「うつうつひでお日記」に見る物書きにとっての恐怖
吾妻氏の新刊「うつうつひでお日記」、正式発売日は週明け10日なんですが、すでにアマゾンや一部書店でも入手できるらしい。今見たらアマゾンで42位と、さっそく売れているみたいです。よかった。
ただ、前のエントリのコメント欄でも書きましたが、本書は『失踪日記』の正式な続編ではありません。続編は、アルコール中毒の闘病をテーマにした『アル中病棟』で、前作と同じくイーストプレスから出版されます。角川から出た今回の『うつうつ』は、地獄の闘病生活から脱出した後の「平穏」な日々をしたためたマンガ日記でありまして、一度作者自身が出した同人誌を中心にまとめたものです。まあ、主人公は同じですので続編といえば続編なんですが、エキセントリックな描写は今回ほとんどありませんので、注意してください。
とはいえ、この表紙だったら続編と勘違いされても仕方ないよなあ。角川書店、明らかに意識して売りにかかってますね。でもまあ、この本も『失踪日記』とは別な意味でとても面白い本なので、どういうかたちにせよ売れるに越したことはないです。
それで今度の本で俺が面白かったのは、たとえば前回エントリでも少し紹介した、『失踪日記』出版に関する部分なんですがね(本書は、『失踪日記』が出版される直前までの日記で終わっている)。けっこうあちこちに、吾妻さんが版元と交渉して「断られる」描写があるんですよ。これが同じフリーの物書きとしては、いちいち身につまされる。つか、俺自身、何回も似た体験をしているもので。
たとえば左のコマみたいな。これは、『失踪日記』のベースとなった『夜を歩く』を連載していたコアマガジンのHさんから、「他社の売上げがネックになって、企画が通らない」ということを電話で告げられるシーン。それで吾妻先生、「最近なんかよくこの売れゆきデータのことが他社に全部つつぬけで指摘されることが多い……前にもあったな」とつぶやいて、
←その前の話を思い出す。「俺だって売れゆきなんて教えてもらってないのに……なぜ」と。
このあたりの描写、一般読者にはよくわからないかもしれないが、もの凄くリアルです。俺も、前の本の売れ行きが悪かったことを理由に、ある本の出版を断られたことがありました。それも複数の版元から。ところが著者である俺は、その本が具体的に何冊売れたのかまったく教えてもらってないので、納得する以前に、気味が悪いわけです。まるで業界全体に「あいつの本は売れない」と回状がまわっているような感じで。
たとえばサラ金の場合、借り主のデータが即、業界全体に回るシステムになっていて、初めて行った店であっても「こいつは他社からいくら借りている」ってのが筒抜けになってますよね。金融業者間には顧客の債務状況とか、信用状況を調べる専用のデータベースがあって、その場で検索できる。
なんかサラ金のあれに似たシステムが、ここ10年くらいの間に出版業界で密かに整備されていたみたいなんですよ、著者たちの知らないうちに。
紀伊国屋の売上げデーターベースとか、取次のデータなんかが会員の版元には閲覧できるらしい。まあ、ここ10年の出版業界全体の落ち込みを見ていると、売れ行きで作者のランクを決めて、次の出版の目安にすることは分からないではないですよ。昔から「出版はギャンブル」と言われるわけですが、完全にギャンブルになってしまうと、ビジネスとしてはさすがに立ちゆかないわけでしょう。
著者としても、具体的なデータで示されると、そりゃ引き下がらざるをえない。たとえどんなに「俺の本は面白いのに」と思っていてもですよ。「売れない」という厳然たる事実の前には説得力を持ちません。しかしその結果、売れる著者の本は優遇されるのでますます売れ、売れない著者の本は、冷遇される以前にそもそも出せない。ということになります。
資本主義の原則としては、しかたがないと思われるかもしれないが、しかしこれは、「売れない=つまらない」ということでは、必ずしもないことに注意するべきです。世の中には、すごく面白いのに、全然売れない本というのもあったりする。この場合の面白さとは、たぶんほとんどの場合は「一部の人にとって面白い」ということなのでしょうが。
でもそれ以外でも、版元がデータ主義にとらわれるあまりに「見落としてしまう」事例というものがたくさんあるわけです。そして、まさに『失踪日記』がその典型的ケースだったといえます。「内容が面白く、しかも一般性があるのに、過去のデータにとらわれて出版を断念されてしまう」というケースですね。
最終的に出版を決意したイーストプレスのKさんにしても、『失踪日記』が売れるとは、まったく考えてなかったということです。しかし、『失踪日記』が傑作であることは、まともにマンガを読む目がある人にとっては明らかなことです。たんに吾妻個人の傑作というより、歴史に残る作品だといってもよい。
こういう作品を前にしたとき、出すか、出さないかは、編集者にとってのもっとも重要な決断だといえるでしょう。これこそが「出版はギャンブル」と呼ばれるゆえんでもあります。もちろん売れること、最低でも赤を出さないよう配慮する必要はあるわけですが、そこも編集の手腕といえる。『失踪日記』に関しては、僕が知る限りでも、近年稀にみる「爽やかなギャンブル」でありました。
いい作品が、純粋に内容の力で売れた
わけですから。そしてこれは
俺みたいな売れないライターのとっての希望の光
でもあります。それにしても『うつうつ』のあとがきにある、本が売れてからのマスコミの「てのひら返し」ぶりには笑った。いや、ホントに、そういうものなんだよなあ。まあ吾妻さんはあくまでマイペースでやっているみたいで結構ですが。
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コメント
早速買って第一話のネームのくだり読んでみていて思ったのですが、このシニカルなオタネタは久米田康治に通じるものがあるのは気のせいでしょうか?
