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2008年6月23日 (月)

マンガ界崩壊を止めるためには(5)

●樹林伸vs長崎尚志対談

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前回の「マンガ界崩壊を止めるためには(4)」において、俺は「日本型マンガ・エージェント」のありかたとして「マンガ・プロデューサー」を挙げ、現実に講談社を独立した樹林伸氏や、小学館を独立した長崎尚志氏のようなベテラン編集者が、「原作者」という名目でフリー活動を始めていることを紹介しました(長崎氏は浦沢直樹氏の『PLUTO』では「プロデューサー」としてクレジットされています)。

実は俺が今年から講義を始めた京都精華大学では、「KINO」というマンガ評論誌を発行しているんですが、今発売中の第7号で「21世紀のマンガ コミック雑誌の消滅する日」という刺激的なタイトルの特集が組まれており、巻頭でまさに樹林伸氏と長崎尚志氏の対談記事がカラーで掲載されています。

この特集には、俺と「マンガ産業論」の中野晴行氏との対談も載っているんですが、この仕事を受けた時点では、どんな特集になるのかよく聞いていませんでした。いざ完成した雑誌を読んだらまさに「マンガ界崩壊」がテーマになっていて、併せて新しいマンガ・メディアとして携帯コミックが特集されており、偶然とはいえ驚きました。俺のこのエントリと併せて、ぜひ読んでいただきたい特集だと思います。

●問題点を再度、整理してみる

※ 異常にエントリが長くなったので、結論を書く前に再度、問題点を整理します。繰り返しになって申し訳ないですが、脳梗塞の後遺症なのか、頭がすぐグチャグチャになってしまうのです。読者のためというより、俺のためですので、すみませんがおつきあいください。

雷句氏の対小学館訴訟で図らずも露呈した版元対作家の軋轢に関する問題ですが、(1)で俺が書いたように、これは個々の作家と編集者の問題であるだけでなく、マンガ界に長年潜在していた構造的問題の現れではないかと俺は考えます。

昔からマンガ界には「マンガ家組合」もなければ作家の立場を代弁するエージェント(交渉代理人)もいませんでした。本来、立場の弱いフリーであるマンガ家が企業(出版社)と対等な交渉をするためにはこれらは不可欠のはず(欧米では常識)なんですが、

(1)時代の熱気の中で、フリーであるマンガ家と社員編集者が一心同体になってともに作品を作り出す伝統があった。(社員編集者は、休日返上で熱心に作家の相手をしてくれていたので、とても組合を作れるような雰囲気ではなかった)。

(2)マンガは、70年代からずっと右肩上がりに売れ続けていたので、単行本さえ出れば大きな印税が作家に入る。このため多少の矛盾(安い原稿料、作家と編集者の個人的軋轢)は顕在化しなかった。

雑誌原稿料が安い(80年代初頭から相場が変わっていない)理由は、出版社間の熾烈な部数競争があって、雑誌や単行本の価格を限界まで据え置いていたからです。マンガの価格は、80年代初頭から現在まで、およそ50~60円程度しか上がっていません。

●作家・編集の意識は変化したのに、業界構造は変わらない。

マンガ界では80年代初頭くらいまで、25歳までにデビューできなければ「デビュー適齢期を逸した」と言われたくらいで、十代でデビューすることも当たり前でした。

圧倒的に若い新人市場の中で、必然的に社員編集者は「監督官」「保護者」の性格を帯びることになります。アニメ化やキャラ商品化など、出版社外部の企業との交渉ごとは、担当編集者がエージェントとなって交渉に当たることが今でも当然になっています。しかし作家と出版社の間に立つエージェントは、今も存在しないことになります。

そうした大昔から続いた作家と社員編集者の関係は、90年代以降に変質してきます。まず作家(新人含む)の平均年齢が上がって、編集者が「作家の保護者」的な対応をとることができなくなってきました。

印刷所の労働者意識も変化して、お盆や正月だけではなく、祭日や土日もキッチリ休むようになりました。当然、雑誌も季節ごとに合併号を出して編集者も休むようになります。俺がこの仕事を始めた80年代初頭には、さすがに「年末進行」はありましたが、「お盆進行」「ゴールデンウィーク進行」という言葉はありませんでした。80年代までは、作家だけでなく出版社も印刷所も、みんな休日返上で働くことが当たり前だったのです。

