ふくしま政美先生の逆襲
先々週の土曜日に、新宿ロフトプラスワンでふくしま政美先生『女犯坊』の新刊発売記念イベントがありました。
このブログではちょうど「マンガ界崩壊を止めるには」のエントリ連載の最中で、それの執筆で手一杯だったため、報告するのが遅れてしまいました。ふくしま先生にお詫び申し上げるとともに、ようやく本の紹介ができてほっとしています。
ちょうど10年前に太田出版から『女犯坊』(滝沢解原作オリジナル版)が復刻され、やはりこのロフトで「ふくしま政美復活祭」が開かれたのでしたが、そこから先生も山あり谷ありの幾星霜、ついに「漫画サンデー」で新原作者(坂本六有)とともに、あの劇画史上最悪最強と呼ばれた竜水和尚が復活したのであります。なんでもこの作品が載ったことで、漫サンの売り上げが3パーセント伸びたという噂まであります。
実は前の復活祭の時には、俺が調子に乗って「先生の原作書きますよ!」と口走ってしまい、そのまま原作をやることになって大変な経験をさせていただきました。
1999年の秋から翌年まで「漫画エロトピア」で連載した『暴乳拳』と いう、全長2メートルの“女性”ヘビー級プロボクサーが活躍するボクシングマンガだったんですが、ふくしま先生のマンガ家としてのデンジャラスさはマンガそのままであり、そのエクストリームな仕事ぶりに巻き込まれ 参加させていただきましたことは、今では貴重な経験になっております。
ふくしま先生は必ず原作を必要とされる作家なんですけど、絶対に原作通りに書かないことでも有名で、あの梶原一騎の原作も平気で変えて梶原先生を激怒させても豪快にガハハハと笑っておられたエピソードからも、先生のエクストリーム加減がおわかりかと思います。
当日のロフトでは先生と久しぶりに再会し、かつての俺の非礼(最後は先生に説教までしたこと)を詫びるとともに、昔のエピソードをいろいろ披露したのでした。
特に俺が『暴乳拳』の原作打ち合わせでよく覚えているのは、ある日先生がこういうことを言い出したんですよ。
先生「次回の展開はな、主人公の桃馬拳が敵ボクサーの股間にストレートを見舞うんだ!そしたら、敵の股間が勃起して、大量のスペルマを放出する!それで、スペルマがリングの上で天使の形になるんだ!」
俺 「先生。股間を殴ったら反則負けになりますが?」
先生「うるせえんだよ。理屈言うんじゃねえ!」
俺 「でも先生。理屈以前に、いくらなんでも読者が納得しませんよ」
先生「……じゃあ、股間に近い下腹部を殴ろうか。とにかくそんなわけで、原作よろしく頼むよ!」
こんな、まるでリアル『サルまん』のような会話が、毎回くり返されたのです。とにかく先生には「描きたい絵」のイメージが強烈にあって、原作者はそれを織り込んだストーリーを考えなければならないんですよ。それはまあ、いいんですが、次に会う時には先生のイメージがまったく変わっていて「2000年問題だあ!」とかまったく違うことを言い始めるので驚愕させられることしばし、でした。
2000年問題うんぬんは、連載当時が99年の暮れであったことに関係しています。2000年になったらコンピュータが狂って世界がパニックになるという記事を先生が新聞で読み、急に「2000年に世界が変わる!」というビジョンが降りて来たのだそうです。
それはいいのですが、今、我々が書いている作品はボクシングマンガなのであり、いったいどうやればボクシングと2000年問題が関係するのか、俺は見当もつきませんでした。すると先生は、
先生「理屈じゃねえんだ! 2000年に世界はかわるんだよォ!!」と叫んで、「さあこれで原作が書けるだろ!」と俺を攻めるのでした。
俺なりに考えていたストーリー展開は全部捨てなければならず、当時は大いに腐って、連載が中断してからは先生とは連絡もとってなかったのですが、こういう話をしていると横で聞いていたベテラン原作者の小堀洋先生(『餓隷船』原作者)が、
「ぼくもふくしまさんとは『餓隷船』で組んだけど、この人とストーリーの話をしても無駄だから、やめたほうがいいよ。それよりキャラクターの話を徹底的にするんだ。そこでお互いに納得するものがあれば、それを原作に書くんだよ」
と教えてくださいました。なるほど、俺はまだまだヒヨッコに過ぎなかったようです。
俺から見て、ふくしま先生のいい所は、絶対に原作を無視しては勝手にマンガを描かないことです。もちろん変えるんですけど、必ず原作者に書き直しを要求し、自分が納得する原作になるまで付き合ってくださるので、当然締切はぶっちぎりに遅れることになりますが、原作者にとってはありがたい部分もあるのです(梶原先生の原作変更のときは、梶原先生が台湾の愛人の家に行っていて原作が間に合わなかったこともあったようです。変更以前に、原作が来なかったんですね)。
でもこのやり方だと原作者は疲れますけど、編集者は死にます。
ともあれ、ふくしま先生と組んで一番うまく行ったのは近年お亡くなりになられた滝沢解先生だったと思います。滝沢・ふくしまコンビは「絶叫コンビ」と呼ばれ、常識を無視した劇画宇宙を展開されました。江戸城に蒸気機関車が突っ込んで来て、それを竜水が裸で受け止めるシーンなど、未だに夢でうなされるほどです。
今回の原作者・坂本六有氏は、正体は劇画家のあがた有為氏だそうです。マンガ家出身の原作者とのことで、また新しい境地を開かれたのではないかと思います。とにかく俺は、バイオテクノロジーと錬金術が合体したような、まるで妖怪人間ベムのように現代日本に竜水が復活する冒頭シーンで度肝を抜かれました。皆さんにもぜひ読んでいただきたいものです。
| 固定リンク
「アニメ・コミック」カテゴリの記事
- 「海からの使者」DVD、8月15日(夏コミ3日目)頒布開始!(2010.08.13)
- 本日21日、下北沢トリウッドで「海からの使者」上映&トークショー(2010.08.21)
- 田中圭一制作総指揮のマンガ作成ソフト、なし崩しで情報公開へ!(2010.10.05)
- コミPo!と私(1)(2010.10.17)
- 早速、コミPoで傑作が!(2010.10.27)