70歳でブレイクできるか
昨日のエントリで「70歳で大成功する」と昔ある占い師に言われたことを書きましたが、実際問題として70歳でブレイクするようなことがあり得るのか? と長らく疑問に思っていました。ところが、こないだ「ある人物」のことにハタと思い当たりました。
やなせたかしがいるじゃないか!
あの『アンパンマン』の作者ですから、知らない人はいないと思いますが、昔読んだ『アンパンマンの遺書』というやなせ氏の自伝によると、戦時中は軍隊で、戦後になって三越の宣伝部に五年勤めて辞めて専業マンガ家になったはいいが、ずっと鳴かず飛ばずで、ようやく芽が出たのが40代になってから。週刊朝日の漫画賞をとったんですよね。
それで、あの手塚治虫から劇場アニメ『千夜一夜物語』のキャラクターデザインに抜擢されたのが40代後半で、それからマンガと絵本と「詩とメルヘン」の編集長をずっと続けましたが、本当の意味で「売れた」のって『アンパンマン』がアニメ化された1988年以降のことですよ。それまで、俺も名前くらいは知っていたけども、知る人ぞ知る的な作家でしたもん。『アンパンマン』自体は、70年代の頭に発表されたのが最初だけれど、マンガ家としても絵本作家としても主流から外れた、地味な作家という印象しかなかったです。
それがアニメ化で大ブレイクした。やなせさんは1919年生まれですから、88年にはもう69歳じゃないですか。自伝で「65歳以降のイメージがなかった」と書かれていますけれど、実はそこからがやなせさんの人生の本番であったわけです。
それで、今88歳でしょう。相変わらずアンパンマン大人気ですよ。虚仮の一念岩をも通す、とはこのことじゃないですかね。漫画家の老後としては理想的だと思います。
もう一人、理想の老後を送る漫画家に水木しげる先生がいますが、あの人も戦争で片腕失って、戦後も貧乏のどん底で、やっとメジャーで売れ始めたのが40代でした。今はもう、幸福の絶頂みたいですけど、やなせ先生といい水木先生といい、才能も運もあったと思いますが、どん底でもめげずに「好き」を貫き通す楽天性には参考にすべきものがあります。
でもやなせ先生や水木先生から本当に学ぶべきは、何十年経とうが時代とは関係ないキャラクターを作れ、ということかもしれません。子なきじじいやジャムおじさんが時代と何か関係がありますか。戦前にあってもおかしくないし、たぶん百年後の読者が読んでも違和感はないでしょう。マンガ家で最後に笑うのはそういう人なのではないでしょうか。
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コメント
鬼太郎も何回アニメ化するんだってくらい、世代を超えるパワーが有りますよねぇ
投稿: MO | 2007/08/30 04:26
鬼太郎またやるんですね。アニメは五回目かな。
投稿: たけくま | 2007/08/30 04:49
アンパンマン、OPにホルスの氷の狼がそのまんまパクられているのを見て、げんなりさせられます。あれは何故?
投稿: 赤木了介 | 2007/08/30 05:50
鬼太郎毎週見ております。日曜朝にやってます。
最初設定見た時は、
鬼太郎と猫娘が萌えキャラ化していて激怒したのですが、
本編みたら、比較的良心的な内容
(脇役達が出っ歯でメガネとか)なので毎週見始めました。
ここの所、コワイ内容では無くなって来てるのでちょっと残念です。
たまたま今、日経から出た「水木サンの幸福論」を読んでます。
「私の履歴書」を纏めたのに、「幸福論」とか、
御兄弟の対談とかを載せた奴で、
ここに出てくる幸福論7か条とか読むと、
竹熊様は、充分幸福の条件を満たしているようにも思えます。
投稿: めたろう | 2007/08/30 06:26
今日のエントリ、ほのぼのしてていいですね。
水木先生の体験は凄まじすぎるけど。
投稿: あ~ | 2007/08/30 07:10
鬼太郎の再ブレイクについては
実は水木先生があまりにもお歳を取られていたのが発端という話があります。
某テレビ局が鬼太郎の実写映画化を思いたって
水木先生のところへ許可をとりに行ったところ
先生はかなりお歳をめされていてなんのことか理解できない状況で(笑)簡単にOKを出されました。
当然権利関係はクリヤーになったとばかり
某テレビ局は映画化を進めるのですが
そこに落とし穴があり
鬼太郎などのキャラクターの版権は水木先生にあったのですが、当然映画化の際にも絶必になってくる「目玉おやじ」の声や、あの「主題歌」の権利関係は東○が持っていたんですね~。
水木先生はそのことは当然ご存知だったのですが
もう何が何だか判らない状況だったらしいです・・・。
で当然、某テレビ局は東○に許諾を貰いにいきますが、当然東○は「何で映画製作がウチじゃないのに許諾ださなきゃならんのや~」という話になり、某テレビ局はその見返りとして新作の鬼太郎のアニメを東○で作り、オンエアすることになった・・・。という流れらしいです。
でもそのおかげで映画もテレビアニメもヒットして鬼太郎ブームが来ているとしたら、まんざら水木先生の○○も捨てたものではないということですね。
投稿: くまぞう | 2007/08/30 07:40
以前、長谷先生のブログで
「水木先生、崩御!」とあったのでびっくりして検索をかけました。
言うまでもなく、ただのガセ。
投稿: あ~ | 2007/08/30 07:56
水木先生と言えば、今年の3月、アニメの新作開始直前に朝日新聞にインタビューがありました。一部で話題になったのでご存じの方も多いでしょうが
-5度もアニメ化されるご感想は?