投稿: 1026 | 2006/07/08 15:52
絶望した!
発売前なのにみんなすでに読んでいることにっ
絶望した!
>>売れる著者の本は優遇されるのでますます売れ、売れない著者の本は、冷遇される以前にそもそも出せない。
ロングテールが、今の現状を変えてくれるといいですねぇ。
読者も色んな作品に触れたいし。
投稿: 情苦 | 2006/07/08 16:43
新井素子さんと吾妻さんの「愛の交換何とか」という本少し興味があるのですが面白いですか?
投稿: たにしんいち | 2006/07/08 17:34
書籍の部数に関しては、「業務・製作」を通して、「印刷所」から部数を「販売」「編集」が知る、というのが基本的なパターンなんです。奥付に印刷所が書いてあって、それが大日本とか共同印刷とか、大きいところで、そこと取引をしていたら教えてもらえるわけですね。ただ、「部数」は知ることはできても、「売れ行き」までは不明なんで、それはどうやって各社は知ってるんでしょうねぇ。
投稿: 匿名さん | 2006/07/08 17:41
今時POSを入れていない書店はないし、バーコードやISBN番号を入れていない本もありませんから、本の売れ行きはリアルタイムで集計されています。
勿論、返本期限が来るまで正確な実売部数というのは分からない訳ですが、大規模書店やチェーン展開している書店のPOSデータなら。最終的な売れ行きとほぼシンクロします。
取次はそのデータを元に扱い部数や配本パターンを決めている訳で、その情報は当然出版社にもフィードバックされています。
投稿: 花筏 | 2006/07/08 18:41
何年か前に、ある編集さんと仕事でやり取りしたことがあります。
そのとき、あるすごくマイナーな本を例に出したのですが、
後にそのエディターさま (たぶんたけくま先生もこの方を知っている)、
その本の実売部数を具体的に挙げてきたことがあります。
ほかの社の本ですよ。
とても丁寧な方でした。
でも、そのときはあまり深く考えなかったけど、
そっか、出す側にすればデータは握っているわけですね。
投稿: Aa | 2006/07/08 19:25
> 「愛の交換何とか」
「ひでおと素子の愛の交換日記」のことでしょうか。
俺は44歳ですが、そういう世代にはおもしろいでしょう。
新井素子が美少女作家としてもてはやされ、作品も次々出版されたあの頃、美少女とオタクマンガ家の交換日記はそりわそりわほのかな劣情をアレしたものです。
投稿: nomad | 2006/07/08 19:46
いや、「失踪日記」で思い出したことが
作中で「エイリアン永理」のコミックに
入院前と退院後の両方の原稿が入っている
と書かれていたので、是非に読みたいと思い
新宿紀伊国屋のコミック売り場を尋ねたところ
なんと置いてなかったので、注文してきたのですが
(もう「失踪日記」がバンバン売れてる頃です)
俺なら、版元に発注かけて、一緒に平積みにして
ポップを付けて売るんだがナァと、おもいました
投稿: 流転 | 2006/07/08 21:11
毎回、コアマガジンHさんの
爽やかな笑顔でがっかりなお話描写に
もの凄く恐怖を感じます(笑)
身を削って作り出したものが
こんな感じで拒否されたら
精神的に追い詰められるのもむべなるかな。
投稿: 恣意茸 | 2006/07/08 21:51
「ひでおと素子の愛の交換日記」は、新井素子さんのアッパーでシュールなエッセイと、吾妻ひえおさんのシュールでダウナーなイラスト、これに秋山さん(?)という担当編集者のエキセントリックな人柄が反映された、なかなか面白い本でした。
業界内輪ネタものの走りのような作品ですが、時代性の影響が大きく、今見て面白いかは……
投稿: 西麻布夢彦 | 2006/07/08 21:53
新刊つながりで、
『ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記』
『「オタクinUSA 愛と誤解のアニメ輸入史」いよいよ発売!』
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060707
↑これも、『うつうつひでお日記』も、面白そうなんですが、
問題は、私に金が無い(泣)
(そろそろ『猿漫』の方出るだろうし…)
投稿: naga | 2006/07/08 22:12
僕の住んでる高知県に「うつうつひでお日記」が来るのは多分、本州よりも二、三日遅れるかも。
PS.「叛逆の家紋」は大事にもってます。なんたって舞台は高知だから。
投稿: ヨシリン | 2006/07/08 22:16
成功者が等比級数的に成功して、実績のない新人や、一度失敗した人がチャンスをもらえないというのが資本主義の特徴ですね。
そんな中で、作品の力でカムバックを果たした吾妻先生は、多くの人に勇気を与えたでしょうね。
ビジネスの世界でも、ときとして逆境にある「負け組」が、創意と熱意で逆転を果たすことがあり、それが世の中に希望をもたらすのだと思います。
それだけに、ボクは、ビジネスを弄んだ、ホリエモンやMAC村上には憤りを感じるのです。
まあ、このエントリーからはずれてますが……
ともあれ、竹熊先生の眼力で、吾妻先生の作品を発掘できた今回の話は、ええ話やぁ~
(´;ω;`)ウッ…
投稿: 西麻布夢彦 | 2006/07/08 22:22
どの本が何冊売れたのかという情報が著者にフィードバックされない
とは知りませんでした。「売れる売れないなど知らん」という作家さ
んならともかく、「より多く売れるように」を念頭に置きながら書い
ている人も多いでしょう。どう書いたらどう売れたか、が分からない
と辛いのでは…?
