コミックマヴォVol.5

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2007/11/19

【篦棒な人々 1】「虚業家」康芳夫・抜粋

12月5日発売の拙著『篦棒(ベラボー)な人々』(河出文庫)の宣伝を兼ねた抜粋です。これを読んで「もっと読みたい」と思われましたら、なにとぞ文庫のほうもよろしくお願いいたします。アマゾンにて予約受付中です。

第一弾は興行師にして自称「虚業家」の康芳夫(こう・よしお)氏です。以下、QJ創刊準備号に載せたプロフィールとともに、インタビューの一部を抜粋します。康氏に続きまして来月頭までに、石原豪人・川内康範・糸井貫二氏のインタビューを順次抜粋紹介していきます。

Kou ●康芳夫・プロフィール

西暦千九百参拾七年東京西神田に中国人医師の子として生まる母は日本人
八歳太平洋戦争終了
拾五歳海城高校入学番長のマネージャーとして辣腕揮う
弐拾歳横浜国大入学壱年で中退翌年東京大学入学
五月祭で各種イベント企画石原慎太郎呼ぶ

弐拾五歳不世出の興行師神彰と出会う東大卒業と同時にアート・フレンド・アソシエーション入社初仕事でソニー・ロリンズ呼ぶ
弐拾七歳アート・ライフ設立副社長就任アラビヤ大魔法団呼ぶ
参拾歳カシアス・クレイ徴兵拒否で来日中止
同年マイルス・デイビス入国拒否され公演中止
参拾壱歳天声出版にて渋沢龍彦編集「血と薔薇」創刊アート・ライフ倒産
参拾弐歳創魂出版設立『偶像破壊シリーズ』刊行開始
参拾参歳『家畜人ヤプー』出版プロデュース忽ち大騒動
同年三島由紀夫自決
参拾四歳モハメド・アリVSフォスター戦実現悲願達成

参拾六歳トム・ジョーンズ招聘同年ネッシー捕獲探検隊結成しネス湖へ
参拾七歳「虚業家宣言」出版『ネッシーはここにいる』出版
参拾九歳オリバー君呼ぶ日本中大フィーバー
四拾歳ハイチにて人食い虎対空手の死闘計画するも中止
四拾弐歳アントニオ猪木対アミン大統領中止
四拾参歳モハメド・アリ対アントニオ猪木アドバイザーとして参加
四拾五歳テレビ朝日ロス五輪独占中継権獲得のため工作
四拾八歳『三浦和義の人生相談』プロモート
四拾九歳バイブルランド国際調査委員会を設立しノアの方舟探索プロジェクト開始するも度重なる戦火のため延期中
五拾四歳・『続・家畜人ヤプー』再びプロデュース芝浦ゴールドにて記念イベント敢行
(以上・1991年時点での履歴)

●退屈の日々

竹熊 康さんがこういう世界にはいられた理由は、どこにあるんでしょうか。

 戦争が終わった時、僕は七つだったかな。小学校一年ですよね。それでまあ物心がついてきて、小学校六年とか中学校一年ぐらいの時にね、だんだん退屈になってきたっていうことがあるんだよ。とにかく毎日が退屈でしかたがなかった。
 闇市の時代が終わって、相対的安定期っていうのかな。ノサカ(野坂昭如)やミシマ(三島由紀夫)の時代よ。彼らがマスコミにワーッと出てきてさ。一方では日米安保や全学連なんかの政治の季節でもあったわけだけど、全体としては世の中が安定してきちゃって、退屈な時代に入ってきてね。高度成長期のはしりの時期。だから僕は物心ついて、鬱屈というか、メランコリーな気分に陥ってさ。まっさきに退屈しのぎを考えるようになったんだ。それは今でも続いてるんだけどね。
 あの当時だったら、そういう若者がやることはだいたい決まってるじゃない。つまり政治的な革命運動に行くか、芸術運動に行くとかね。でも僕は芸術家でもないし、革命家でもないし、どっちに行くということはなかった。

竹熊 時代的には、政治運動に参加することも十分可能だったわけですよね。

(中略)

