【blog考7】 リンクをめぐる論争(1)
ブログが普及して以降、ネット状況に大きな変化があったとすれば、その最たるものが「リンクを張る行為に気兼ねがなくなったこと」ではないだろうか。ここ2、3年内にインターネットを始めた人には、あるいはピンとこないかもしれないが、ほんの数年前までは、自分のウェブサイト(ホームページ)から他のウェブサイトにリンクを貼ることは、けっこう敷居の高い行為だったのだ。
現在でも、「無断リンク禁止」「ページにリンクを張る際には、当方にメールで連絡してください」と書かれている個人ウェブサイトをよく見かける。いや個人サイトばかりではなく、たとえば「社団法人 著作権情報センター」のような法律の専門家によるサイトですら、「リンク登録フォーム」などという不可解なものを設けていたりする。
http://www.cric.or.jp/index.html
↑社団法人 著作権情報センター
http://www.cric.or.jp/cgi-bin/link_app.html
↑著作権情報センターのリンク登録フォーム
ところが、同じ著作権情報センターのコンテンツ内に、次のような記述があるのだからややこしい。
http://www.cric.or.jp/qa/multimedia/multi14_qa.html
↑コピライトQ&A 無断でリンクを張ることは著作権侵害になるのでしょうか。
上のコンテンツによれば、
「結論を先にいえば、リンクを張ることは、単に別のホームページに行けること、そしてそのホームページの中にある情報にたどり着けることを指示するに止まり、その情報をみずから複製したり送信したりするわけではないので、著作権侵害とはならないというべきでしょう。」
とあり、さらには、
「「リンクを張る際には当方に申し出てください」とか、「リンクを張るには当方の許諾が必要です」などの文言が付されている場合がありますが、このような文言は道義的にはともかく、法律的には意味のないものと考えて差し支えありません。ホームページに情報を載せるということは、その情報がネットワークによって世界中に伝達されることを意味しており、そのことはホームページの作成者自身覚悟しているとみるべきだからです。リンクを張られて困るような情報ははじめからホームページには載せるべきではなく、また載せる場合であっても、ある特定の人に対してのみ知らせようと考えているときは、ロック装置を施してパスワードを入力しなければ見られないようにしておけばよいだけのことではないでしょうか。」
とまで書かれてある。
それとは別の項目である「リンク張りについて著作権ではどのように考えられるのでしょうか。」になると少しニュアンスが変わっている。
http://www.cric.or.jp/qa/sodan/sodan18a_qa.html
↑「コピライト」誌1998年1月号(No442)ニュース欄に「日本のニュースサイトへの無断リンク張りに抗議」という記事がありましたが、リンク張りについて著作権法ではどのように考えられるのでしょうか?
これによると、
「インターネット上のニュースサイトを無断でリンクさせることについて著作権法上は必ずしも明確ではありません。」
としながらも、
「他人の創作したニュースサイトやホームページに勝手にリンクし、それによって利益をあげているような業者の場合には、法的に全くフリーというのも社会的公平という観点からは釈然としないものが残ります。」
として、
「日本新聞協会編集委員会は1997年11月に「ネットワーク上の著作権について」という見解をまとめました(http://www.pressnet.or.jp で見ることができます。)。この中では、インターネットで新聞記事等を利用する場合のほか、リンクについても発信元の新聞・通信社への連絡を要望しています。上で述べたようにリンク張りが全く法律上問題がないとは言い切れませんから、リンクをする場合には新聞・通信社への連絡を心がけるべきであると思われます。 」
とまとめている。