あと、著者ならば印税から売り上げを逆算できるのではないかと思う
のですが、実売ではなく刷り部数計算なのでしょうか。
投稿: 99 | 2006/07/08 23:06
刷り部数計算です。
小さい版元だと、実売計算というところもありますが。
投稿: な | 2006/07/08 23:16
ある編集者がPOSデータを元に、具体的な書名を挙げて部数について
語っているのを聞いたことがあるのですが、
その話によると、自社だけでなく他社の商品のデータも閲覧できるようですね。
まぁそれだったら出版社だけでなくライターや漫画家も
データを閲覧させてくれてもいい気がしますが。
投稿: | 2006/07/08 23:28
小林信彦氏の「悪魔の下回り」で、売れ数についての箇所がありましたねぇ。
作家は知らない方がいいみたいです。(^^;)
投稿: てんてけ | 2006/07/08 23:41
初めて書き込みします、本屋勤めの者です。
『失踪日記』はここのおかげで早期に手配をかけられたので品切れを起こすことなく順調に売ることができました。感謝!
…で終わればいいのですが、なるほど日の目を見られないどころか世に出ることができないというのは如何ともし難いですね。年々返本率が上がりつづけ売上額は下がっている業界ではどうしても効率を追求してしまうのでしょうが残念な状況です。
売れすじ優先配本に辟易している身としてはおもしろそうな本は大歓迎なのですが。
投稿: A書店勤務 | 2006/07/09 00:43
竹熊さんも、失踪して、ホームレスして精神病院にはいったあと、竹熊失踪日記を書けば売れると思うけど…? こういうものは、内容がどうあれ、話題性で売れると思います。
投稿: ひま | 2006/07/09 00:59
>爽やかな笑顔でがっかりなお話描写に
ここで引用されているHさんのコマが気になります。
電話で話しているH氏の顔が笑顔だと
どうして分かったのでしょうね。
こういうところが作者の巧さだと思いました。
投稿: Aa | 2006/07/09 01:00
10数年前は本屋のマンガはほとんど「立ち読みOK」であり、読者もその場で内容を確認して購入することが出来ました。それが出来ない現在はマンガ喫茶という新たな手段を読者が得たおかげで、今度は新刊が売れないというジレンマに陥っていると思います。
今、ネット発信のマンガや小説が単行本化されたりしてますよね(今日の猫村さんとか)ネットの便利なところはお金をかけずに世界に配信できる」ということがあります。
つまり、例えば一話だけ全編配信、みたいなことをもっと作家や出版社側で行った方がいいんじゃないかと。
金をかけるばかりが「世間に知らしめる」方法じゃありませんよ。
投稿: こみ | 2006/07/09 02:51
「失踪日記」にしろ桜玉吉さんの本にしろ竹熊
さんのこのブログを読まなければ、まず買う事は
なかったでしょう。書評というのは読者にとって
も重要だと思いますね。
投稿: 丈鯛偏太郎 | 2006/07/09 05:18
えーと経験談ですが。
POSデータは他社でも引っ張ってこれます。取次さんのDBからですね。
例えば日販さん。「トリプルWIN」が絶賛稼働中です。
版元ごとにこれを利用するにあたって契約をやっていて、この契約のレベルに応じて、
・自社刊行物のみデータが取り出せる
(代わりに他社にもデータが出ない)
・他社のデータも出せる
(代わりに他社にも筒抜け)
…ということになります。
日次セールスだろうが週次セールスだろうが月次だろうがお手の物。
ただ、これを妄信しても業務の大半がデータとの格闘になってしまうし、何より自分のアンテナの感度が落ちるんで、ここぞというところでエイヤッとまとめて使うことが多かったですかね。
仮に上記のようなデータがないにしても、そこは狭い業界ですから。
各社営業同士、持ちつ持たれつで互いに電話なりメールなりで「あの著者の新刊企画が編集から来てるんだけど、あんたんトコのアレ、実売どんくらい?」なんてーのは日常茶飯事。
互いに関係者以外には数字を漏らさない暗黙律があるんで、かなり正確な数字が出てきます。
著者が自分の刊行物の数字を知るのは、やはり印税報告という手段になるでしょうか。
基本的に印税は発行部数ベースなんで、実売とは数字は異なります。
つーか倉庫に本がある限り、何時注文くるか分からんことを考えると、実売なんて動的な数字でしか把握できませんww
ただ、マイナージャンル刊行物だったりマイナー版元だったりする場合、買取原稿だったり「印税は初版分のみ」契約だったりで、重版しても著者が知りえないケースもままあります。
この辺の微妙な部分でモメた実例が「コヨーテ」だったっけ…(ウロ覚え)。
投稿: 元営業 | 2006/07/09 05:20
平野耕太の『コヨーテ』ですね。
投稿: ポン一 | 2006/07/09 05:28
吾妻ひでおが、失踪当時のことを描いた漫画なんて、
絶対に面白いし、絶対売れるに決まっているのに。
出版関係の人たちは、判断力というものを
持っていないのですね。
投稿: マルメ | 2006/07/09 08:49
正直「夜を歩く」を読んでいたので失踪日記はあまり衝撃的でもなかったというのが感想です。いきなり失踪日記を読んだ人はそりゃびっくりするでしょうが・・・。
投稿: Too | 2006/07/09 09:11
これって「作家側が何部売れたのか」聞いてみないのですかね?
