宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢
昨日の土曜日、宮崎アニメの新作『崖の上のポニョ』を見てきました。一応、ネタバレにならない範囲で感想を書きますと、見たことがない種類のアニメーション映画でした。アニメーションとしても映画としても、似た作品を俺は思い当たらないし、過去のどの宮崎アニメとも似ていません。
もちろんキャラクターとか、ディティールの演出やセリフはいかにも「宮崎駿」なんですよ。確かに宮崎アニメに違いないが、見ている最中の「違和感」は、これまで感じたことがないほどのものです。まるで、はっと気がついたら父親が人間モドキに変わっていたような感じ。
『魔女の宅急便』を試写で見たときに、それまでの宮崎アニメと雰囲気が違うので少しとまどったことがありますが、二度目に見たときには大好きになりました。『ポニョ』も複数回見れば、印象が変わるのでしょうか。たぶん、そうなのでしょうが、今度ばかりは「理解した」と思えるまでに時間がかかるかもしれません。
これが芸術アニメであれば、技術や世界観的にもしかして似たような作品があるかもしれませんが、まがりなりにも老若男女対象の、全国でロードショウ公開されるアニメ映画で、ここまでアヴァンギャルドな作品を俺は見たことがないです。
プロデューサーの鈴木敏夫さんは、試写を見た直後、宮崎監督に向かって「これは傑作だと思う」と語りかけたとテレビで言っていました。俺も、『ポニョ』は宮崎駿以外には作れない作品だと思いますし、傑作と言われても否定はしません。とにかく見たことがない種類の映画だし、技術的にも世界観的にも完成度が高いことに疑いはない。息子の『ゲド戦記』とは違い、非凡であることだけは間違いありません。
俺も観客も、よくわからないが「すごいもの」を見ている、という印象だけが強くあり、それゆえに途中で席を立って帰ったりはしなかったのでしょう。しかし見たものをどう表現していいのか分からないのでしょう。
俺も「強いて言うなら傑作」だと認めるにやぶさかではないです。にしても、見ている間中の身体を駆けめぐった違和感はもの凄いものでした。上映中、観客全員が笑うでもなく帰るでもなく、水を打ったように静まりかえっていたのも宮崎アニメでは初めての経験でしたし、場内が明るくなって、黙ってゾロゾロ帰る観客たち全員の頭の上に「?」が浮かんで、困惑しているように見えたことも初めてでした。
俺自身、俺がさっき見た映画はなんだったのか、言葉にできずに苦しんでいるわけです。
だいたいポニョって、あれは何なんですか? まあ海に住んでいるし、主人公の少年も「魚」だと言っているのですから魚なのでしょう。しかし冒頭シーンから魚には見えません。どちらかというと『ムーミン』に出てくるニョロニョロとか、そんな感じ。昔の人はこういうのを「お化け」と呼んだのではないでしょうか。なのに、エンディングの幼女が歌うテーマソングではポニョのことを「魚の子」と歌っているのですから、狐につままれたような感じがするわけです。
主人公の宗介少年もそのお母さんも、ポニョが「魚である」ことに疑いを持っていません。ところが唯一、意地悪そうなおばあさんがポニョを一目見るなり「人面魚!」と叫びますが、それが普通の反応ではないでしょうか。このへんは宮崎監督が意図的に「本当はお化けなんだが、この作品世界では魚なんだよ」と、わざと描いている可能性もあります。そこも、この作品の居心地の悪さに繋がっているような気がします。
物語の進行も、わかったようなわからないような、不思議な展開をします。たとえばトトロにしても千と千尋にしても、人間の世界から不思議の世界に行く描写があって、そういう物語構造になってますよね。ところが『ポニョ』の場合、「この世」と「あの世」の境界が最初から最後まで判然としないんです。
見終わったときの印象は、つげ義春の『ねじ式』とか『コマツ岬の生活』など、シュルレアリスム漫画の読後感に近い感覚でした。つげのシュルレアリスム作品は60年代末から70年代にかけて描かれましたけど、マンガ史ではこれを「夢の作品群」と呼びます。そもそもつげ義春の名を広く知らしめた68年の『ねじ式』からして、つげが見た夢をモチーフに描いたものだそうで、以後「夢でしか味わえない奇妙な感覚」をテーマにして、つげは作品を描き続けたわけです。