どうってことないです。カネがまた入るな、くらいのもので。ハハハ。
-実写のイケメン鬼太郎はいかがですか?
ウーン……イヤですね。もう少し背が高かったら断ってました。
先生ぶっちゃけ過ぎw
投稿: ma | 2007/08/30 09:55
お~…そんなウワサを、某マイミクさんから
知り書いたことがありました。
先生の奇行?ぶりは、マンガ学会の会長氏より
お聞きし、会員幹部が爆笑したことがあります。
先生はもともと飄々とされている人物ですから
権利関係などは、マネージメントの方が
やられていると思うんですがね…。
今回の↑情報を読みますと、う~~~ん
これでは、会長氏のお話しが、けっして
オーバーではなかったなあと思う。
でも、いい方向でアニメ化されてるんですから
それでいいのかも。
話しはズレますが、やなせたかし先生、すごい
もんですね。
「絵本」と「詩」、これ
投稿: 長谷邦夫 | 2007/08/30 10:06
ありゃ~
つまり「初心」が常に忘れられていない。
地味に貫いた結果ですね。
漫画集団で売れた連中が持っていなかった
資質です。
投稿: 長谷邦夫 | 2007/08/30 10:11
後半にブレークした場合に楽しみが半減している可能性のもあるかと。と言っても晩年寂しい老人になるのはやだなとか。漫画で何年も残るキャラというのは本当にすごいことですな。
投稿: blog49 | 2007/08/30 10:43
はじめまして。
昨日コメントすべきだったか、と思いましたが。
この間路上ですれちがった、ちょうど70歳くらいの老夫婦の会話が「エヴァンゲリオンが…云々」。一瞬耳を疑いましたが、パチンコ屋の前でした。
たけくま先生、ボクと誕生日一日違いです。
投稿: まどの一哉 | 2007/08/30 10:52
↑失礼ですが「まどの一哉」さんって、以前「ガロ」や「QJ」でマンガを描かれていたまどの一哉さんでしょうか。
投稿: たけくま | 2007/08/30 10:58
その、まどのです。
現在「アックス」に連作中です。
あと同人誌「架空」にも(進呈します)。
投稿: まどの一哉 | 2007/08/30 11:40
↑そうでしたか。昔からファンです。書き込んでくださってありがとうございました。
投稿: たけくま | 2007/08/30 11:43
愚仮面 - アンパンマンができるまで その1
http://d.hatena.ne.jp/derorinman/20070131/1170259999
その4まであります。
投稿: no-name | 2007/08/30 12:21
no-name様
概略がわかって助かりますです。
世の中、興味深い人生が、まだまだありますなぁ。
75越えてから絵を始めた、
グランマ・モーゼスなんて人もいますし。
で、思い出したのですが、
「箆棒な人々」の文庫の進捗はいかがでしょうか?
