば梅の実が採れるようになった。倒れてもなお、実をつける……自然の摂理だな」
「都会に住む私には、何から何までうらやましい生活です。先生、ここは天国みたいなものですね」
「まあな。締め切りさえなけりゃなあ……俺の人生はあれで毎回地獄を味わっておる……なんで劇画なぞはじめてしまったのか……」
「では締め切りがなければ、気持ちよく劇画が描けますか」
「誰が描くか。俺はもともと、家族を養うために、カネになりそうだから劇画を始めただけで、絵を描くなんて大嫌いなんだよ」
「それでも描かねばならないとは……。まさに業ですね」
←『平田弘史のお父さん物語』より。劇画という苦行を選んでしまったがゆえに、毎回毎回カルマに苦しめられる平田先生の魂の叫びがスパーク!
「時に先生、ヤフオクの達人と伺いましたが、秋葉原には今でも行かれますか」
「アキバか。杉並にいた頃はちょくちょく行ったが、すっかり行かなくなった。伊豆に越してから18年だから、そのくらいは行ってない。今はほとんどヤフオクだ」
「では先生、今のアキバに行かれたらビックリしますよ。もはや別の街と言ってもいいくらいです」
「最近はあれだろ、家電量販店が進出してるんだろう」
「イエ、もはやそのようなレベルではございません。今はパソコンショップだけではなく、男が描いた少女漫画のようなチャラチャラした絵柄の漫画や、アニメのDVD、エロいTVゲームなど、そういうのを好むオタクと呼ばれる若者が大量発生しておりまして、そいつらに街全体が占領される勢いで」
「なんと、アキバがそんなことになっているのか?昔は電器パーツのジャンク屋がたくさんあって、宝の山だったんだが」
「もちろん今でもジャンク屋もパーツのお店もございます。が、それらロマンを感じさせる男らしい店は片隅に追いやられ、最近ではフィギュアと称して軟弱アニメのエロ人形を専門に扱う店が中央の通りにまで進出する始末」
「なにィ? イヤだねえ、俺は大嫌いだッ! ああいう軟弱漫画ばかりが増えるから青少年がアホになるんだ」
「御意」
「最近はやりの、ホレ、癒しとかいう言葉があるだろう? 何が癒しだ! ふざけるな!」
「仰せの通りで。親の脛かじって軟弱アニメにウツツを抜かし、癒しも糞もないものです」
「世の中そんな甘っちょろいものではない。人生は厳しいんだよ。俺はな、この世に癒しという言葉がある限り、金輪際、誰一人として癒されないような熾烈でハードな劇画を描いてやろうと思っているんだ!」
「それでこそ先生! まるで『薩摩義士伝』の表紙絵のごとく、今こそ腑抜けた世間の横っ面におのれの臓物をたたきつけて覚醒させねばなりますまい! そのための平田劇画! だんだんエンジンがヒートアップして参りました! 全国のファンは、先生の今のお言葉を聞いて涙を流していますよ!」
「俺のファンなんか2,3人いればいいんだよ!それよりもな、若者だけではない、大人も腑抜けておるから、中国には追い抜かれるし、JRの脱線事故も起きるんだ。とにかく大人も子供も全員がたるんどるよ!」
と、エンジンがかかりきったところで、ようやく我々は先生の母屋へとお邪魔することができたのでした……。
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コメント
平田先生の言説は最高ですね。
特に「癒し」の件は全く同意です。「癒し」を求める人間の心根ほど卑しい物はないと思います。
其の参にも激しく期待!
投稿: jwtoshi | 2005/05/07 11:33
かつて『アフタヌーン』に連載されていた際に、そのアオリ記事などで僅かに平田先生の達人ぶりを読んでいたのですが、今回のシリーズは本当に凄い。名言の連続に頭がクラクラします。「大人も子供も全員がたるんどるよ!」全くその通りだと思います。竹熊さんが添えられている画像のセレクトも最高ですね。
投稿: ポン一 | 2005/05/07 11:54
こんな熱い好漢がよく「萌え」なんていう色紙を揮毫してくださったものですね。
投稿: | 2005/05/07 11:59
気合が入ります!
