「初音ミク」事件について
本当は文化庁の「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集の実施について書こうと思っていたんですが、17日未明あたりから著作権問題絡みで、「初音ミク」関係のネットでの動きが慌ただしいことになってきました。
最初は「たけくまメモ・コメント掲示板」の書き込みで知ったんですよ。はじめは「グーグルの画像検索で初音ミクの画像がヒットしなくなった」というものでした。これ書いてる18日夜現在、グーグルで画像サーチするとちらほらヒットするようにはなってるみたいだけど、18日早朝あたりは確かに本家の画像はまったく検索できなかったです。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/18/news065.html
↑「ITmedia」の報道記事
それで2ちゃんには早速スレが立っていて「電通の陰謀か?」とか大騒ぎになってる。ところが初音ミクがらみの事件はそれだけではありませんでした。
やはりコメント掲示板で「めたろう」さんが教えてくれたんですが、今度はウィキペディアの「初音ミク」のページが、「著作権侵害の疑いあり」とのことで急に読めなくなってしまいました。現在(18日夜10時半)は暫定復旧してるみたいですが、それでもトップに大きく「著作権侵害のおそれがあるので審議中」と表示が出ています。(※追記:「やじうまウォッチ」によると、削除は16日に行われた模様)
http://internet.watch.impress.co.jp/static/yajiuma/2007/10/18/
↑「やじうまWatch」初音ミクに大殺界? WikipediaとGoogle画像検索で削除に
http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%88%9D%E9%9F%B3%E3%83%9F%E3%82%AF&oldid=15578286
↑「初音ミク」ウィキペディア
グーグル検索の件と、このウィキペディアの件に関連があるのかは現時点では不明です。ところがウィキの件については、なんと初音ミクの発売元であるソフトメーカー「クリプトン」の伊藤社長が、自身のブログで「ウィキペディアの削除要請は自分や当社の知らないところで行われたものだとして、次のような異例の声明を出す事態に発展。
『Wikipedia「初音ミク」記事内において、公式サイト(http://www.crypton.co.jp/mp/pages/prod/vocaloid/cv01.jsp)のテキスト文を弊社(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社)の明示的な許諾を得ずとも引用いただくことを許諾いたします。』
http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/10/wikipedia.html
↑上の声明文が掲載されたクリプトン伊藤社長のブログ
正直「著作権者側」の代表がこんな声明を出すのはたぶん前例がない(著作権法の要件を満たしていれば引用は無断でしてもOKなので、伊藤社長の声明文中の「引用」はここでは「転載」とすべきだと思いますが)。ところがその後のウィキペディア運営側の対応がどうもはっきりしないのですよ。
そこんとこの経緯は関連ページを見ていただきたい。ウィキペディアだけでなくリンクが多岐にわたっているので、ちょうどこの件に関する「まとめページ」を見つけましたから皆様もをざっとお目通しいただきたいです。「検索エンジンからの画像消失の件」と、「ウィキペディア公開停止の件」が両方ともまとめられています(ほとんどがまだ検索エンジン関連みたいです。ウィキペディア問題は最後のほうにあります)。
http://matome.info/HatsuneMikuImageSearch/
↑画像検索エンジンから「初音ミク」の検索結果が一斉に消えた件(まとめページ)
2ちゃんのスレを含めるとあまりにも情報が膨大で、しかも現在進行形なので俺も断定的なことはまだいえないんですが、とりあえず「ウィキペディアの件」に関して言うと、どうやら運営側に「削除依頼」を出した人物がいるらしい。運営側は、それが著作権侵害なのかどうかはにわかに判断できないとしながらも、「侵害の可能性はあり」として、公開を一時停止にしたと。
ところが、なんということか著作権者側の社長さんが「載せてもウチは構いません」と言ったから 騒ぎが大きくなった。日本の著作権法は「親告罪」でありますから、それが侵害にあたるかどうかは「著作権所有者」に全面的な決定権があるわけですね。
つまり「善意の第三者」が、「これは著作権侵害の疑いがありますから削除したほうがいいですよ」と忠告したとしても、運営側は本当にそれが著作権侵害であるのか、著作権者にお伺いを立ててから削除なり停止なりするのが「筋」なのです。著作権にかんしては、運営側だって第三者にすぎないわけですから。