 いや、革命っていうのはイリュージョンだよ。革命の理想なんて実現するかどうかわかんないしね。結局同じなんだ。革命の徒がやってたことも、僕がやってたことも。退屈しのぎなんだ、安定した社会の中でのさ。
 当時、なにか面白いことで世の中を騒がせてやろうと思ったら、革命家か、さもなきゃ新聞記者しかなかったよ。いまじゃマスコミとか若いやつにはすごい人気だけど、昔はバカしか入社しなかったんだ。頭の悪いやつ。電通だって成績が悪いのが行ったんだから。ほんとにどうしようもないやつらがさ。今はもっと才ばしった連中が行くでしょ。
 とりあえずね、あの当時、まわりのやつらはみんなサラリーマンになっちゃって。僕みたいなハズレ者は少なかったな。東大出の興行師なんて僕が初めてだよ。

 (中略)

●アラビア大魔法団

竹熊 それから「アラビア大魔法団」の招聘ですか。

 ああ、アラビア魔法団。ありゃドイツから呼んだんだ。全員白人だよ。ホテルで全員の顔を黒く塗ったよ(笑)。

竹熊 まるでシャネルズですね。

 いきさつを話すとね、松山俊太郎っているだろ、インド哲学者のさ。最初、あいつをインドに行かせたんだよ。インド魔法で企画やろうかと思って。あの野郎がまだ大学院出たばかりで、ぶらぶらしてたころだから。
 それであいつ、インドに二ヶ月ぐらい行ってたんだけど、ロクなネタを見つけてこないんだよ。俊太郎、嘘ばっかり言うから。一つ目小僧とかさ。空中浮遊人間がいるとかね。でも肝心の写真を持って来ないんだもん。木にぶらさがって一年中寝てる行者とか、そういうのは本当にいたみたいだけどね。金がなくなったら、また送れって言ってきてね。結局、インド一周して、ブラッと帰って来たわけだ。当時で一〇〇万ぐらい浪費してさ。おかしな男だよ。それが今では大学の先生やってる。
 とにかくこれじゃ興行として形にならないんで、企画をアラビア魔法団に切り換えたの。アラブ人が一人もいないアラビア魔法団ってのをでっちあげてね。白人をアラビア人にしちゃった(笑)。横尾忠則君にポスター描いてもらってさ。三島由紀夫が初日に見にきて、神妙な顔して、これはなんなのって言って帰ったの覚えてる(笑)。

竹熊 しかしそれ、興行の原点的なものがありますね。

 原点。だから僕、いつも言うんだけどさ。夏に花園神社でやってるだろ。

竹熊 ああ、見せ物。ロクロ首。

 ロクロ首。あれですよ。親の因果がってやつ。あれが原点なのよ。そういう意味ではこのアラビア魔法団、まさに原点だったな(笑)。
 ただ、ひとつだけ不思議なことがあったんだ。ハンガリー人の魔術師がね、ワニに催眠術かけるんだよ。獰猛なワニを一〇匹ぐらい連れてきてさ、術をかけるだろ。そしたら本当にワニが止まっちゃうんだね。三メートルぐらい前でピタリと。これだけは今もって不思議なの。動物の専門家に全部チェックさせたんだけど、条件反射を利用するにしても、そもそもワニに条件反射の能力はないっていうんだよね。だからこれが興行の目玉だった。ワニ、クロコダイルの魔法。催眠術。

(中略)

●人食いトラ対空手

竹熊 で、そのあと「人喰いトラ対空手」(一九七七年)っていうのが。

 ああ、ハイチでやろうとしたアレね。当時のハイチの大統領でディバリエ・ジュニアってのがいたのよ。ブードゥー教のガキなんだが、大の空手ファンでさ。話を持ち掛けたら喜んでOKしてくれた。
 ところがブリジット・バルドーって女優がいるじゃない。こいつが妨害したんだ。なんでも動物愛護協会の会長だか理事だかだってことでね。それがカーター大統領、当時のアメリカ大統領に電報打ってねじ込んだんですね。それでアメリカの圧力で中止になっちゃった。ハイチはアメリカから二〇億ドルぐらい援助をもらってたからさ、世界でもっとも貧しい国だろ。それで、あっさり駄目になっちゃった。現地にいる間じゅう、僕らにはたえずハイチの秘密警察がついてた。やっちゃったら困るからって。

竹熊 でも、やる寸前まで行ったんでしょう?

