コミックマヴォVol.5

« 本田透君の逆襲 | トップページ | ぬるいアニメ絵 »

2005/09/17

津堅信之の『アニメーション学入門』

Amazon.co.jp:本: アニメーション学入門平凡社新書 (291)アニメーション学入門

 ここのところ友人知人の新刊ラッシュであります。昨日は本田透君の『電波大戦』を紹介しましたが、今度は津堅信之さんだ。

 津堅さんは本格的なアニメーション史の研究家であります。オタクとかマニアとかコレクターとか職業批評家・宣伝家はたくさんいますが、本格的な歴史研究者というと数が少ない。なぜか。マスコミ的な需要が少ないからです。

 当たり前の話ですが、マスコミは商売でマスコミをやっているので、読者の需要がない=商売にならないという論理で、専門的な文章は敬遠されるきらいがあります。まあそれは、オスカー・フィッシンガーとかノーマン・マクラレンとかUPAとか久里洋二の素晴らしさをいくら述べたところで、そういうのを好むのはそういうのを好むマニアだけなので、作品はDVDにならなかったり、なってもバカ高かったりでそもそも見ること自体に敷居が高いわけです。

 一方でガンダムシードとか夜中にやっている萌えアニメなんかは需要がはっきりしているので商売になりやすい。同じアニメなのにこの違いはなんなんだと俺なんかは思うわけですよ。

 まあアート系アニメは美大生が特に好むというか、いわゆる「サブカル系」ということで食わず嫌いをされる人がほとんどなんだろうなと思います。俺なんかもかつて(1970年代後半)くらいまでは、テレビアニメしか見ていませんでした。アート系は東京や大阪でたまに上映会がされるくらいで、そもそも見ることが困難でしたしね。でも実際見ると面白かったりして。特に第一次アニメブームの時は、ブームに乗って粗製濫造されたテレビアニメばかりで、俺なんか見るのが苦痛になってましたから、そんなときに出会ったアート系の世界は、新たな発見って感じでよけいのめり込んだんですね(このへんの話は拙著『ゴルゴ13はいつ終わるのか?』の後半部分でたっぷり書いております)

 なんだかんだいってアニメ自体は卒業しなかったのがアレなんですが。まあ、今、そのとき仕入れた知識で仕事(大学講師)やってるようなものです。

Amazon.co.jp:本: 日本アニメーションの力―85年の歴史を貫く2つの軸

 閑話休題。それで津堅さんなんですが、この人俺より8歳若いんだけど本格的な研究者です。とはいえ大学の研究室でコツコツと…というタイプではなく、生活のための別の仕事をしながらコツコツと研究を続けていたタイプ。今ではアニメ評論でも仕事が来るようになって、この春から大阪芸術大学の非常勤講師にもなりました。昨年処女単行本『日本アニメーションの力』(NTT出版)も上梓されました。

『日本アニメーションの力』も入門書でしたが、いささか定価が高かった。その点、今回の平凡社新書は本当の意味での「入門書」であります。現在90年の歴史を誇る日本アニメが置かれている状況を、世界の趨勢をもふまえてできるだけ系統立ててわかりやすく概観した本で、これ一冊で基本的な流れは掴むことができます。

 こういう本、実はありそうであまりないんですよ。60年代に森卓也の『アニメーション入門』があり、70年代末に渡辺泰と山口且訓の『日本アニメーション映画史』、あとアニドウが編集した『世界アニメーション映画史』(PULP)、それから80年代末にアニメージュから出た『劇場アニメ70周年史』『TVアニメ25年史』くらいじゃないでしょうか。このうち『世界アニメーション映画史』以外はすべて絶版。まともにアニメ史を学ぼうというときに、主要参考文献の大多数が絶版というのが、わがアニメ大国の現状であります。TVアニメ以降の文献なら死ぬほどあるんですけど、それ以前のものまで含めたトータルな歴史書となると、本当に少ない。

津堅さんに最初に会ったとき、いわゆるマニア色やオタク色はあまりない…というか全然なくて、誠実な研究者という感じが、その佇まいからも伝わってきました。マニアと研究家の違いはなにかというと、可能な限りレアで他人に自慢できるものを渉猟するのがマニアであって、可能な限り正確な全体像をつかもうとするのが研究家でしょうね。もちろん全体を調べる過程でレアなものにもぶち当たるんだけれども、後者にはそれが目的ではないわけで。

 ある意味、津堅さんのように地味なんだけども重要な仕事をしている人にも、徐々にスポットが当たってきたようでこちらとしても嬉しい限りであります。

 この『アニメーション学入門』で書かれている内容は、およそアニメを歴史的に、あるいは理論的に語ろうというときの基本中の基本でしょう。古典から海外、TVアニメ以降の日本アニメに至るまで、よくもまあここまで詰め込んだものだと感心した次第。ただしある程度アニメに詳しい人にとっては、新発見や独自の知見に乏しいと思うかもしれませんが、そこは著者も承知のうえだと思う。一般教養の新書としては十分合格点でしょう。

