マンガ界崩壊を止めるためには(3)
●編集者は作家を選べるが、作家は編集者を選べない
agehaメモさんは今回の「雷句―小学館問題」について
《 問題の根っこは、共にサクヒンを作り上げるべき「編集者」が「出版社のサラリーマン」である事、であるように思う。》
http://d.hatena.ne.jp/ageha0/20080610/p1
↑agehaメモ「雑駁に言うとハリウッドは、東海岸の興行主から逃れた映画人達が形成した。」
と書かれました。問題の本質がズバリと簡潔に言い表されている、的確な指摘だと思います。今回の件とはまったく別の話題で、ある有名なマンガ家さんが
「作家に当たり外れがあるように、編集者にも当たり外れがある。でも編集は作家を選べるけど、作家には編集者が選べないんだよ。だから編集者の“外れ”を引いたら悲惨だよ」
という話をしてくれたことがあります。その通りだと思いました。医療の世界では近年「セカンド・オピニオン」の重要性が言われ初めています。医者も人間ですから、誤診することもありますし、どうにも相性の悪い患者もいます。そこで、生命に関わる治療や手術を受ける前に、患者は主治医だけではなく、別の医者の診断も受けるべきだという考えです。
マンガの場合、担当編集者はその作品の内容にアイデア提供を含めて深く関わり、生殺与奪の権限(ボツや打ち切り)すら持つ重要な役割があります。ある意味、医者に似た部分もあるのです。どうにも相性の悪い担当がついてしまった場合、人気作家やベテラン作家であれば担当替えを直訴することも可能ですが、新人作家の場合は「生意気いうんじゃねえ!」と怒られるのがオチです。最悪、仕事を失いかねませんので、結局ガマンするしかないわけです。
今、マンガ界で起きている問題は、構造不況のような個々人の努力ではいかんともしがたいものもありますし、作家の側に問題がある場合も多いと思いますが、すでに何人かのブロガーが指摘しているように、編集部と作家との間に「エージェント」を介することで解決する問題が数多くあると思われます。
もちろん「質の悪いエージェント」もいるわけなんですけれども、編集者は選べないが、エージェントは駄目だと思えば違う人に替えることもできるわけです。これは大きな違いでしょう。
●エージェントとはなにか
エージェントとは「交渉代理人」のことで、プロ野球の代理人制度におけるそれが、日本におけるエージェントの代表例だと言われています(俺はそっちには詳しくないんですが)。エージェントは、終始契約者(作家やスポーツ選手)の立場に立ち、ギャランティだけではなく待遇全般について企業と交渉する仕事です。
法的な処理に限定されますが、弁護士の役割は代理人の最たるものです。ウィキペディアに法的な「代理」の解説がありました。文責があいまいなウィキペディアの記述ですが、だいたいどんなものかを知るには参考になるでしょう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%A3%E7%90%86
↑「代理」(Wikipedia)
これによると、代理人(エージェント)は別に弁護士とは限らないので、資格が必要になるわけではありません。しかしプロ野球のエージェントが野球に無知では仕事にならないでしょうから、エージェントと名乗るからには、法律以上に顧客の仕事ジャンルに精通している必要があります。(本当は、弁護士資格があって、かつ顧客のジャンルに精通していれば完璧です)。
欧米は伝統的にエージェント業が盛んですが、作家エージェントの場合、出版社への「売り込み」が重要な仕事になります。エージェントのギャランティは基本的に作家が払う性質のものですが、そこは交渉のプロですから、企業に作家のギャラを請求する際に最初から自分の取り分を上乗せしておくことが普通のようです。
日本でも、小説界では大沢在昌事務所が、大沢氏だけではなく宮部みゆき、京極夏彦など所属作家のエージェント業を行っていることで有名です。この他にもジャニーズなどの芸能事務所は、一種のタレント・エージェントだということもできます。
基本的に新人市場であるマンガ界では、よほどの大物作家を抱えない限り、芸能プロ式のエージェントは難しいのではないかと思います。マンガ家のプロダクションは、多くは作家の個人プロダクションですので、他の作家のマネージメントやエージェント業務を代行するという発想がなかったのです。そうしたもの(エージェント業務)は、すべて担当編集者の仕事だと思われていたのです。
