コミックマヴォVol.5

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2008/04/05

ダーガーとディズニー

Photo←ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で

渋谷のシネマライズで現在上映中の『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』を見てきましたよ。試写会のお誘いもいただいてたんですけど、なかなか都合が合わずに映画館で見ることになりました。渋谷ではまだやるみたいですが、大阪梅田のガーデンシネマは今月18日までみたいなので大阪の人はお早めに。下の公式サイトで予告編も見られます。

http://henry-darger.com/
↑映画「非現実の王国で」公式サイト

映画は、幼くして天涯孤独の身となり、極度に内向的な性格から精神薄弱の施設に入れられた経緯、そしてそこを脱走して病院の清掃夫をしつつ膨大な「作品」を描き続け、81歳で没したダーガーの生い立ちを忠実に追っています。

数十年間一度も発表することなく、1万5千ページに及ぶ小説と挿し絵を描き続けていたダーガーの「妄想世界」。これと彼の実人生が寄せ木細工のように編集されているので、知識がないと最初は面くらうかも。でも彼の人生のほとんどすべてが「空想」で占められていたといっても過言ではなく、結局こういう構成にするしかないわけなのですが。

ダーガーといえば「ペニスをつけた少女=ヴィヴィアン・ガールズ」の、まるでディズニーがセーラームーンを描いたような幻想的な絵で有名ですが、今回個人的に収穫だったのは、ヴィヴィアン・ガールズが活躍する「非現実の王国で」という小説が、どういう「物語」だったのかが「実感として」よくわかったことです。いろんなところで梗概は読んでいたんですが、今回はダーガーの絵をCGでアニメ(疑似アニメですが)にしてセリフ入りで見せてくれたので、ああこういう話だったんだな、とようやく了解できました。

要するに少女奴隷の反乱に関する物語なのですが、なにしろ量があまりに膨大で、これまで海外でも一度も出版されたことがなく、たぶん今後も出版されることはない(採算の問題で)と思うので、ダーガーファンは見る価値があるでしょう。ちなみにこの映画の監督は約2年がかりで小説を全部読んでシナリオ書いたみたいですよ。

アニメに関しては、ダーガーの絵をそのまま動かそうとしたらああいう手法(画を構成するパーツをレイヤー分けして擬似的に動かす)しかないのでしょう。普通にキャラデザインしてテレビアニメみたいにしたら、おそらくぶちこわしになるのであれでよかったと思います。

それでアニメになって改めて「やはりそうか」と思ったのは、ディズニー作品とダーガー作品の親近性でした。ダーガーはディズニーより年上ですが、おおむね同世代人。彼が小説を描きはじめたのは1910年代からなのでディズニーより早いですが、イラストを描き始めたのは30年代からと推定されるので、これはディズニーがカラー作品を作り始めた最初の絶頂期にあたります。

Bitmap22 Bitmap20 ←『ウォーター・ベイビーズ』(ディズニー、1935年)より

俺がダーガー作品を見たとき最初に思ったのが「ディズニーみたいだなあ」ということで、それはたとえば『シリー・シンフォニー』の『ウォーター・ベイビーズ』とか、『空飛ぶ鼠』に登場するサイケデリックな蝶の羽を持つ女神のような、縮尺の狂った構図と色彩がダーガー世界にそっくりだと思ったわけです。

Disnybitmap37_2 ←『空飛ぶ鼠』(ディズニー、1934年)より

ダーガー絵画の特徴はコピーとコラージュでしたが、俺の知る限りではディズニー作品を模写した形跡はなく、そもそもダーガーがディズニー映画を見ていたかもわかりません。新聞雑誌を拾ってきてそれをコラージュしていたので、当然絵ぐらいは知っていたと思いますが。

たぶんこれはディズニーを真似したとかそういうことではなくて、おそらく両者のイメージの源泉が19~20世紀初頭の童話や絵本、コミックブックだということが共通していること、それから「子供の妄想世界」を好む部分が資質的に共通しているのでしょう。

あと花鳥風月の光景がパノラマ的に広がっていることも両者に共通しています。ダーガーの絵はほとんどが横長で3メートルくらいあり、これはキャラの移動を想定して描かれるアニメの背景に酷似しているわけですが、ダーガーにアニメの背景画の知識があったとは思えないので、偶然なんでしょう。

Genjyutusinntyou9312 ←「芸術新潮」1993年12月号

ダーガーが日本で一般に紹介されたのは90年代になってからで、93年に日本にも巡回したアウトサイダー・アートを紹介した「パラレル・ビジョン」展と、それを扱った「芸術新潮」93年12月号の特集「病める天才たち」がきっかけではないかと思われます。俺もこの特集で知りました。世の中、すごい人がいるものだなと思いましたが、その後俺は「クイック・ジャパン」でダダカン師の取材をして、現代の日本にもそういう人がいるんだという認識を新たにしました。ダダカン師の場合はしかし、代表作がパフォーマンスなので、作品として後には残ってないんですけど。

Dagerdscn0274 ←同・「病める天才たち」より

生き様というのか、世の中には「作家と呼ばれたい」人と「作品が作りたい」人の二種類がいて、大部分はどちらかに軸足を置きながらもその中間で生きているわけです。ダーガーやダダカンは完全に後者ですよね。花輪和一さんもそうです。昔、花輪さんに話を伺ったことがあるんですが、とにかく作品を描いていないと苦しくてしかたがないと。創作意欲がというより、自分の心の中にある「業」を作品の形で外に出さないと、自分はどうにかなってしまうのではないかという恐怖があるのだと。自分の作品は「業」の排泄物みたいなものだから、描いたらあとはどうなってもいいのだと。

そういって、裏山に穴掘って自作を埋めたりするんですよ。花輪さんの初期作品の原画がほとんど残っていないのは、そういう事情があったりするんですね。

それ聞いて、ああ、本物の作家ってそういうものなんだなあ、と思いました。作らないと気が狂うから作る、というような。よくあの人は天才だとか、自分も天才になりたいと憧れる人がいるわけですけど、たぶん本当の天才はとても苦しいのだと思うんですよね。

ディズニーは、集団作業の中でプロデューサーの立場で作品を作ることを選んだわけで、そこはダーガーとは対極に位置する人です。もちろん一人でアニメは作れないからだけど、もしディズニーが個人作家だったとしたら、案外ダーガーみたいになっていたかもしれませんね。

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