こちらの意見によると「リンクによって利益をあげている業者の場合」は、「リンク張りに際して連絡を心がけるべき」ということで、これは社会通念としては、それなりに理解できる意見ではある。
しかしいずれにせよ、著作権情報センターのウェブサイト内には、リンク張りに許諾を求めるのは法的に根拠がないとか、著作権法上は必ずしも明確ではないと書かれてあるにも関わらず、自分のウェブサイトにはリンク許諾を求めているわけである。私は法律の素人だが、素人なりに素直に読むなら「ダブルスタンダード」であるとしか思えず、たいへん不思議に感じる。
法律的に無断リンクに問題はないが、「道義的に」「マナー」として許諾の可否を乞うてくれといっているのかと思われるが、どうもはっきりしない。道義的要望にしては「リンクは新しいウインドウを開くようにして下さい。」とか「内容から見て公序良俗に反すると判断した場合には、リンクをお断りすることがあります。」などと注文が細かい。これはいかなる意図と法的権限があってこう書いてあるのだろうか。よくわからないので、ぜひとも著作権情報センターの公式な見解を知りたいものである。
電話かメールで直接問い合わせることも考えたが、社団法人著作権情報センターは法律の専門家による公的な組織だと思われるので、あえてこうしてブログ上にて公開形式で問いかけた上で無断リンクを張ることにした。後で述べるが、私はインターネット上のリンク行為は自由になされるべきだと考える立場の人間である。しかし、法律は極力守りたいと思っている。私の行為に万一法的な問題があるのなら、著作権情報センターの側からクレームなり訴訟なりがなされるであろう。
いい機会なので、無断リンクのどこが法的な問題となるのか、法的な問題がないならなぜ「リンク登録フォーム」という不可解なものをサイトとして用意されているのか、「お断りすることがあります」といえる法的な根拠はあるのか、ぜひとも無学な私にお教えいただきたい。私宛のメールは、左サイドバーの「メール送信」から送ることができる。
この社団法人著作権情報センターのサイトは1996年からある有名なページで、著作権のことや法律相談、さまざまな事例を知るうえで大変有益なサイトである(組織自体は1959年から存在する)。だが、リンクについての見解には先に見たように矛盾と思われる部分が残っている。しかしこのサイトができた当時、これは特に矛盾とは感じられなかった可能性がある。なぜならインターネット黎明期(※ブログ登場以前と訂正。以下同様)においては、自サイトに他サイトのリンクを張る場合は、サイト主にメールなりで仁義を切って許可を得ることが「ネチケット(ネットでのマナー)」とされていたからである。
今もそう考える人は多いようだ。私のブログにも、「リンクを張ってもよろしいですか」という連絡メールが時々送られて来る。文面はほぼ例外なく礼儀正しいもので、私は必ず「メール拝読しました。私のブログにリンクを張る際には、自由に張っていただいて結構です。今後とも許諾を得る必要はありません。ご丁寧にありがとうございました」と返事をするようにしている。
繰り返すがインターネット初期(ブログ登場以前)には、このようなリンク依頼メールを送ることが半ば「常識」とされていた。しかしサイト主の中には「リンクフリー主義者」もいて、「許諾をとるのがマナー派」と「張りたきゃ勝手に張れ派」との間で論争まで起きていたのだ。その論争の名残は、今もネット上に残っているが、ここではウィキベディアの「リンクフリー」の項目をあげることにする。
なお、「リンクフリー派」の有名人では、翻訳家で評論家の山形浩生氏がいる。彼はアメリカの社会学者ローレンス・レッシグの著作の翻訳と、二次使用の立場からの著作権拡張運動である「クリエイティブ・コモンズ」の紹介で知られている。氏のサイトの「リンクするなら黙ってやれ!」という文章が傑作なので、さっそくリンクさせていただく。
http://cruel.org/linkpolicy.html
↑山形浩生 リンクするなら黙ってやれ!