中段あたりからの画の流れが最高(笑
「お父さん物語」読んでみようと思います。
投稿: syuu | 2005/05/07 12:40
> こんな熱い好漢がよく「萌え」なんていう色紙を揮毫してくださったものですね。
大使閣下の料理人という漫画に「本物のフレンチシェフが卵かけご飯を作ったら、卵かけご飯がフレンチになる」という言葉がありました。
本物の好漢が書けば、「萌え」なる語も実に男らしい揮毫になり得るのだなと。上記の話も私は単純に漫画のお話と受け止めていましたが、この揮毫を見せ付けられてこの様な事が実際にあるのだなと再認識。いやはや眼福。
投稿: Sword | 2005/05/07 12:57
大嫌い!!
と言えるくらいに好きという
この境地。
スゴイです。
アキバより萌えてますね平田先生っ!
ああ、早くマンガなんか
大嫌いになりてぇ~~~ッ!
投稿: 長谷邦夫 | 2005/05/07 12:59
母屋に行くまでに、こんな熱いドラマがあったとは…。
熱い、熱い、熱すぎるぅぅぅ~。
これ以上、平田先生のエンジンが掛かると、どうなるんだろう?。
考えただけでも恐ろしい(ワクワク)。
投稿: 人(hito) | 2005/05/07 13:13
そういえば自社の軟弱アニメのエロ人形を出してる会社に
取り入って うまいことやった編集家がいたよね、、、
http://www.gainax.co.jp/goods/figure_00/
投稿: | 2005/05/07 13:29
もしかしたら、我々に「格好いい」と言われるのは平田先生にとって本意ではないかもしれませんが、それでもあえて言いたい。
平田先生、格好いい!!
さっそく先生の著作を(もちろん新品で)注文させていただきましたっ…!
投稿: akame | 2005/05/07 14:12
「俺のファンなんか2,3人いればいいんだよ!」
硬派だ・・・。
投稿: | 2005/05/07 15:27
>>俺のファンなんか2,3人いればいいんだよ!
格好良すぎるのですが。
投稿: FSR | 2005/05/07 16:12
「萌え」もいいですが、「●ヴァ」も総括してくださいよぉ、竹熊センセー。
投稿: | 2005/05/07 16:13
格好良い・・・(笑)。
投稿: tomonyo | 2005/05/07 16:20
もうこの感動をどう表現していいかわかりません。「平田先生の道」を日本の義務教育は必須科目に採用するべきです。エコとか癒しとか軟弱なこと言ってるんじゃねえ! と私の魂が覚醒して騒ぎ出しております。素晴らしいレポートをありがとうございます>たけくまさん。あ、そういえばマッケイの講座行けなくて残念でした。妻がマッケイのすごさに感動しておりました。
投稿: ツキモトユタカ | 2005/05/07 16:56
>金輪際、誰一人として癒されないような熾烈でハードな劇画を描いてやろう
ひっ…平田先生っ!( TДT)
感動しました!
竹熊さんのサポート具合も最高です。∩( ・ω・)∩
投稿: 本田 | 2005/05/07 17:13
あはははは...また来ちゃったよ。
〆きりキツイと、つい逃げですね。
ほんとにフアン2.3人じゃ飯食えないよね(^^)
世界各地に熱心な人が2.3人いると、広まる.....って事なのね。
投稿: 弘史左衛門 | 2005/05/07 17:24
↑これからが平田先生の時代ですよ!
