インドへ馬鹿がやって来た
マンガ家・山松ゆうきちさんの新刊『インドへ馬鹿がやって来た』(日本文芸社)が刊行されましたのでご報告します。
この「たけくまメモ」でもずっと前に紹介したことがあるんですが、山松さんがインドに半年間行って、そこで日本のマンガを出版しようとしたことがありました。ありましたではなくて、現在もその夢を諦めてはいないようなんですが。
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2005/05/post_8380.html
↑たけくまメモ「山松先生に会ってきた」
山松さんといえばマンガの中の雨を「ざかざんざかざんざかざん」と降らせたり、田舎町を舞台にババアとヤクザが出てくる人情だかなんだかよくわからない話を描いたりする巨匠なのですが、50代も後半にさしかかったある日、突然「マンガの出ていない国はあるのだろうか」と疑問を持ち、調べてみたらどうもインドは出ていないようなので、海外経験ゼロで英語もヒンディー語もしゃべれず、現地に知り合いが一人もいなかったんですが、とりあえず飛行機に乗ってインドに行ったのです。(行ってみて、あちらにもマンガはあることを知ったそうですが)
俺は青林工藝舎の浅川さんの紹介で、帰国直後の山松さんにお会いしましたが、写真で見たときよりだいぶほっそりされていたので、お痩せになったのですかと尋ねたら「15キロ痩せた」と。なんでも、インドに滞在していた半年の間、毎日現地の生水を大量に飲んでいたのだそうで、下痢しなかったんですかと聞いたら、
「俺は日本でも月に一回は下痢するからさ。だから向こうでも下痢したけど、よくわからなかった」
とのお言葉でした。それで、インドに持って行ったマンガが平田弘史先生の『血だるま剣法』で、現地の日本人留学生に頼んで、最初にこれをヒンディー語に翻訳したのですからものすごい話です。『血だるま剣法』それ自体がものすごいマンガなわけですが、それをインドで出版するというのはものすごさの二乗であります。
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2004/12/post_3.html
↑たけくまメモ「平田弘史・もうひとつの伝説」
それで、青林工藝舎の「アックス」で俺と大西祥平さんとで山松インタビューを行ったのでしたが、それは今回の単行本にも全文収録されております。そのインタビューの中で、俺が不用意に「インドに行って、人生観が変わるような体験はされましたか」という質問をしたんですよ。
ほら、70年代に横尾忠則や藤原新也みたいな人がインドに行って、悠久のガンジス川の河原で死体が犬に喰われている横で現地人が水浴びしている光景を見て、その生と死の強烈なコントラストに雷に打たれたようなショックを受けて悟りを開いたとか、あるじゃないですか。そういうことはありませんでしたかと訊いたら、
山松 そういうのは、ただ単に貧乏なバカがやることでさ、それ見て人生観が変わるってことはないよ。金もって賢くなればやらなくなるって。バカを見て感動することはない。
というお答えをいただき、違う意味でたいへん感動しました。
それにしても、そろそろ還暦になろうかという人が、ふと思い立って言葉の通じない異国へ行き、そこでマンガを印刷して本屋さんも扱ってくれずに路上でゴザ敷いて売ろうというバイタリティがどこから出てくるのか、またマンガははたして売れたのか、については、ぜひとも本書をお読みになってください。なんだかわかりませんが、やみくもに勇気の沸いてくる本ではあります。
※書評書いてから気がつきましたが、アマゾンではこの本まだ扱ってないのかな。見つからなかった。扱いを開始したら改めてリンク貼ります。それまで山松ゆうきちがどういう作家か知るには格好の一冊である、既刊の『山松』をどうぞ。
※「インドへ馬鹿がやってきた」がようやくアマゾンで予約開始したみたいです。発売予定が3月21日になってます。よろしくです。
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