印税や原稿料のことも含め、漫画家ってなぜかお金に対して無頓着というか・・・
個人契約の仕事をしている自分としては「お金」が仕事を引き受ける、あるいは継続の判断をする重要な要素ですから、マンガ家も何か出版したら「あれって何部売れましたか?」と聞いても問題ない(むしろ聞かない方がおかしい)んじゃないでしょうか?
それとも出版後は放棄ですか?それじゃあ描きっぱなしと変わらないですし・・・
投稿: こも | 2006/07/09 11:41
おっかないですねー。
こんなことがマニュアル化されたなら「一発当てた新人作家が二冊目を出してコケた」場合、
三冊目を出す機会が相当に遠のくってことですよね。
なのに、出版社は続編じみたものを望んでくるという・・・。
それにしてもロートルの穴馬に有り金賭けるような真似した編集者さんは大したモンですね。
馬の体つき(作品の内容)を見て「この馬は走るに違えねえ!」と確信を持ってたんだろうなぁ。
投稿: 仁 | 2006/07/09 12:34
メジャー系版元の編集者は、前例の無い作品には
腰が引けています。
コンテストみたいに選考者が居れば、入選作品
がコケても自分の責任にならないので、
「見た事も無い新鮮な作品がほしい」なんて言い
ますがね…。
それにしても
で中小版元の編集者が
他社の数値のみで出す出さないを
決定するというのが情けないですね。
あの明るい顔つきで電話する編集の顔を
描けた吾妻さん~どなたかホメて
おられましたが、ぼくも同意見です。
マンガ家としてはゾッとする場面だ。
だいたいマンガを描こうという人間は
大人しく、気が弱いでしょ。(ぼくも…)
ですから稿料も聞けなかったし
まして「売れた部数」なんか
聞けません。
どうせ貰った印税部数より少ないのは
分っていますしね。
多けりゃ増刷!って言ってくるはずですし。
売れている~という幻想が実感できている内に
次の作品を描かないと、萎えて駄作になる?!
投稿: 長谷邦夫 | 2006/07/09 13:41
えーと補足です。
DBは取次さんからだけでなく、大手書店チェーンさんも引っ張ることは可能です。
紀伊国屋さんのパブラインとか。
ただどうしてもこういうデータは偏りが(チェーンの色で)発生しがちなので、どちらかというとこちらのデータは「適正配本」の資料になりますね。
あと、データで判断する編集を腰抜けと思ってる人がいるかもしれませんが……。
販売実績が全てではないんです。
営業はどんなにコミックが分かってても「マンガなんて読まねーよ」って書店さんの意見を代表しなきゃいけない部分があって。
だから実績がないならないで、そういう「分からない」人に対する売込み材料が欲しい。
そのための手段の1つがメディアミックスだったりするワケで。
私の乏しい経験からくる感覚でも、あずまさんの「失踪日記」は売れるかどうか五分五分な印象です。
書評・コラム等からの情報流通がかなり十全に行き渡ったから、コンテンツとしての良さが適正に伝わっていったと思いますが、それがなかったら、書店の隅に埋もれている可能性もあったと思います。
そして自分の担当企画の書籍が売れないと、担当編集は営業の…特に在庫管理担当の重鎮あたりから、平気で悪し様に「倉庫にゴミ作りやがって」とか言われます。
これは同じ社内だけに、相当ヘコみます。
年間実績評定でも、こういう企画が続くと「×」扱いがガッツリ残って、クビのかかった問題になってきます。
だからこそ大手はマス狙いの上澄み的な企画が増え、意欲的な企画がマイナー版元でないとやりづらくなっていくワケですが。
とはいえ、そういった様々な軋轢が想像される中で「失踪日記」を出したイーストプレス担当編集さんと営業さんは、いい仕事をしてくれたと思います。一マンガ読みとして。
投稿: 元営業 | 2006/07/09 14:17
ネットの普及で以前に比べて面白いマイナー漫画の情報が大きく広がりやすい時代ですから、作家さんには希望をもった描き方をしてほしいですね。
逆に言えば大手出版社にとっては地獄かもしれません。これまでみたいなメジャー雑誌に掲載=確実に売れる、ということがすでにない状態ですから。いよいよあの週間マガジンでも売れそうもない作品に関してはコンビ二版でいきなり単行本化みたいなのも出ているようです。
投稿: FA | 2006/07/09 14:44
現営業ですが、他社の本の部数については、出版社の営業同士が連絡を取り合って部数や実売を教えあうことも多いですね(嫌がる版元も多いけど、最近はお互い様みたいな感じになってるほうが多い)。もちろん、取次の窓口にこっそり教えてもらったり、紀伊國屋Publineのデータから推計したりすることもあります。
確かに営業の仕事の一つには「売れない企画をとめる」こともあると思います。それが編集者や著者から見ると敵に見えることもあるかもしれない。だけど、「売れないと思われている企画を売れる商品にもっていく」のも、営業の大事な仕事だと思っております。明らかに出版点数過多なこの時代においては難しいけど、本当に面白い、良いと思ったものについては頑張るしかない。
投稿: kajie | 2006/07/09 16:58
>ポン一さん
やはりヒラコーさんの「コヨーテ」で合ってましたか。
フォローどうもです。
>kajieさん
個々の企画でどこまで思い入れを持って動くがが難しいところですよね。
以前に、埋もれてた良著を出しなおそうよ、と社内でアピールし続けて営業内でも編集からも煙たがられて、でもなんとか刊行にこぎつけたところで「お役御免」になって。