 そう。朝の四時ごろ、空輸したトラと一緒にハイチの飛行場に降りたんだよ。そしたら空港に五〇〇〇人くらい現地人が群がってる。口々にティーゲル、ティーゲルって叫んでさ。ハイチはフランス語だから、タイガーじゃなくてティーゲル。それでオリ降ろして、トラがワォーっと吠えたら、蜘蛛の子散らすように逃げてさ、遠くからこわごわ見てるんだ。連中、初めてトラ見たわけだから。
 トラはトラで怒り狂ってる。長時間飛行機に乗って興奮してるわけ。トラってアメリカ領土は通っちゃいけないんですよ、特殊な許可ないと。しょうがないから僕はインドからいったん東京に送って、そこからパリ経由で行かしたわけ。プロペラがガタガタの飛行機でね。その間、水も飲んでないわけだし、降りた途端に怒り狂ってね。
 それで筒を差し込んでそこから水やった。バケツ二杯ぐらい飲んだかもしれない。それから餌をいれたの。チキンをね、これも全部ひとかぶりですよ。なんかそれこそ、おにぎり食べるって感じでさ、一口でグチャグチャやってあっという間に。
 そのあと僕も驚いたことはね、ここはおもしろいんだけどね。檻はトラの寸法に合わせて、ほとんどギチギチの状態にしてあったの。身動きもできないくらいに。ところが空港に着いてオリを見たら、入れたときと、頭と尻の位置が反対になってるわけ。どうやってこれが逆さになったのか。要するに、そのくらい体がやわらかいわけよ。

竹熊 相手の空手家はどんな人だったんですか。

 国士館大学で空手教えてた山本君って言ってね、強い男だよ。正直、大山倍達より強いって評判だった。ところが彼、金に困ってたんだな。「康さん、金になるならなんでもやります」って言うから、「本当にやるか」って訊いたら「やります」と。だから俺、金渡してさ。やるっていうから(笑)。

竹熊 勝ち目はあったのでしょうか。

 あんたトラの爪って見たことある? 端的にいって出刃包丁だよ。出刃包丁が五本並んでいると考えればいい。さすがの山本もそれ見てキレちゃったよ。一応スパーリングやったんだ。地面に杭打って、トラを鎖でつないでグルグル回してさ。それで山本が空手の構えで、キチガイみたいになってこう近づくんだけど、どうしてもそばに寄れない(笑)。
 これじゃスパーリングにならんから、ドーベルマンを二匹買ってきた。で、トラにけしかけたんですよ。そしたらトラは眠そうな顔しててさ。お腹いっぱいだから、向かってこないんだよ。でもドーベルマンってすごい勇敢な犬なんだよね。唸りながら飛び掛かったわけ。その瞬間だよ。トラが、ドーベルマンの頭をピッとなぜたんだよ。それだけで二匹ともキャ~ンと飛び上がって、あっちの方向に吹っ飛んでった。近寄ってしげしげと見たら、二匹とも、顔が半分無いんだ(笑)。 ・・・まあ、とても人間が戦う相手じゃないね。いくら空手って言ってもねえ(笑)。


(中略)

●『家畜人ヤプー』

竹熊 さて問題の『ヤプー』の話なんですが。沼正三の『家畜人ヤプー』を初めて単行本化したのは、康さんですね。

 はいはいヤプーね。あれはそもそも三島由紀夫が僕のところに持ってきたのが始まりです。僕はそれまで『ヤプー』という小説が存在することを知らなかった。そのとき知ったんだ。三島が「とにかく康さん、騙されたと思って読んでみてよ」って持ってきて。

竹熊 読まれて、どう思われました?

 どう思うもなにも、すごい小説ですよ。まずは想像力、語学力。それから生物学的な知識の先取りね。今の遺伝子工学の、あらゆる問題を先取りしてるじゃない。すごいと思った。なにより「白・黒・黄色」の人種を扱った大きなテーマ。単純な意味でも「面白い」しね。もうスゴイとしか言いようがないですよ。さすが三島由紀夫が持って来た小説だと思いましたね。それであの頃は、澁澤龍彦、金井美恵子、それから中井英夫ね。『虚無への供物』を書いた。その全員が絶賛したわけだから。

竹熊 三島さんは『ヤプー』をどう評価されていたのですか。

 とにかく興奮してた。「スゴイ、スゴイ、康さん読んでくれ」と。彼、几帳面だから、連載されていた『ヤプー』を全部切り取ってスクラップにしてたね。僕はそれを読ませてもらったんだけど、ページごとに、いちいち彼の感想がまとめられていた。「ヤプーの読者には、大変な人がいるよ」って言ってね。彼自身、精神的にマゾだから、好んでいたんじゃないかな。