ところが、ウィキペディア運営側は、ウィキペディア内の文書はすべてGFDLというフリー著作権ライセンスに依拠しているとして、「初音ミクの公式サイトの文書もGFDLに登録してくれ」と要求してきたそうです(伊藤社長のブログ参照)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/GNU_Free_Documentation_License
GFDLに関してはややこしいので↑のページを参照していただきたいのですが、要は「著作権者が著作権を保持したまま、著作物の自由な改変と配布を許可する」ものだそうで。似たものにクリエイティブ・コモンズ(CC)とかありますね。ネット時代に即した著作権の形態を考えようという国際的な運動のひとつです。
その主旨に異論はありませんが、今回の場合、著作権者が「構わない」といっているのに「GFDLのルールに合わせなければダメ」というのも何かヘンな気がします。だって、GFDLというのは日本の法律でもなんでもなく、現状では日本版ウィキペディアが採用しているローカル・ルールにすぎないわけですから。(※注)
※注 コメント掲示板に指摘があり、GFDLは世界中のウィキペディアが準拠しているものだとのこと。しかしそれはそれ、あくまで日本国内では日本の著作権法が優先するので、やはりこれは「ローカルルール」と見なすべきだろう。
まあ著作権論議はさておくとして、この問題の本質は、俺が見る限り「著作権者のあずかり知らないところで」「善意の第三者による告発」があり、その告発でウィキペディアが「過剰な自主規制」をしてしまったところにあるような気がします。まだちょっと、推移を見ていないとまだはっきりとはわかりませんけど、読む限りではたぶんそう。
俺もネット上で告発された経験があるんですけど、ネットには「告発マニア」ともいうべき人たちがいます。遵法精神はもちろん結構なことなんですが、これが「著作権」に対して過敏に反応したときには、正直ちょっとトンチンカンなのでは、と思うことが多々あるんですね。
俺も著作権には関心があるほうだと思うんですが、それでも「誰々が●●をパクった」なんてことを、悪いこととしてことさらに「告発」したいとは思いません。自分は著作権者でもあるから、その言葉は、いつか自分にも跳ね返ってくる恐れだってありますからね。かりに「盗作しよう」と思ってなくたって、無意識的に盗作してしまうことがないともいえない。
特に俺の場合「パロディ」をやりますしね。これ、日本の著作権法では厳密にいえばアウトの可能性があるんです。それなのに、なぜそういうことを何十年も続けてこられたのかといえば、一番の理由は「著作権侵害は親告罪」だからです。要するに、告発マニアがなんと言おうと、パロディもとが「気にしない」なら、それですべてOKなわけです。俺は、この「著作権は親告罪である」ことに、ずいぶん助けられてきた気がします。
こないだから「たけくまメモ」で何度も「著作権法の非親告罪化」に反対のキャンペーンを張ってきたのも、非親告罪になったら告発マニア大喜びで、俺は困る、ということもありました。もちろんそれだけじゃないですけどね。
「ニコニコ動画」もそうですよね。西村博之氏もたびたび「著作権侵害は親告罪ですから」ってことを主張している。だから、誰かが勝手に他人の動画をアップしても、「著作権者がクレームを言ってこない限り削除しない」という方針が成立する。そのかわり、著作権者のクレームがあればサクッと削除する。じつに明快な方針です。
西村氏の姿勢を道義的に責めるのはたやすいけど、著作権侵害の「恐れ」がニコニコ動画の面白さを支えていることはまぎれもない事実。そこから「新しい文化」が始まる可能性を見ているのは、たぶん俺ばかりではないわけで。
話がとっ散らかりました。とりあえず「初音ミク事件」、まさに現在進行形ですので、皆さんと一緒に俺も注目していきたいと思います。それから文化庁の中間報告に国民の意見を募集している件、例によって政府のサイトにひっそり載っているんですが、締め切りは11月15日までなので、まだ時間はあります。「著作権法の非親告罪化」については、だいぶトーンが落ちてきてはっきりとは書かれていないものの、「見直し」のニュアンスはまだ残っていますので注意が必要です。
詳しいことはまた書きますが、政府に直接みんなの意見を伝えるチャンスです。俺も出しますが、みなさんも意見を出してみてはいかがでしょうか。
http://www.center.e-gov.go.jp/tmself16/htdocs/H_Faq001.jsp
↑電子政府トップページ
http://search.e-gov.go.jp
↑「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」意見募集中案件詳細
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