コミックマヴォVol.5

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2008/07/31

竹熊さん、インターネットはヤバイですよ。

えーと、地デジ話の続きです。テレビ局や管轄官庁のお役人たちは、国民が「テレビを見なくなる」可能性をまったく考えてないのでしょうか。たぶん、ないんでしょう。しかしネットが発達している今、テレビから情報を得る必然性は相対的に低くなっているのは確かですよね。

もちろん「地下鉄サリン事件」クラスの大事件が突如発生したら、俺も即行でテレビをつけて、映像で確認したいと思うでしょう。13年前のサリン事件のときは、俺は朝のワイドショーを見ていてあの映像が飛び込んで来たので、テレビによっていきなり「体験させられた」わけですけど。

でも、そこまでの出来事は何年に一度しかありませんしね。しかも今は、たぶん1時間としないうちにネットに映像がアップされる。 インターネットがなかったら、俺がこんなエントリを書くことはたぶんなかったでしょう。

出版や放送を含め、インターネットはあらゆるメディアの「既得権益の構造」を破壊しつつあるわけだけども、そうした人たちからの「ネット自体を規制しよう」という声は、思ったよりも少ない感じがする。あることはあるんだけれども。

ここ数年でもプロバイダ責任制限法とか、2ちゃんに「○○を殺す」と書いたら即、逮捕されるとか、いろいろ規制や取り締まり強化の方向で警察や政治家が動いているのは事実ですけれども、かつて俺が想像していたよりはずっとおとなしいものです。少なくともインターネットをやっていること自体で逮捕されることはないですから。

確か21世紀になった頃でしたが、俺、このまま行ったらインターネットを免許制にする動きが出るのではないか、と思ったことがあったんですよ。そもそも電波がそういうものでしょう。俺が高校生くらいのとき、70年代後半でしたが、「海賊ラジオ(自由ラジオ)」が流行したことがあります。これはもともとフランスの反政府活動家が、地中海に浮かぶ船の中から反体制の放送を始めて、これが話題になり世界的ブームになったように記憶しています。

これが一瞬ですが、日本でもブームになったことがあるんですよ。とはいっても過激派が反体制メッセージを放送するのではなくて、普通の高校生が、勝手に自宅からFM電波を発信して、たわいもないおしゃべりしたり好きなレコードをかけたりするもの。今、ネットでブログ書くのと同じノリだったんですよ。多少の無線の知識さえあれば、あとは市販のパーツ使って簡単に放送ってできちゃう。

俺は、高校時代にはミニコミ作ってましたけど、海賊放送はやったことがありません。でも俺の知り合いではやってた奴がいました。当然、電波は法律で厳重に管理されていますから、電波監理局が常時チェックしているわけですね。それで違法な電波が出されていたら速攻で場所が探り出されて、警察が飛んできて逮捕されてしまう。実際、逮捕された高校生や大学生が70年代は結構いたんですよ。そのくらい、放送免許がない一般国民が勝手に電波流すことに、お上は神経とがらせていたんです。

もちろん一般人でも免許とれば、普通のラジオで聴けない特定の電波帯を使って通信することは可能ですけどね。アマチュア無線っていうやつ。これも中学時代に流行ってましたが、さすがに敷居が高いので、学年に数人ってくらいでしたね。完全にマニアのものでした。

まあ、海賊放送やっていたその知り合いは、FM東京とかの有名局のすぐ近くの周波数帯を使って、流したりしていたらしい。なぜかというと、海賊放送というのはリスナーに存在を知らせる手段がないわけなんですね。新聞のラジオ欄には絶対に載らない。それで、有名ラジオ局を聴こうとした人が、チューニングしている最中に偶然放送が飛び込んでくるようにしていたのだそうです。ラジオ局にとっては確かに迷惑な話ですよ。

でもやっていた学生にとっては、せいぜい市内に届く程度の出力なので、「ラジオごっこ」の感覚だったわけですね。それでも法律違反だというので、厳重に取り締まられていた。逮捕者が全国的に出て、いつしか下火になりました。

それがどうですか。今ではインターネットで勝手に出版もできるし、放送までできる。パソコンと回線さえあれば、ものすごく安価にできてしまう。ブログだけではなくて、ネットラジオも花盛りではないですか。みんな気軽にネット使っておしゃべりしたり、自作の曲をアップしたりしている。70年代の海賊放送やってた連中から見たら、まさに夢のような時代ですよ。

でも既成のメディアからしたら、これは正直言ってヤバイのではないですかね。放送関係者ではありませんが、2000年代初頭に、あるパソコン雑誌の編集長に会ったとき、彼がいきなりこんなこと言い始めて仰天したことがありました。

「竹熊さん。僕の立場でこんなこと言うのはまずいかもしれませんがね、インターネットってヤバイですよ。今からでも国家レベルで規制しないと、出版も放送も、とりかえしのつかないことになりますよ」

当時その雑誌では、さかんにインターネットを推進する記事を載せていましたので、俺は当然驚いたのでありますけれども、現在の出版界、特に雑誌部数の落ち込みぶりを見ていると、あのときの彼の認識は正しかったのだと言わざるをえません。ほかならぬPC雑誌からして青息吐息ですからね。

たぶん国家としては、インターネットを許認可制にするのが一番いいのだろうと思いますが、ついにそれができなかったのは、インターネットが最初から国境を越える存在だったからでしょう。ある特定の国が許認可制にして、他の国がそうでないとしたら、その国は一種の鎖国をしているようなもので、「なんだお前の国は」ということになりますからね。

出版社の人間と接していると、単行本部門の人とはちゃんと話ができるんですが、雑誌部門の人とはインターネットについてのこういう話ができないことが多いです。いや別にタブーというわけではないんですよ。ただこういう話を振っても軽くスルーされるというか、右の耳から左の耳に抜けていく感じ。「ああ、そうですか」って、まるで人ごとみたいな。大手になればなるほどそういう感じがするんですよね。俺の気のせいかもしれませんけど。8年前、俺に「インターネットってヤバイですよ」って言ったあの編集長さんは、例外中の例外です。

んー、地デジの話から「もうテレビいらない」ということを書いていて、インターネットの話になってしまいました。要は、今はネットがあるから、テレビがなくてもいいかもというのが俺の本音だったりするんですけどね。これ電波だけではなくて、新聞雑誌含めたマスコミ全般に言える話なんですけどね。

要するに、これまでメディアを個人が持とうとすると、ものすごく敷居が高かったわけですね。同人誌レベルだったらいくらでもOKでしたけど、全国規模で出版しようとすることはすごい大変でした。資金がかかるだけではなくて、そもそも取次会社(流通)に口座開かないと本屋さんに配本できないわけですよ。この取次口座を開くというのが、えらい大変なんです。これが電波になると、同人誌レベルの海賊放送やっただけで逮捕されますからね。素人には敷居が高いなんてものではないわけです。

それが、今は同人誌即売会があるし、ネットがある。特にインターネットのインパクトは、もの凄いものがあると俺は思うわけですが、あんまり凄すぎて、かえってピンと来ない人が多いのかもしれませんね。

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