(中略)

●右翼の襲撃もいい宣伝だ

竹熊 内容が内容(日本人が白人の家畜にされる)だけに、右翼からなにか来ませんでしたか。

 来たよ。右翼来ましたよ。じつはね、わざと仕組もうと思ってたのよ。僕の代々木の事務所に右翼が殴り込むというシナリオをね。そしたら先に来ちゃってさ、本物が(笑)。はじめ、事務所に電話がかかって来たんだ。「ヤプーの出版をやめろ。うちのインテリが言うには、ありゃ日本民族をバカにした本だそうじゃないか。やめないと……ヒドイよ!」なんてな。その直後だな、事務所にそれとわかる三人組が来た。大阪の右翼でね、かなりのもんですよ。今もって誰がバックか、よくわからないんだけど。
 やつらいきなり短刀をぶっ立てる。ブシッとやって「イエスかノーか一週間以内に返事しろ!」って言うのね。僕はそんな脅し、何度も経験してるからどうってことないんだ。でも事務所にいる若いやつらは震えてたよ。修羅場なんてはじめてだからさ。ありゃかわいそうだったな(笑)。
 僕、「一週間後に返事するから、ともかく今日は帰ってください」と言ったのね。それで連中、必ず来ると思ったから、代々木署に連絡して事務所で張ってもらってたの。そしたら案の定来やがった。今度はナンバー2みたいなのが来たのよ。「どうなんだ」って言うからさ、「どうなんだもこうなんだもない」と。その時には警察が隣の部屋にいたわけです。それでパッと出て行って、連中、あっというまに連行されてっちゃった(笑)。
 そうこうするうちに、今度はお礼参りが来たわけですよ。事務所をガチャガチャに壊して行ったのね。本棚倒したりテレビ壊したりとか。それで代々木署が全部パクったわけですよ。
 その後検事から電話があって、示談にする意思はありますかと言ってくるんだ。検事さんがだよ。本来は器物破損で送検すべきですよね。それはちょっと僕には、一種のミステリーではあったんですけどね。

竹熊 何か裏であったんですかね。

 いやあ、そこはね、いろんな想像ができるんだけれども、とにかくそう言って来たわけよ。じゃあいいですよってことで、当時の金で一〇万円かな。ぽっきり。弁護士が来て示談成立すれば、一応処分保留で釈放します、それでよろしいですかと言うから、それでいいですよと。ま、別に俺はかまわないんだ。オトシマエさえつけてもらえれば。右翼の襲撃と言ったって、こっちは肚くくってたから。だって『ヤプー』を出すんだからな、ぜんぜんこたえなかった。

竹熊 でも、意外におとなしく済んじゃいましたね。

 そうだね。まあ、こっちも断固たる態度をとったから。ヤッパを二本ぐらい立てられたって、どうせ相手だって金や売名目的だから、やりっこないっていうのは分かってるし。でもまあ、万が一、確信犯が来たら怖いよ。本当の確信犯、たとえば山口二矢(おとや)みたいなのが来ると。ああいうのは金じゃないからな。それが僕は一番危惧したことではあったの、本当のこと言うと。だから確信犯か、単なる脅しかどうかっていうのは、さっき僕が言ったように、見極めるわけですよ。修羅場を踏むとはそういうことです。

竹熊 でも康さんは康さんで、それを逆手にとって宣伝してしまったみたいなことがありましたでしょう。

 まったくその通り(笑)。それを俺が仕組んだというふうに、皆、言うんだけど。まあ俺も仕組もうと思ってるうちに、先に来ちゃったんだから。だから都市出版社の矢牧君にしてからが、康さんが仕組んだんじゃないかって言うんだけど、それはちょっとできすぎなんだよ。ただこれを機会に、徹底的に俺は、朝日新聞の記者に第一報でスクープさせたとか、NHKのテレビに出たとか、週刊新潮に四ページ出たとか、大変な話題に持っていったんですよ。あれでまたバンバン売れたからね。しかも示談で一〇万円もらっちゃって、坊主丸儲け。その金、全部当時つきあってた女に盗られちゃったがね(笑)。

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