こうした社員の意識変化もあって、90年代以降の編集者の態度ははるかにビジネスライクなものになってきています(公私の別をつけるようになってきたという意味)。俺の記憶でも「原稿、連休明けでいいからお願いね。連休中は俺ハワイに行くから、ケータイ使えないのでよろしく!」というような言葉をはっきり社員編集者の口から聞くようになったのは、たぶんここ10年くらいです。昔はかりに連休で旅行するにしても、休日中も仕事する作家には黙っていたものなんですが…。まあ、いいんですけど。

作家に休日はありません。もちろん自由業者なので、「この日は休もう」と思えば休めるのですが、締切というものがあります。もし週刊連載ということになったら毎週締切が来るわけですから、休日なんてどこかに行ってしまいます。そのくらい、マンガの週刊連載は激務なのです(アシスタントを複数雇える大御所は、作画をアシに任せてゴルフに行ったりしますが、それはベテランになってからです)。

近年は、よほどの売れっ子やベテランを除いては、連載本数を抑えて、アシスタントを5人も10人も雇う作家はいなくなっています。単行本が売れなくなったので、アシを大勢雇う経済的余裕がなくなったからです。しかし80年代に大友克洋が人気を博してからというもの、作画密度だけはどんどん向上していますから、作家にのしかかる激務の度合いも、否応なく増えていると言えます。

●マンガは12年連続で売り上げが減少している

松谷創一郎さんが、大変わかりやすいグラフを紹介してくれました。

http://d.hatena.ne.jp/TRiCKFiSH/20080621
↑TRiCKFiSH

彼のブログからの孫引きになりますが、以下に示すのは出版科学総合研究所が発行している「コミックス・コミック誌推定販売金額(出版月報2008年2月より)」であります。これを見れば一目瞭然、マンガ雑誌の売り上げは1995年をピークに下降の一途をたどっているのです(単行本は微増しているが、出版点数は年々増えている。つまり、一冊あたりの売り上げは減少している)。それまで右肩上がりの成長を続けていたマンガ界にとって、これはインパクトのあるデータだといえます。普通株価にしても、業績を示すグラフというものは、下がり基調とはいっても少しは上下に動くものですが、見事に右肩下がりのままで、歯止めが効いていません。

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←「コミック・コミック誌推定販売金額」

なぜこういうことになったのか、さまざまな解釈がなされています。ゲームなどユーザーの趣味の多様化や、ケータイの普及によってマンガ購入にお金が割けなくなってきたこと、そしてブックオフやマンガ喫茶の台頭で新刊売り上げに打撃を受けたことなどです。

俺の持論を書きますが、ゲームやケータイはともかく、売り上げ減少の責任をブックオフやマンガ喫茶に押しつけるのはバカげた議論です。ブックオフやマンガ喫茶の台頭を許したものは、80年代から顕著になったマンガの長期連載化です。いつまで経っても主人公が試合していて、ほとんどそれだけで40巻も50巻も単行本が出続けるという現状は、狂っています。これではマンガが売れなくなるのは当たり前です。俺みたいなオタクはともかくとして、普通の人は同じ題名のマンガで本棚を全部埋めたりしません。出版界は、目先の利益を追求してヒットマンガの際限なき連載引き延ばしを図り、結果として自分の首を絞めたとしか思えません。

マンガはブックオフで購入して読んだらまた売る、あるいは会社や学校からの帰宅途中でマンガ喫茶に寄って数十巻のマンガを少しずつ読んでいく。こういったライフスタイルが定着したことは、そのままマンガの売り上げ減少に繋がっていることはその通りです。しかしマンガ読者の減少を示すものではありません。単純に、読者の生活の知恵として、

マンガは、買ってまで読むものではなくなっている

だけなのです。こうした時代の変化の中で、作家と社員編集者の関係は明らかに変質を始めてきており、にもかかわらず、システムの上では「モーレツ社員前提のフレーム」(agehaメモさん)が生きていることが、最近の、作家が編集への不満をブログで表明する事態につながっているのではないかというのが、俺の見方です。

そろそろユニオンのようなものができるか、作家と版元の間に代理人を立てなければ、早晩マンガ界全体が立ちゆかなくなるのではないか、と思うわけです。 (つづく)

※またまた長くなってしまいました。この続き(本題であるマンガ・プロデューサーの話) も途中まで書いているんですが、ちょっと野暮用が。そんなわけで、続きは深夜にアップします。すいません。

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