結果的にその本はかなり好調だったのか、著者の仕事が段々増えていったのは、見ていて小気味いいモノもありつつ複雑でした。
モノが多すぎるというのは深刻な問題だと思います。
営業もそうですが、編集、そして著者自身にも企画をいかに興味深いものに見せるか…というプレゼン能力的な何かが、これからは必要なのではないでしょうか。
投稿: 元営業 | 2006/07/09 21:05
私も出版社で働く現役の営業です。他社の数字、ここ数年でかなり正確にわかるようになってきました。一昔前は自社の売行きの数字すら把握できない業界だったので、正直、隔世の感があります。
しかし、せっかく他社の数字までわかる時代になったのにそれをネガティブな方向性でしか捉えないのは勿体無いですよ。
「この著者の本、オレが担当だったらもっと売れる企画にできる」という編集者や「この著者の本、オレが売ったらもっと数字は行ける」という営業、「オレならこう宣伝して○○万部は固いぜ」という宣伝担当者とか、出版不況からの脱却にはそういう発想が求められてるんだと思います。ま、けして簡単な話ではないんですが。
投稿: TOSH | 2006/07/09 21:14
その数字、著者にもすぐ閲覧できるようにしてほしいものです。自分の本なのだから、著者も知りたいわけですよ。教えてくれない編集者が多くて……。
投稿: たけくま | 2006/07/09 22:24
>たけくまさん
世の中には「知らないほうがいい」こともあります。
というのは冗談で、大抵のデータは法人がマーケティングに利用するためのものという位置付けで社外秘の扱いになる(契約そのものがそういう内容です)ので、「著者がすぐに閲覧できる」ようにするのはちょっと難しいと思います。他社のデータの扱いなんかも本当はかなり慎重に扱うべき話題なんです。
編集者が教えてくれないのは「契約を遵守しているから」かもしれませんのでご理解下さい。
あと、アマゾンのランクなんかと同様に気にしすぎる著者の方がいたりするのでそれを警戒しているのかも知れません。ちなみにオンライン書店の実際の数字についても一部の出版社は把握しているはずです(すみません、この辺は曖昧にさせてください)。
投稿: TOSH | 2006/07/09 23:36
おお。こんなに出版関係者が読んでいるとは。
たけくまさん、なにげに凄いっすねー。
投稿: トロ~ロ | 2006/07/09 23:47
>TOSHさん への補足
私は話をややこしくしないために「契約のレベル」なんて言い方を使ってしまいましたが、正確にはTOSHさんのご推測されてる問題です。
契約概要を以前に見ましたが(ウロ覚え失礼)、
・POSデータは取次・各ショップが業務の上で入手した機密データ
・そのデータをサービス提供ということで、所定の契約金支払いに応じ提供する
・契約はID単位で管理
・IDは2種にカテゴライズ
1)相互に他社データが覗けるカテゴリ
2)自社のデータしか見えないカテゴリ
※第2カテゴリのデータは第1カテゴリのIDでも見ることはできません
・ID単位で契約金が発生
~といった感じだったかと。
確か大手は軒並み第2カテゴリを選択していたような記憶が。
契約金も結構値のはるモノだったんで、1個のIDを社内で競合しないようにチマチマと使っていましたね。
社外にこのデータをマンマ出してしまうと、一種の機密保持契約違反ってコトになるってとこでしょうか。
投稿: 元営業 | 2006/07/10 01:57
しかし、その情報格差は、正直著作者にとってはものすごいストレスになる可能性は高いですね。
交渉にならない。編集・出版社側での判断でしか決定されない。しかも辞退理由が絶対に著者にわからないとなると。
所詮これらは「過去のデータ」でしかなく、「将来」を決定するわけではないが、「過去これだったんだから将来はこうだろう」と考える。で結果として決断が保守的になり博打が打てない。サラリーマンである以上保身を考えれば当然かとも思います。相手(著者)のことなどかまっていられない。データであれば編集者も上司も同僚も納得する。「これだけしか売れない人に新しい企画で本は出せない」という「結果」に、それを説得して本を出す場合、その編集者が社内リスクを全てかぶることになる。今の編集者で、出版を博打、と考える人は多いとは思えない。リスクを考え、リスクヘッジすれば、「過去売れてない著者の本は出さない」とするのが経営的には妥当。
つまり結果的にデータ閲覧は業界全体に負の方向として左右する。
確かにこれでは、売れる本が出ることは滅多にないな、とよくわかりました。
投稿: あらえっさっさ | 2006/07/10 02:48
>TOSHさん
「社外秘」のはずのデータが、なぜに「別の会社の人間」にまで筒抜けであるのかが、この問題の本質ではないでしょうか。
僕が「サラ金の信用管理システム」について持ち出したのは、まさに著者からすれば同じような気持ち悪さがあるということです。
というか、サラ金の信用情報は、所定の手続きをとれば本人には閲覧できるそうです。しかし自分の本の売れ行きは、親切な版元の人が個人的に教えてくれる以外、知りようがないのが実情です。
このへんが、著者からすればどうも「不健全」な感じがしてならないのです。
投稿: たけくま | 2006/07/10 02:53
>あらえっさっささん
>つまり結果的にデータ閲覧は業界全体に負の方向として左右する。
リスクヘッジばかりに目が向いてしまうとそういう傾向にもなりがちですが、単純な機会損失の減少や増刷部数等の決定、地味なロングセラーの発掘などなど役立っていることのほうが多いですよ、データ。使い方の問題だと思います。