こうした「リンクをめぐる論争」は、2003~04年にかけてのブログ・サービスの普及によって、今ではすっかりなりを潜めた感がある。なぜならブログはリンクを張る・張られることが、最初からアーキテクチャとして組み込まれているサービスだからだ。(また、自ブログへのリンクを勝手に送りつけるトラックバックという機能もある。)ほとんどHTMLなどをいじることなくコンテンツが書けてしまうので、たとえば著作権情報センターに書いてある「リンクは新しいウインドウを開くようにして下さい。」という「要望」も、簡単に聞き入れることができない。なぜなら、私が使っているココログでは、どこかにリンクを張っても、新しいウィンドウを開いてリンク先を表示する仕様にはなっていないからである(設定でいじれるのかもしれないが、いまだによくわからない)。
また今世紀に入ってからのgoogleなどロボット型サーチエンジンの発達も、リンクフリー論議を事実上無意味なものとしてしまった。なぜならあれらのサービスは、そのサイトにどのくらいリンクが張られているかを読み取って順位づけし(ページランク)、検索結果のリンクをユーザー画面に表示することで成立しているからである。googleにリンクされたくないのであれば、こちらのサイトでプログラム的にロボット検索避け対策をとるしか方法がない。googleに文句のメールを出しても、無視されるのがオチである。
「リンクは許可を得るのがマナー」だとする派の主張とその根拠については、これはこれで考えるに値するものがあるので、次回で考察を加えたいと思う。とにかくブログの普及によって、なし崩し的に「リンクフリー」が常識となってきたことは、私のように他サイトを紹介したり論評することの多い人間からすると、つくづく便利になったものであると、素直に今は思っている。
この、かつて大いに物議を醸した「リンク論争」は、しかし「インターネットを人々がどのように需要していったか?」を考えるためには、無視できない問題を秘めている。そのことについては、次回に書こう。 《つづく》
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コメント
自分のWebサイトにリンクの許諾を求める人は、ある種の感染呪術を恐れているのだと思います。
こういう考えを非合理的と笑い飛ばすことも可能ですが、「信仰上の理由によりリンクには許諾を求める」という人がいたとすれば、その人の立場は尊重されてしかるべきだと思います。
また、Webのリンクがもたらす接触感覚の強さは、Webの構造が変わっていくと同時にしだいに薄れていくのかもしれません。
文化人類学的に非常に興味深い話です。
投稿: torafuzuku | 2007/09/15 11:59
関連して思い出すのは、一時期話題になった
“ぱど厨”と呼ばれた小中学生たちのことですね。
他人のサイト上にある画像コンテンツを
無断で自サイトに使用する行為は、今でも非常識な行為だと
思いますが、彼らにとっては
リンクフリー感覚だったんでしょうね。
あと、当時無断リンクが気持ち悪い行為だったのは、
アクセス解析技術が今ほど発達していなかった事情もあるんでしょうね。
ブログであれば、どこからリンクされてもわかりますし。
投稿: fuji | 2007/09/15 12:16
ええと、インターネット(というかWWW)黎明期にはむしろリンクにいちいち許可が要るという発想自体なかったと記憶しています。WWWというメディアの最大の特徴がリンクであり、それを否定するのはWWWの否定に他ならないという感じでした。
発展期に入り、WWWがマニアのものでなくなり、悪口をかかれることの恐怖、組織の場合はリンクされた結果に責任をもてないことへの警戒、フレームなどの入れ子構造のページが作られ、単なるページへのリンクでは本来のレイアウトが崩れるようなデザイン上の都合が出てきたことなど、さまざまな理由から「リンクには許可を」「リンクはトップページへ」といった要請が増えてきたと思います。
ですから、むしろblogがリンク文化を復活させたという感じかも。
しかし、最近はコメント/トラックバックspamが増えてしまって難儀ですねえ。
うちのサイトはspamフィルタを備えているのですが、これもCGIプログラムですので、大量のspamが短時間に送りつけられた結果、サーバーに過度の負担をかけてしまい、一時アカウント停止になってしまったという事がありました。そんなわけで結局トラックバック機能自体を止めてしまいました。
投稿: 後藤寿庵 | 2007/09/15 14:29
↑本当の黎明期(マニアやプログラマしかやらなかったような時期)は後藤さんのおっしゃる通りかもしれないですね。ですが僕がインターネットを始めた97年には「リンクに許可を」派が優勢だったと記憶しています。
それがブログの登場を契機にリンク論争そのものが下火になったと思うんですが。マニアではない、一般的なネットユーザーの認識としてはそんな感じです。マニア層にとっては、後藤さんの言うとおり「インターネットはリンクフリー」が常識でした。
投稿: たけくま | 2007/09/15 15:22
>それがブログの登場を契機にリンク論争そのものが
>下火になったと思うんですが。
それがまた再燃してるみたいですよ。
『最終防衛ライン2 - ブログ補完計画 ブログ論が再燃する意義』
http://d.hatena.ne.jp/lastline/20070910/1189422590
>無断リンク禁止論が再燃する理由は、常に新しい人々がネットに流入するからだろう。
>自分の周りだけで楽しみたいから「無断リンク禁止」をかかげるのだろう。
『歌うマイコン 歴史は螺旋を描いて進むもの…かもしれない』
http://scientificclub-run.net/index.php?UID=1189633987
↑『初音ミク』のことで、PC6601SRのことを思い出してる人もいますが、
>歴史は螺旋を描いて進んでいる…
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は、ループネタなんでしょ?
なんか時代の空気とシンクロしてるんですかねぇ?