投稿: めたろう | 2007/08/30 12:53
>百年後の読者が読んでも違和感はない
逆にいうとランバダのように
"わずか数年後の読者が読んでもすでに理解できない"
というネタを選び出すのは
これはこれで貴重な視点かと思います。
投稿: むらもと 淳 | 2007/08/30 16:03
今回のコミケで売っていた、「うらしまもと」では、
やなせ先生のことが大変面白く描かれています。
投稿: レモン電池 | 2007/08/30 16:52
「きのうの島本さん」読みましたよ。というかならんで買いましたよ。自分以外、全員男な行列だなあ、と改めて思いました。
そこが良いところでもあるんですが。
投稿: かなびん | 2007/08/30 18:13
>めたろうさん
「篦棒な人々」は10月刊行予定です。発売日がまだよくわからないんですが、出るのは間違いないです。
投稿: たけくま | 2007/08/30 19:02
鬼太郎もアンパンマンも今の時代にあっても
違和感ないですね。独特の世界観があるから
でしょうか。
投稿: あ | 2007/08/30 20:21
鬼太郎、自分の世代的にはアニメ2作目で85年の3作
目は雰囲気がどうもヌルくて観ていなかったのですが
なんと芹川有吾氏が演出参加されていた話があったん
ですね。竹熊・辻両先生の新宿の公開講座でも
「巨匠」とチラリと触れられていらっしゃいましたが
全く同意です。マジンガーZの演出回は神がかった
クオリティでしたから。鬼太郎アニメ3作目もそういう
理由で観ておくべきだったのが悔やまれます。
投稿: k2 | 2007/08/30 21:00
好きでやっているからこそ、そんな風に何かが転がり込んでくるのかもしれませんね
たけくまさんも体に気をつけて好きなようにやると良いのかも
水木先生のことでは馬鹿なことを書いて炎上したblogがあったりw
http://empire.cocolog-nifty.com/sun/cat6270762/index.html
投稿: sakimi | 2007/08/30 22:09
広沢瓢右衛門がいるじゃないか。
80歳でブレイク
92歳まで生きました。
という書き込みに何度も失敗しました。
投稿: 悪役ランプ | 2007/08/30 22:49
タイムリーなことに発売中の『文藝春秋SPECIAL季刊秋号 私の仕事私の生き方』という雑誌で、やなせ先生がエッセイを寄稿されています。「大特集 わたしの駆け出し時代」というコーナーにあります。やなせ先生ご自身も漫画家としての駆け出し時代はアンパンマンがヒットしてからだとお考えのようですよ。宜しければ一読なさってみては如何でしょうか。
投稿: れんげ草 | 2007/08/31 01:07
100%の成功率を誇る雨乞いの話を思い出しました。
もちろん誰もがその領域に到達できるわけでは無いのですが、
寄り道しても歩くのを止めない姿勢が憧れです。
「篦棒な人々」楽しみにしてます。
投稿: しい茸 | 2007/08/31 01:27
たけくま様
ご教示ありがとうございました。楽しみです。
投稿: めたろう | 2007/08/31 10:37
カーネルサンダースは70歳から鳥肉を売り始めてお金持ちになったらしいですよ。
投稿: 天魔 | 2007/08/31 21:06
>子なきじじいやジャムおじさんが時代と何か関係がありますか。
やなせさんも水木さんも戦争の影響が大きいので適切なようなそうでもないような。
http://d.hatena.ne.jp/derorinman/20070131/1170259999
やなせさんについては面白いエントリがありましたよ。
なんだか泣けるのでみなさんにも是非読んでいただきたい!
投稿: Wen | 2007/09/01 06:17
と思ったら先に出てた…すいません。
投稿: Wen | 2007/09/01 12:21
以前子供がどうしても行きたいというので
高知のアンパンマンミュージアムに行ったことあります。
最初は単なるキャラクターテーマパークの類だろうと思っていたのですが
出るときにはアンパンマンというキャラクターにこめられたやなせ先生の思いというか怨念というかあまりに重たいものにすかっかり当てられて
何か巨大な塊を飲み込んだような気分で
ミュージアムを後にしたことを思い出します。
投稿: くまぞう | 2007/09/01 12:38
俺とやなせさんの紙を介した初お目見えは今をさかのぼる事33年前、時は昭和の御世四七、ほるぷ出版の「さんすうだいすき」お父さまお母さまへ的副読本の挿絵でだったと記憶いたしてござったわい。
幼稚園の年少時代に「えいがかんしょうかい」で「やさしいらいおん」を観たので、「あっ これ あの絵と同じだァ」と見分けた最初 かも。しれません。
やさしいらいおんがいかりくるって家の壁をぶちやぶってスットンデ大穴開けたシーン、ベッドで驚く家人、まだ覚え手間する。
投稿: メル変ひじきごはん | 2007/09/03 16:58
四九だつたみたいデある。
投稿: メル変ひじきごはん | 2007/09/03 17:00