>たけくまさん
>「社外秘」のはずのデータが、なぜに「別の会社の人間」にまで筒抜けであるのかが、この問題の本質ではないでしょうか。
それはあると思います。この場でも話題になっているK書店の仕組みですが、立ち上げの際に他社データの閲覧を可能にするか否かについてアンケートが実施されました。その当時自分は雑誌がメインの出版社にいたので部数を公開されることに抵抗があったのですが、そういう意見は圧倒的な少数派でした。ちなみに今は大手の広告代理店もそのデータを見ています。雑誌の実売なんかまさに「筒抜け」なわけです。広告営業の苦労がしのばれます。
そういった「知らないはずなのに知ってる」という前提があってはじめて、雑誌の実売部数のABCでの公開がようやく進んできました。書籍の実売についてもどうせ公開するならちゃんと公開してしまうという手もあるとは思いますが、公開する側の書店(取次も)にとってはシステム構築にかかった費用があるのですぐには難しいと思います。ただ、方向性はそちら(公開)です。まだまだ時間はかかると思いますが。
投稿: TOSH | 2006/07/10 08:47
外野が勝手に騒ぐとですね、TOSHさんのカキコ見ていると何か「官僚的」だなーと。
それは業界様の都合でそーなっておるのだからたけくまさんたちは理解せよ、というのを婉曲に言っている感じ受けますね。
投稿: たにしんいち | 2006/07/10 11:43
えーと、ビジネスライクな感覚をお持ちで、かつ売れ行きのよろしい作家さんには伝えることも多々あると思います。
一方で数字に対して怯えがあったり、売れ行きが芳しくない場合だと、伝えてしまうことで進行中の作業や関係性に支障をきたすことも少なくないかと。
確かに出版社は知っていて著者は知り得ない(開示されるかされないかは編集の胸先三寸)というのは気持ち悪いかもしれませんね。
投稿: rootsy | 2006/07/10 14:12
まず読んでみない事には、本なんて内容云々が分からないわけですし、やはり本の世界にも「体験版」というか「立ち読み版」が欲しいところですね。
現在ではせっかくインターネットという環境があるのですから、容易にはテキスト情報が複製できない形式(SWFフラッシュファイルやPDFファイルなど)で、出版社サイトから立ち読み版を読ませてくれればいいのですが。
ジャンルによってはけっこうここらへんのパブリシティは活発で、エロゲなどでは会社HPから体験版(一章分だけ遊べる)がダウンロードできたりあるいは「エロゲ雑誌」の付録CDに体験版を収録したり、また映画でも最近は公式サイトからテレビCM用の予告編映像や、出演俳優へのインタビュー映像が見られたりします。
日本の出版社には、「出版物の面白さを知ってもらうためには“出し惜しみ”をするな」と意見したい気持ちです。関西商人じゃありませんが、『損して得取れ』って言葉はまさに格言だと思います。
あの松下幸之助も、自社開発の新製品である自転車用ランプの良さや耐久性を知ってもらうために、当時としても破格の「試供品を一万個も無料で提供」というキャンペーンを打ったのは有名な話ですし。
投稿: guldeen | 2006/07/14 14:21
TOSHさんへ
TOSHさん御自身が真摯にお仕事をされていることは分かりますが、しかしお返事拝読してもどうにも筋の通らない感じがしてなりません。
たけくまさんが言っておられる通りで、自分に関する情報(自著の正確な売上数)を自分が知らないのに他者(別の関係ない出版社)が知っている、という状況は、社会通念から鑑みても健全なあり方ではありません。公開の方向に向かっている、でも時間もかかるのでもうちょっと待ってて、というのは強者(出版社)の論理にしか見えません。他社に見せているのであれば、すぐに(というかその前に)著者に知らせる、もしくは知りたいかどうかを確認して、知りたいという著者には伝える、のが筋でしょう。
また、以前のコメントでおっしゃられていたこちら。
>あと、アマゾンのランクなんかと同様に気にしすぎる著者の方がいたりするのでそれを警戒しているのかも知れません。
ですが、
そういう著者を上手く鼓舞するのは編集者の仕事の内でしょうし、またそこで気にしすぎで自滅するような著者は物書きとしてのプロ根性に欠ける証拠ではないでしょうか。だいたい、売上数を知ることがガンの告知を受けることと同じようなダメージを与えるかのごとくイメージし、考えること自体、売上数に過剰な意味づけをしすぎだと思います。どうせ、最終的には印税で分かることなんですから(買取の原稿でなければ)、いつかはざっくりとした数字でも知ることになるわけです、著者は。
今はごく普通のブログでも毎日の閲覧者数が確認でき、プロの著者でもなんでもないブロガーですら自分の書き物に対するリアクション(数もですがそこにつくコメントも)を毎日受け止めつつ日々暮らしているような時代です。プロの物書きがそれ以下の情報水準でいい、それでもいい書物が書けるはずだ、というのは、ものすごく時代遅れのように思いますが、いかがでしょうか。
投稿: 鼻血 | 2006/07/14 16:15
>> guldeen さま
>本の世界にも「体験版」というか「立ち読み版」が欲しいところですね
AMAZONがそういうの仕掛けていますね。
全文検索サーヴィスも今年になって始めているという話ですし。
オカダトシオ氏は自著の全文をHPで公開しています。
もっとも21世紀に入ってからの著作はオープンにしていないようですが。