 あと著者らしいところは、冒頭から「アニメの定義」にこだわっているところで、しかも「アニメーションを完全に定義することは不可能ではないかと思われる」とまで書いているところ。かつては静止画(物)を1コマ撮りすることがアニメの技術的定義だったが、近年のたとえばCGアニメなどで、これに当てはまらないものが続々出てきているわけです。「アニメとは何か」なんて、ふだんは誰もあまり考えないでしょうから、この機会に考えるのもいいかもです。

 最後の年表ですが、津堅さんならではの充実ぶりで、これだけでも資料価値があって便利です。大学でアニメを学ぼうという学生には必携の本だと思います。安いし。

|

« 本田透君の逆襲 | トップページ | ぬるいアニメ絵 »

アニメ・コミック」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

津堅氏の本、前著より目次が面白そう
ですね。きっちり整理が出来ていそうで
期待していました。
前の本は、何となく前後するというか、
ぼくには、全体の流れがいい感じでは
なかったんですが…。

こうした本が新書で出るのもいいですね。
ぼくも秋の学期から半期でアニメ史みたい
な授業をやりますので、生徒にも推薦
したい。

渡辺泰さんの本は、彼らしく徹底的に
データが調べつくされていて、すごい
本ですよね。
毎日映画コンクールで、毎年お会いして
いるんですが、彼はマンガファンとしても
昔のことを良く知っています。
徳南晴一郎のアマチュア時代の
作品などの資料も持っているくらい。

そしてディズニー・おたくでは
多分彼がトップでしょう。
そのコレクションの全貌を見て
みたいものです。
たま~に審査会に、デズニーの
サインなんかを持ってきて見せる
んです。わ!!って驚きデス。

投稿: 長谷邦夫 | 2005/09/18 00:33

彼の前作はあまり買えないでいます。手塚と宮崎を両極にアニメーションを分類していくというのは、なんだか虎と獅子を両軸にして陸上動物をカタログ化していくのと変わらない愚行に思えてならなかったから。

思うんですが旧東映ラインのものはアニメーション史として扱うべきだとしても、『アトム』らは漫画のTV進出史として論じないとおかしくなるのではないでしょうか。

投稿: ああ | 2005/09/18 01:29

実のところ、TVアニメーション近代史にしてもマトモな本ってあるのでしょうか。東映史観みたいな大塚康生氏の情報を元にする流れではヤマトがでてこないし、富野監督を軸にすればサンライズ史になっちゃうし、そのくせマクロスがでてこない。有名どころを掻い摘んだものではどの作品もポンとでてきて流れがつかめない。

劇場アニメだけでみても1984年に王立宇宙軍とビューティフルドリーマーと風の谷のナウシカと愛おぼえてますかが上映されてるんだけど、この辺を個々として語れてもトータルな歴史として語れてる書って無い感じがします。

投稿: zozbug | 2005/09/18 04:56

>東映史観みたいな大塚康生氏の情報を元にする流れでは

けっこう容赦のない性格してますからね~あのおじいちゃん

投稿: ああ | 2005/09/18 06:36

そこのところは結局、ある程度以上業界の中核に近い所にいた人間が「書いて遺して」おかねばならない問題化しています。しかも結局一人では無理で、複数の人間・関係者が関わる形でないとまともなものにはならないと思っています。今後10年の課題というところでしょうか。ただ「商業的要請」の問題もあって、一朝一夕には片付かないのも事実なのですが…。

投稿: ビリー | 2005/09/18 23:38

↑、綜合的で批評的な、近年のアニメ史と
いうのは、本当にむずかしいでしょうね。

それだけに、渡辺泰さん流の(あの本以降
の)しっかりしたデータ本が、まず必要で
しょう。各論を読むときに、その本が全体
状況をおさえてくれていれば、細部への
批評や論考も、理解しやすくなるはずです。

投稿: 長谷邦夫 | 2005/09/19 08:01

>劇場アニメだけでみても1984年に王立宇宙軍とビューティフルド
>リーマーと風の谷のナウシカと愛おぼえてますかが上映されてる
>んだけど、
(改行しました)

「王立」は87年だったと思いますが、記憶違いかもしれません。

投稿: 匿名 | 2005/09/19 10:42

王立は87年ですね。

投稿: たけくま | 2005/09/19 12:12

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 津堅信之の『アニメーション学入門』:

« 本田透君の逆襲 | トップページ | ぬるいアニメ絵 »