(それともやや好景気なんで、
昔中断したネタや、未完成だったネタを引っ張ってくることが多いとか(笑))
投稿: naga | 2007/09/15 16:07
http://www.gainax.co.jp/anime/eva/input.html
害夏糞は、自分で描いたイラストまで
公開したかったら、俺達の許可を得ろとか言ってたよな
何様なんだか
未だにカンチガイしてるみたいだが、このパチンコ会社は
投稿: e | 2007/09/15 16:32
↑リンクの問題と版権の問題は全然違うのでは?
投稿: イチ | 2007/09/15 20:33
Webページの管理者の立場からいえば、サイト構造やサイトURLの変更の際にリンクを貼っている人たちに変更を連絡できるので、リンクを許諾性にする事には実用上十分なメリットがあると思います。
勿論、リンクを貼った人たちをきちんと名簿管理出来なければ意味がありませんが。
投稿: | 2007/09/15 20:40
最近のリンクに関する論争といえば、この人ですね。
h抜きリンク防止のお願い
http://www.geocities.jp/buzzfullboy/index.html
【h抜きリンク防止】take1=buzzfullboy被害者スレ2【強制・粘着】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/doujin/1184597686/l50
グーグルでの検索結果
http://www.google.com/search?num=50&lr=lang_ja&q=buzzfullboy
主張するのは勝手だけど、ストーカー行為まで発展するのは問題ですな。
投稿: ファットボーイ・スソム | 2007/09/15 20:56
かなり早い時期からリンクフリーをうたった有名な共産趣味者のサイトが
あったのですが無断でリンクを張るとそこの管理人さんがイベントでリンク
先のかたを「ネチケットに欠ける」恫喝するということがございました。
投稿: 通りすがり | 2007/09/16 00:48
昔から個人サイトを運営している身として言わせてもらいますと、例えばファイル構成を変えたときに、せっかくリンクしてもらっている相手側がリンク切れになってしまうのは申し訳ないので、トップページ以外は要連絡とすることがあります。
検索エンジンは無断リンクだろ!とのことですが、実は最近はある程度コントロールが効くようになっています。SEOの勉強を少しでもした方ならご存知かと思います。
例えば、ページを移転した場合、301のサーバレスポンスを返せば、検索エンジンはページが移転したと判断し、一定期間内に移転先へインデックスを更新します。
また、グーグルやヤフーにはサイトマップという機能があり、XMLで自らファイル一覧を作成し、それを検索エンジンに読ませることで、クロールの頻度やページ順位をある程度制御できます。
同じキーワードで引っかかるページが自分のサイトに複数ある場合、優先順位が最も高いページが表示されるようになります。SEOに真面目に取り組んでいるサイトでは、これとmetaタグを組み合わせて、途中のページがなるべくインデックスされないように工夫しているようです。
手動リンクではこのような技が通用しないため、SEO的には悩ましい限りです。強制力は無いにしても、ある程度「守ってください」的な文言を入れることは、一定の効果がある場合もありますので、まあ大目に見てあげてください。
投稿: tc | 2007/09/16 02:27
企業や商目的のネット参加者も増えてますから、リンク文化と著作権・版権の問題で、いろいろ不都合が出てきそうな気もしますね。
ただ1枚の写真であっても、それが著作物としての意味合いを強く持つなら、本質的に「フリーお断り」なんじゃないかと思うんですよ。でも、ネットって環境的には「フリーが当然であってフリーじゃないものは帰れ馬鹿」なんでしょ?
たけくまさんの場合は著作者としての一面も持ってますから、このへんの機微について考えることもおありなんじゃないかと思いますが。いかがでしょ?
投稿: 渡辺裕 | 2007/09/16 06:47
> フリーが当然であってフリーじゃないものは帰れ馬鹿
リンクとは何の関係もないですがな。
リンクとは方向指示看板ですよ。
投稿: nomad | 2007/09/16 14:00
元うんこさんの肩を持つ訳じゃないですが、情報を共有して自由に使うようにする為の技術的実装としてリンクがある訳ですから大いに関係がありますよ。
ただ、元うんこさんの書き方も、いきなり著作権の話とかが出てくるから整理されていないように見えますね。
投稿: | 2007/09/16 14:39
リンク許諾関連では高木浩光さんの■無断リンクに関する日記がおもしろいです。
http://d.hatena.ne.jp/HiromitsuTakagi/00000001#link
投稿: ねぼ | 2007/09/16 18:29