投稿: Aa | 2006/07/14 18:05
>guldeenさん
悪気はないと思うので、本当に悲しいです。本屋には「立ち読み」もできてその場ですぐ買える送料無料の本やコミックが並んでいます。「本屋じゃ本なんて買わないよ」「オレの欲しい本は本屋には並んでいない」「本屋まで行けという態度が傲慢だ」「インターネットで立ち読みがしたいんだ」と言われてしまうかもしれませんが、ぶらっと入る本屋は本当に面白いと思うんですがどうでしょうか。
>鼻血さん
>筋でしょう
社会通念や「筋」の問題と言われると反応に困りますが、現時点ではデータの公開に契約上の制約がある、ということです。
>強者の論理
私が出版業界を代表する立場にあるわけではないのでこの話をこれ以上突っ込まれても感想しか言えなくなりますが、大手の出版社はいざ知らず中小零細(ウチも)では著者のほうが圧倒的に偉いですよ。困り果てるぐらい。
>ものすごく時代遅れ
インタラクティブな反応に基づいて変化していくコンテンツと特定の時点で切り取られたコンテンツでは評価やリアクションの方法が異なっていても良いと思いますし、どちらが「正しい」ということでもないと思います。むしろ脊髄反射的に反応してしまわないことのメリットもあるのではないでしょうか(話の流れと大幅にずれてますね、たけくまさん、すみません)。
投稿: TOSH | 2006/07/14 18:54
>大手の出版社はいざ知らず中小零細(ウチも)では著者のほうが圧倒的に偉いですよ。
Mayutsuba, mayutsuba
投稿: Aa | 2006/07/14 19:09
> TOSHさん
出版社および出版業界が前近代的で非合理な仕組みで動いていることはわかりました。
これは非難ではありません。
そういうもんなんだ、という認識です。
契約書は無い。売り上げ実数は秘密。著者の方も「物が売れる」ではなく「本という形になる」ことに重きを置く。
現代のビッグビジネスは顧客のニーズにあった商品をリーズナブルに満遍なく提供することで商売は成り立っているようです。そのために流通を合理化し、より回転の速い商品を次々とリリースして行く。
しかし、出版という分野は文化的・芸術的側面が強いですよね。いわば、商品の価値はニッチにこそある。ニッチでありながら普遍性を持ったものというのは現代のビジネスの考え方からすればどうしても矛盾を抱えたままになってしまう。
多分、近い将来、こうしたビジネス形態は変化していかざるを得ないんでしょうね。
インターネットの普及によって急激な変化が現れるんでしょうねえ。すでにこうしてその兆候はあるわけだし、矛盾の指摘がされているわけですから。
その変化が主に著者にとって良い変化であって欲しいと思いますが。
僕ら読者はやっぱり良い作品を手に入りやすい形で目にしたいと思いますので。
投稿: nomad | 2006/07/14 23:00
TOSHさん
丁寧なお返事ありがとうございます。幾つか気になった点を少しだけ。
>データの公開に契約上の制約がある
の内容が、同業他社には公開できて著作者には公開できない、という契約内容だとしたら、かなりヤバイもんだと思うんですが。もしも訴訟でも起こされたら、勝てなさそうなくらい。
>大手の出版社はいざ知らず中小零細(ウチも)では著者のほうが圧倒的に偉いですよ
情報を持っていてお金を支払う方がこれを言うとはなー。そうご自分が思っている、だけの話ではありませんか、これ。相手が手塚クラスの名の通った(つまり社会的地位のある)著者ならいざしらず。
多くのまんが家やライターは、自分が切られて他のまんが家やライターに自分の描く(書く)分を持ってかれるかも、という焦りは絶えず持っているものだと思います。それを表に出すかどうかは、人によると思いますが。
いずれにせよ、どう考えても、「情報」を持っている立場の方が何かと有利だと思うんですが(お金もね)。
これは立場と見解の違いだと思うので、特に進展がなければお返事必要ありません。単なる当方の感想ということで、ご理解ください。
(たけくまさん、えらく長く引っ張ってすんません)
投稿: 鼻血 | 2006/07/15 21:33
>鼻血さん
話題が逸れているのでとりあえずこれで終わりにします。
>同業他社には公開できて著作者には公開できない、という契約内容
いや、そういう内容ではないので訴訟されても大丈夫だとは思います。
>多くのまんが家やライターは
弊社もそうですが、多くの出版社はマンガを出版していませんし、いわゆる「ライター」に原稿を依頼することがほとんど無い社もあります。「たけくまメモ」の場なので皆さんの前提として「マンガ」や「ライター」があったと思うのでこれは私の方がうかつでした。反省しております。
>nomadさん
>ニッチでありながら普遍性を持ったものというのは現代のビジネスの考え方からすればどうしても矛盾を抱えたままになってしまう。
その通りだと思います。矛盾だらけです。
>出版社および出版業界が前近代的で非合理な仕組みで動いていることはわかりました。
私の発言で出版業界を理解されてしまうとまずいとは思いますが、これについては私も単なる感想として。「近代的で合理的な仕組みで動いている業界」って、そんなにいっぱいあるもんですかねえ。前近代性も非合理も矛盾も、どこの業界でも大なり小なり存在すると私は思っています。
投稿: TOSH | 2006/07/15 23:13
…うーん。暫くご無沙汰していた間に出版業界総攻撃なコメントがww
とりあえず些少ながらも実体験持ちとしての、個人的な感想をば。
1)著者に情報出さないのは?