あと、上のほうで「エヴァ」の総括うんぬんとおっしゃっている方がいますが、最近出た拙著『ゴルゴ13はいつ終わるのか?』の後半部分でキッチリやっておりますので、よろしければそちらをご覧ください。
投稿: たけくま | 2005/05/07 17:34
あ、そうそう、例のインドの
山松サンの件は~
其の参ですか。
投稿: 長谷邦夫 | 2005/05/07 17:38
>俺はもともと、家族を養うために、カネになりそうだから劇画を始めただけで、絵を描くなんて大嫌いなんだよ
等と韜晦するのもカッコイイっす。
あれほどの凄い画力と絵の正確さですから、マンガにかける情熱たるやハンパではないでしょうに。
画力は元々天才的な人も多いですが、史料を集めるのはそれこそ地道な努力あるのみでしょう。
ただこういう熱い人は他人だと尊敬出来るのですが、自分の父親だったりするとちょっと大変かもな~と思ってしまった。自分軟弱者なんでw
投稿: レポレッロ | 2005/05/07 17:47
>長谷先生
山松さんのところには、この14日に行くことになりました。報告はそれ以降になります。
投稿: たけくま | 2005/05/07 17:48
「なにィ? イヤだねえ、俺は大嫌いだッ! ああいう軟弱漫画ばかりが増えるから青少年がアホになるんだ」に全く同感です。
私も軟弱漫画は大嫌いです。最近の世の中はなぜあのような絵柄ばかりになってしまったんでしょうか。
投稿: Sousuke | 2005/05/07 19:37
”軽トラを改造してトラクターに”のくだりで1/1ボトムズの人とガチさせたら面白いんではと感じてしまいました。
投稿: fot | 2005/05/07 20:47
何気なく「弘史左衛門」と書き込みがありますが・・・・。
顔文字を使ってらっしゃる・・・。
投稿: エッグマン | 2005/05/07 21:37
上記のコメントにもありましたが
画像の流れ具合に唸りました
「ファミ通のアレ(仮)」を彷彿させるスピード感
平田先生が「テーマ」であり
竹熊氏が「竹熊さん」なら
画像が「純子くん」
自分は「国領さん」と「読者」を
しかも日刊ペースで無料。
凄すぎる!!!
投稿: 名も無き職工 | 2005/05/07 23:34
シャイだけどサービス精神いっぱいの
弘史左衛門先生ばんざい!!
劇画しらずの人々にむけて
誰か映画化してくれるといいのになぁ・・・
投稿: 名無し | 2005/05/07 23:36
萌えも平田弘史も好きな俺はどうしようかな…
投稿: | 2005/05/08 00:32
すごい、熱すぎます!!!!たけくまメモ。
ほんとにほとんど日刊でこの内容の濃さ。
需要にガンガン供給する事を惜しまなく耐える事なく様々に飛び回り
ハードスケジュールであろう中、ドドン!ドドン!!とと見せていってくれる
竹熊先生、今本当に尊敬感じています。頑張って下さい。応援してま〜す!!
お体ご自愛…とか あえていわないほうがいいですよね(>_<)
平田先生から漢名言聞かせていただけた この流れで!!
エンジンかかってオーバーヒート鼻血どばどばレベルになってゆくであろう次回、
いっちゃってくださいーー!きちゃってくださいーー!