しかし担当編集者は会社から給料をもらうサラリーマンであって、作家は基本的にフリーの立場です。担当編集者が「会社をとるか、作家をとるか」という局面に立たされた場合(作家の側は常にこの視点で編集を見ていたりします)。現実に「作家をとる」編集は滅多にいませんが、ウソでもなんでも作家に対しては「会社をとる」そぶりだけは見せないようにしたいものです。
作家の心証を害する可能性があるからですが、もともとサラリーマンである存在に、フリーの味方をしろというのが無茶であることは誰にでもわかるでしょう。やはり本当の意味でのエージェントを、社員編集者がやることは不可能です。
それで、担当編集がいくら一生懸命にエージェントの役割を果たしたといっても、それはその会社で出した作品限定のエージェントであって、いくつかの版元で仕事をする作家の場合、一人の作家がエージェントを複数抱えることになります。そして版元Aの編集者は、版元Bの都合など知ったことではありません。
「少年ジャンプ」では「専属契約」を締結することで作家が他の版元で仕事をすることを未然に防いでいますが、これはこれで別の問題もあります(現行の専属契約書には肝心な「掲載保証」が抜けていることが多い。この場合、契約期間中は飼い殺しになる可能性がある)。そして大部分の版元には専属制度はありません。
agehaメモさんが指摘されたように、担当が特定版元の社員で、作家がフリーであることには大きな矛盾の根が潜んでいるわけなんですけれども、これまではマンガ界特有の「作家と編集の伝統的に緊密な関係」が、矛盾を隠蔽していました。複数の版元を掛け持ちしている売れっ子作家は、たいてい個人マネージャーを雇っていたりしますから、マネージャーが各社を調整してなんとかなっているわけです。でも、本当なら作家が(マネージャーではなく)エージェントを一人雇って、彼がその作家の全作品の著作権管理や、版元・出版社との交渉をすることが実務的にも一番スッキリして、メリットもあるはずなのですが。
●ある芸能マネージャー氏からの相談
確かバブルの頃でしたから、80年代の終わりか90年代初め頃のことです。人を介して、ある人が俺に相談を持ちかけてきたことがあります。その人は芸能プロダクションの社員で、年齢は俺と同じか、少し上だったでしょうか。すでに数年、タレントのマネージャーをしているということでした。
彼が相談にきた内容が、まさに「マンガ家のエージェントはできないだろうか」というものだったのです。当時、マンガはもの凄く売れていましたから、彼のように芸能マネージメントの延長で、マンガ家のエージェント業を発想する人が出ても不思議はありませんでした。
しかし、この相談に対する俺の答えは「マンガ界でエージェントをやるのは、現実的には無理でしょうね」というものでした。もちろんこれは今から十数年前の俺の意見で、今は違います。しかし、今でも実現困難なことだとは思っています。
まず問題に感じたのは、彼の発想が、芸能マネージャーのそれであったことです。しかし、マンガの世界でこれは難しい。というのは、マンガ家の個人プロダクションは昔からありますが、アシスタントで実力が認められてデビューすると、まず例外なく独立してしまうからです。「先生」の側も、積極的にデビューを奨励する傾向があります。赤塚不二夫先生のフジオ・プロからは『つる姫じゃ~!』の土田よし子、『トイレット博士』のとりいかずよし、『ダメおやじ』の古谷三敏、『釣りバカ日誌』の北見けんいち各先生が出ていますけど、もしこの人たちが全員フジオプロに残って自分の仕事をして、会社にエージェント業務を委託していたら、フジオプロは今の大手芸能プロダクションや、大沢在昌事務所のようになっていた可能性があります。しかし、そうはなりませんでした。
今も昔も個人作家の場合、アニメ化やキャラグッズ化などの著作権管理は版元の社員編集者が代行するならわしになっています。この場合は、出版社の編集者が社外の企業に対するエージェントになっているわけです。
担当編集者がそのままエージェントになる場合、エージェント手数料を作家が支払う必要はありません。となれば、印税を会社に入れてそこから「給料」としてお金をもらうより、自分の収入は全額自分で管理して、そこから専属マネージャーを雇ったほうがぜんぜん徳だということになります。
●エージェントは嫌われる?