TOSHさんの仰るように、直接的には契約上の問題です。これをどこかの社が、どこかの社の誰かが単独で「変えよう」と言ったところで、直接的にはどうにもなるものではありません。
(あくまで「直接的には」ですが)
なんかキェルケゴールの逸話を思い出しますね。
自分の著書が書物という「商品」として八百屋の野菜と同様に市場に流れることにショックを受けた、といった趣旨の。
何かが「悪さ」をしてこうなっていると仮定するなら、メーカー・流通・ショップの分離という構造そのものになります。
当該書籍を「商品」として動かす以上、その動向データは物流データとして流通・ショップにとってメシのタネの1つとなりうる情報です。
消費者が購入するまでの過程でワンクッション生じるたびに、それぞれ利害の(多少なりとも)異なる者が関与することになるので、その全ての合意を取り付けるのは至難の業です。
では出版社相互で情報が流れるのは?
これはある意味必要悪的なものかなと思います。
本来は情報は余所に流すべきではないのが建前ですが、適正部数刊行のために情報がどうしても欲しい場合はあるワケで。
営業の販売戦略担当をやる者が誰しも身につまされる話なので、だからこそこういう「持ちつ持たれつ」が発生しているのだと認識しています。
とはいえ、問い合わせること自体、一種(営業担当同士だけで考えても)「借り」を作っているようなモノで、本当にデータが必要な場合以外にはこんなこともやりませんよ。
各社担当ともに、自分の業務で忙しい中で邪魔しているワケですから。
出版社がツルんで情報を隠蔽している…というイメージは、現場を見た人間にとっては、ある意味「ビッグ・ブラザー」幻想・「ビッグ・マザー」幻想などと呼ばれる類のものではないかと思えます。
2)立ち読み・お試し版
えーと私のいたトコロでは、一応著者と出版社が出版契約を書面で取り交わすことになってました。
著作物頒布権の行使窓口としての権利を、この契約によって獲得することになるワケです。
ただこういった、いわば「試用版」露出はセールス・プロモーション用途として、この窓口権の派生行為と捉えることが多いと思います。
で、こういう場合、ホントに書影だけとかいった通り一遍の素材露出ならいいのですが、そうじゃない場合は著者の了解が必要な場合が殆どです。
「通り一遍」の要素になる「あらすじ紹介」でも、一応著者に読んでもらって了解取るというケースが多いですし。
じゃあ翻っていわゆる「試用版」。
こうなると、
・公開していいかどうか
・公開するならどこまでのボリュームに留めるか
・公開する場合の表示クオリティーは、全て著者にとって納得できるものか
…のそれぞれに確認を取る必要が出てくると思います。
ただでさえ「出版不況」とか言われて人手も減っている中、そしてそんな状況下で夢を見てる人は絶えないのかマンガ雑誌がまだまだ創刊されたりしている中で、それらの作業にどれだけのマンパワーが割けるか、ということではないでしょうか。
逆に、現状では非公開原則・公開例外な状況だから、出版契約で明文化して原則・例外を逆転させる…という案も考えられますが、なまじドッグイヤーなネットの世界ですから。
今日セキュアで実用的な技術が、明日も同様かという保証がありませんので、ちょっと難しいのではないかなと思います。
そういう意味で、いわゆる「試用版」公開をやっている会社さんは、(実際に上記の手間をかけているワケだから)寧ろ頑張ってプロモーションに配慮しているのだと私は思っています。
投稿: 元営業 | 2006/07/16 05:17
TOSHさん、元営業さんのご意見は、出版社サイドのある種の「本音」を表すものとして受け止めました。
特に著者には実売を知らせずに、出版社間で情報を共有することを「必要悪」というのは、依然として著者には「不愉快」なものと感じますが、版元の立場としてはそのほうが便利だからそうしているのでしょう。
このことに対する僕の考えですが、これはもう、今後は極力、出版社に依存しないでも「食っていく」体制を著者として作っていくしかないと思っています。夢物語のように思われるかもしれませんが、結構本気です。
俺みたいなのが一人や二人、いたところでどうなるものでもないでしょうが、これが百人、二百人となっていけば、いずれは版元も考えを改めるかもしれませんし。まあ改めなくてもいいんですが。こっちも勝手にやるので。
投稿: たけくま | 2006/07/16 09:05