投稿: m | 2005/05/08 03:23
↑ありがとうございます。最初はもっと簡単にやるつもりでしたが、この調子だとあと3回くらい続きそうです。
私も別件の締め切りが迫ってきましたので、ここから毎日更新はいかないかもしれません。他の小ネタをはさみつつ、今週中には完結させるよう頑張ってみたいと思います。
投稿: たけくま | 2005/05/08 03:44
平田先生は、アフタヌーンの「大合作」(←萌え満載)にも参加されていたような…(笑
それはともかく、おそれおおくも畏くも、「承前」について指摘した名無しはワタシでございました。名無しで失礼しました。
投稿: 鶴見六百 | 2005/05/08 07:22
『大合作』の平田先生パートは面白かったですね。
ネタ自体はトニー氏によるんでしょうが、サービス精神を感じました。
投稿: ポン一 | 2005/05/08 08:06
本を買え
とか言わないで、
ぜひ、このたけくまメモで
エヴァという宗教にはまってた頃のオレ
を語ってほしいですね。
投稿: | 2005/05/08 12:13
本買えよ
投稿: nu | 2005/05/08 13:18
ハレルヤ7号がどうしたとかより、読者もそういう話を知りたいんじゃないですかね。インチキ宗教の片棒を担いでいた、竹熊さんの今の心境を。
投稿: | 2005/05/08 15:17
みんなが読みたいモノはすなわちそれだけの商品価値のあるものなわけだから、ただねだるだけではイカントモナントモ。
原稿料表があって、一口100円ぐらいで何万溜まったら書くとかあったらよいのに。
投稿: のん | 2005/05/08 18:56
> ハレルヤ7号がどうしたとかより、読者もそういう話を知りたいんじゃないですかね。
> インチキ宗教の片棒を担いでいた、竹熊さんの今の心境を。
お前だけだろそんなの書いてるの。
多くの人はハレルヤ7号よりも、エヴァの総括の話よりも、現代に生きる侍の如き男の話を聞きたがっていると思うのだが…錯覚かね?
投稿: Sword | 2005/05/09 03:02
なんで今さらエヴァの話を皆が読みたがっていると思うのかが分からん…。
投稿: ポン一 | 2005/05/09 05:26
禁煙に成功したやつがやたら喫煙者を断罪するようになるような感じか
そんなことより平田先生訪問記の続きを……!
投稿: | 2005/05/09 20:41
感動しました。
いいかげん、アニメや漫画から卒業しないと駄目だな
投稿: | 2005/05/09 23:18
ちと本業の締め切りがあるので続きは今しばらくお待ちを…。もう其ノ参のネタは固まっておりますゆえ。
投稿: たけくま | 2005/05/10 01:31
何というか「電波祭」から戻られた深夜に、しかもお仕事の締め切りの前に、きちっとコメントを出す竹熊さんの律儀さに敬服致します。
投稿: gonzap | 2005/05/10 03:23
>俺のファンなんか2,3人いればいいんだよ!
はーい。じゃ、4人目くらいに入れておいて下さい。
(古くからの弘史左衛門ファンに叱られそうですので)
何でも作っちゃうモノ作りマニアの弘史左衛門先生から目が離せません。
自作映写機というのが孤高の道をいってますよね。
自作マニア道としては模型方面は良く聞きますが…
スチームエンジン模型とか実働空冷星型エンジン模型なんて「ちゃんと働く機械でないとツマラン」と仰るのかもしれません(笑)
投稿: nomad | 2005/05/10 23:30
平田先生の「お父さん物語」買わせていただきました。
面白すぎです!特にここにも貼ってあった「53歳のオヤジが・・・」の実物を見た瞬間爆笑しました。いイ~~~~~イのです。
しかし一番驚いたのが、これが1990年に連載されていたということです。
最近の漫画雑誌はエロばっか!とか中国も幼児性が抜けてねえ!とかイラクと自衛隊問題について描かれていたので、てっきり最近のものだと思って読んでおりました。
先生が10年以上前に気づいていたことに最近ようやく世間が追いついてきたということなのでしょうか・・・。(この時は「ヤンマガはちがう!」と言われてましたがいまやもう・・・)
そういう意味で、まさに今、新装版が出ることは非常に意味のあることだと思います。
ぜひ21世紀版お父さん物語も読みたいものです。
投稿: 荻 | 2005/05/21 13:40
平田せんせのマンガが急に読みたくなって検索してたらたどり着きました。
「俺のファンなんか2,3人いればいいんだよ!」全然いなくていいとまでは言い切らないところがかわいいですよね。ではでは。
投稿: | 2005/06/27 12:27