これも80年代の話ですが、ある人気マンガ家が対出版社のためのエージェントを雇ったことがありました。マネージャーではなく、アメリカ式にはっきり「エージェント」として人を雇ったマンガ家は、俺の知る限りその人が最初です。ところが、80年代には売れっ子だったその人が、90年代に入ってからなぜか急に仕事が減った印象があります。もちろん他に原因があるのかも知れず、仕事が減ったことは俺の「印象」にすぎないんですが。
俺は、相談に来たその芸能マネージャーさんにそうした事例を挙げて、こう総括しました。
「どうやら日本のマンガ界では、エージェントは好かれないようです。芸能プロダクションのように、複数の作家がひとつの事務所に所属して、事務所が前に出て出版社と交渉する仕組みも、うまく行ったという話を聞いたことがありません。マンガ界では作家が会社を作ることも、作家個人の事務所である以外は、まず成立しません。原稿料が安いと言われていた少女マンガ家が団結してユニオンを作る話が70年代初頭にあったようですが、これも離脱者が大勢出て、頓挫したと聞いています。
どうも日本では、社員編集者と個人マンガ家の関係性が、小説など他の分野よりも、あるいは諸外国と比べても非常に緊密で、この間にビジネスとして第三者が介入することは、容易ではないように思えます。それがまた、日本のマンガ文化独特のバイタリティの源泉にもなっているので、一概に否定するわけにはいかないのですが、外部から見れば、もしかすると異常に見えるかもしれません。
とにかく編集と作家の間に“第三者が介在すること”を極端に嫌がる風土がある以上、○○さんのマンガ家エージェント構想は、挫折する可能性が高いと思います。将来的にどうなるかはわかりませんが、今は諦められたほうがよろしいかと思います。」
それからしばらくしても、○○さんがマンガ・エージェント業を始めたという話は伝わってきませんでした。それ以外にもエージェントを考えている人がいるという話はいくつか耳にしたんですが、バブルがはじけてからはそれも聞かなくなってきました。(つづく)
※この項、もう一回続きます。
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竹熊健太郎氏は有名な編集者だと思う。論壇といってもいいだろう。
「サルでも描けるまんが教室」で有名になった人だと私は認識している。彼のブログは面白い。
NET界ではいろいろな人が彼の意見に耳を傾けているようにも見える。
その彼がサンデーの原稿消失事件騒動(雷句誠氏による週刊サンデー訴訟)について意見を書かれている。
漫画家にエージェントが必要かも、という点はニュース畑でもコメントした。
http://news.goo.ne.jp/hatake/20080607/kiji1910.html?type... [続きを読む]
受信: 2008年6月16日 (月) 01時05分
» 2008/06/16ここ2日間のニュース系。 [ごみおきば]
東北僻地ですが地震は震度4程度だったので大丈夫です。 ちょっとガス欠起こしたので... [続きを読む]
受信: 2008年6月16日 (月) 01時14分
» マンガ界のエージェントについて [毎秒地獄です]
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たけくまさんがエージェント制度について言っていますが、僕も収入の3割程度はエージェント業務。いや、クリエータをみつけてきて、ミーティング次項を伝えたり、仕様書をまとめたりするのでディレクション業務も・・・というか営業....... [続きを読む]
受信: 2008年6月16日 (月) 16時33分
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私の住む長崎市は今や全国に広がって食べられているちゃんぽん発祥の地です。
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制作者/製作者の問題で私がいつも挙げる例は、日本のロックの自主制作。エージェント、
代理人の活用は大手は跳ね返す力があるし、中小は代理人分の支払い能力がない恐れがあり、
現実的でないかも知れず。そのため別の解決策に、ザ・スターリンが活動した前後を参照すれば。別に、
歴史を事細かに振り返る必要はない。ただなぜ(一時期とはいえ)商売として成功したか。
簡単に言えばライブハウスの数の充足、レコードのプレス体制の整備と、販路の確保。一つ目は推測で。
二つ目の功績にはURCレコードが日本..... [続きを読む]
受信: 2008年6月16日 (月) 21時55分
» すぅぱぁ漫画家大戦EX [むぅにぃの駄文戯れ言]
これは一人の漫画家が小学館の奴隷的立場から、自由を勝ち取り対等の立場を手に入れる迄の戦いの記録である。
と後で言えるようになると良いんだけどなぁ [続きを読む]
受信: 2008年6月17日 (火) 09時58分
» エージェント [春木屋blog CMtoFLASH]
春日森です。
お金の話や権利、契約の不安でクリエイターのモチベーションって簡単に下がります。
僕みたいに無神経な人間でもそうです。現状では個人制作アニメの業界で「エージェント業務」を専門としている人を私は知りません。そして今、個人制作アニメの世界でおもに... [続きを読む]
受信: 2008年6月18日 (水) 11時26分
» 南明奈(アッキーナ)◆流出騒動! [南明奈(アッキーナ)◆流出騒動!]
南明奈は「コムスン騒動」の当事者であるグッドウィル・グループの折口雅博会長の寵愛を受けていたと報じられた。さらに所属事務所から契約解除されていたことも発覚し、今後の活動を不安視する声もあった。
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[続きを読む]
受信: 2008年7月11日 (金) 18時23分









