【blog考】3 ブログを始める(1)
六本木にGLOCOM(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)という社会文化研究機関があって、2004年11月、私はここにゲスト講師として呼ばれた。「マンガ文化の現状と展望」について話してくれということだった。GLOCOMについては、当時は東浩紀氏が助教授(現在は辞職)になっていて、サブカルチャーやネット社会に関するシンポジウムをよく開いているという以外、詳しいことをよく知らなかった。今もよく知らない。マンガの現状と展望に関しても、いつもの持論を述べたくらいで、たいした話はできなかった。
その打ち上げの席上、私は声をかけられた。眼鏡をかけたその青年の顔はなんとなく見覚えがあり、誰だったかなと考えていたら、彼は自分から「山本一郎です」と名乗った。
「あ、あなたが。」
目の前のその人は、ネット界ではアルファブロガー(ネット社会で強い影響力があるブロガー)として有名な、「切込隊長」こと山本一郎氏であった。彼は一時期、「ひろゆき」こと西村博之氏と「2ちゃんねる」の運営に参謀的に関わっていたことで知られていて、ハンドル(ネット上のペンネーム)である「切込隊長」以外にも、ネットやマスコミに本名や顔出しで登場してもいた。それで私も彼のことを知っていたのである。
もっとも私が会ったときには、切込隊長と西村氏は2ちゃんねるの運営方針を巡って決別していた。それでも自身のブログ「俺様キングダム」は、毎日相当数の読者を集めていて、投資活動や会社経営以外にも、辛辣な社会批評を得意とする文筆家としても活躍している。
投資の天才で30代にして資産が百数十億あるとか、実は童貞であるとか、無数の「伝説」を持つネット界の名物男だが、どこまで真実か私は知らない。初対面のときに私は「資産が百数十億って本当ですか」「童貞というのは本当なんですか」と聞いてみたのだが、彼はあっさり「そうですよ」と言うだけで、否定はしなかった。しかしどう見ても渋谷界隈を普通に歩いている兄ちゃんといった風情で、失礼ながら大金持ちには見えなかったのだが、まあ、そこを含めて面白い人物である。
とにかく私は、この人からブログを勧められたことは確かである。そのとき彼はこのようなことを言った。「ブログはやらないんですか竹熊さん。」
それで私が「いや~前からやりたいとは考えているんですけど、なかなか手がつかなくて」と答えると、彼は「今なら、まだ間に合いますよ」と言ったのだった。
隊長が「間に合いますよ」といった真意は、よくわからない。2004年春には大手プロバイダのアット・ニフティによって「ココログ」が始まっており、タレントの真鍋かをりさんがブログを開始して大ブレイクしていた。正確なアクセス数はわからないが、トラックバック(他のブログからそのブログのエントリに向けてリンクを貼ること。どこのブログから貼られたのかが相手のブログ記事の下に表示され、一目でわかるようになっている。ブログの特徴のひとつになっている)が一記事に数百から千近くついた日もあるから、相当な数の人間が彼女のブログを読んだと推察できる。これがマスコミで報道されて、彼女は「ブログの女王」の異名をもらい、タレントとして仕事の幅を広げたとされる。
この真鍋かをりさんのブログの成功もあって、ブログはマスコミに注目され、2004年は「ブログ元年」(「はてなダイヤリー」が始まった2003年を「元年」と呼ぶ人もいるが)とも呼ばれていた。つまり、かなりの人間がブログを始めた年なのであって、切込隊長は、ブームに間に合うといった意味で「まだ間に合いますよ」と私に言ってくれたのかもしれない。まあ、向こうは忘れているかもしれないが。
偶然ではあったが、隊長の言葉は私の中で「最後の一押し」になった。そこに至るまで、私の「ホームページやりたい欲求」は溜まりに溜まっていたのだろう。その意味で彼は私の恩人である。
ちなみに、隊長と決別した2ちゃん管理人の西村博之氏とは、私は過去に二回会っている。一度目は七年ほど前に雑誌で彼をインタビューしたとき、二度目は2006年にある会合でバッタリ会ったときである。彼は私のことを覚えていて、帰りの電車でいろいろ話したのだが、こんな会話を交わした。「実は今、ブログやってるんですよ」
「ほう、そうなんですか」
「僕にブログ勧めたのは誰だと思います? 切込隊長ですよ」
私がそう言ったら、西村氏は一瞬笑って、「それは、よかったですねえ」と言った。いや、まあ、それだけの話なのだが。西村氏については、私は長年2ちゃんねるを愛読しているだけでなく、七年前のインタビューでの印象が強く残っている。長くなるので記述を端折るが、日本では珍しいタイプの強烈な「個人主義者」だと思った。個人主義という点で、あそこまで徹底した人物に私は会ったことがない。間違いなく、インターネットが産んだ鬼才の一人だと思う。《つづく》
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コメント
西村氏、最近では「SPA!」の対談に登場されてましたね。
その時に初めてお顔をゆっくり見たかもしれません。
私のような大多数の一般人にとっては謎の人ではないでしょうか。
投稿: ジョナサン上田 | 2007/08/16 15:22
裁判で何回負けようが、賠償金を一円も払わないと豪語するヒロユキ
なぜヒロユキは、そんなに強気なのか
ヒロユキはCIAのエージェントという説がある
ヒロユキは自分のバックにはCIAがいるので
裁判所で不遜な態度をとろうが
脱税しようが、何をしようが
捕まらないと思っている
とすると、合点がいく
投稿: ぴろゆき | 2007/08/16 20:05
帰省の途中で、
梅田望夫さんの「ウェブ進化論」と
ひろゆきさんの「なぜ2ちゃんねるは潰れないのか」
を連続で読んだのですが、
おもろかったーーー。
楽観主義と悲観主義(というか現実主義)の、
両極端の立場にいらっしゃる二人ですが、
やっぱ、ひろゆきさんの現実主義が身近ではあります。
つか、やっぱりこの人面白い。
投稿: めたろう | 2007/08/16 20:56
たけくまさん、いつか自伝書いてくださいね。
投稿: 頭山 | 2007/08/16 23:57
ひろゆき氏を個人主義者と呼ぶのは
どこか抵抗があります。
Individualismってひとに迷惑をかけない生き方も指すと思うんですが。
投稿: あ~ | 2007/08/17 01:17
西村氏は個人主義というか、他人に全く興味が無い人間だと思うのですがね。
投稿: 忍天丼 | 2007/08/17 14:01
天上天下自分おたく野郎?
投稿: 長谷邦夫 | 2007/08/17 14:09
おれがよんだのは筑摩書房の文庫版(ちくま文庫)たけだがタケクマさんの『私とハルマゲドン』はそれまでの自伝みたいな感じにもよめるよ。
投稿: 固定筆名はほどなく飽きる | 2007/08/18 05:04
>> ひろゆき 「賠償金は死刑になるなら払う」
投稿: ま | 2007/08/18 13:20
郎じゃなくて太だった場合どちらが劇的だったでしょうか。
投稿: メルヘンひじきライス鳥瞰 | 2007/08/19 13:06