夢の世界は、日常生活の論理とは別の論理が支配します。夢を見ているとき、我々はそれを「もどかしい」と感じたり「こわい」と感じたりしますが、なぜか、そこで生じていることを「異常だ」とは感じません。夢の出来事を異常だと感じるのは、必ず目覚めた後なのですが、この映画はえんえんと宮崎さんの悪夢を見させられて、そのまま目覚めることなく終わります。
その意味では、つげ義春の夢の作品群も、この『ポニョ』も、醒めない夢(悪夢)としては非常によく出来た作品ではないかと思います。しかし、「みんなのうた」みたいな主題歌を幼女に歌わせて、「これは魚の子が大活躍するファンタジー映画なんだ」とあたかも『ファインディング・ニモ』かなんかみたいにミスリードさせる宣伝手法は、まーやむを得ないとはいえ、なんとかならなかったものでしょうか。
子供が見たら悪夢にうなされるのではないかと思いました。俺は思うのですが、日本で一番商業的に成功した映画監督である宮崎駿さんは、その圧倒的な地位を利用して呆れるほどプライヴェートなこの映画を作り、それで後はもう死んでもいいと思っているんじゃないでしょうかね。根拠はありませんが、そんな気がします。
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[画像]
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結果から言うと、素晴らしい作品になっています。
いままでのどの宮崎アニメとも違う印象になっています。
あくまでも現代アニメ的な意匠は全くこらされていないながらも、しっかり繰り返し感情に働きかけるエモ感は現代的に進化した姿も感じさます。
この作品は、どの世代としてみるかによって全く印象が変わってくるのではないかと思います。子供、その親、そして老年期にさしかかった人。しかし単純な大人から子供まで楽しめる、、、というような可愛いものにはな... [続きを読む]
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» 崖の上のポニョ [chakuro.com-ガンプラ日記にょ]
TOHOシネマ海老名 Screen 2(303席) 20:00~
Screen 1でもやってたんですが、こちらも8割くらいお客さんが入ってました。
レイトショーなので20~30代のカップルor夫婦が殆ど。
見る前は穿った目線で臨んでおりました。
今まで宮崎監督の映画は見には行きますが本当に感動したことはありませんでした。正直。
しかし、「崖の上のポニョ」は自分が見た中で間違い無く1番の宮崎映画であり、そしておそらく今後の自分のオールウェイズベストに残っていくであろう1本でした。
... [続きを読む]
受信: 2008/07/22 02:32
» ポニョと南米の日常 [ふたこぶらくだ対ひとこぶらくだ]
「崖の上のポニョ」は「シュルレアリスム」じゃなくて「マジックリアリズム」なんでしょう。
「夢」ではなく「日常」。
それが違和感の正体なのではないでしょうか。
「たけくまメモ」をふくめていろんなひとが、違和感を表明してるんだけど、それはつまり現実と幻想がいりまじった表現に、なまえをうまくつけられないからなのでは。
これにいちばんうまくフィットするのは「マジックリアリズム」だと思う。
ラテンアメリカ文学におけるマジックリアリズムは、南米的な奇妙な日常をそのまま表現したら、他の国の人々から見... [続きを読む]
受信: 2008/07/22 04:41
» 「崖の上のポニョ」を観てきた [風の便り Part2]
「ぽ~にょ、ぽ~にょ、魚の子・・・」
観てきました「崖の上のポニョ」。
いろんな書評があるけれど、個人的な感想。
宮崎駿氏の息子吾郎氏が監督・脚本した映画「ゲド戦記」に対するアンチテーゼではないのかと思ったりもしました。
すべて手書きのアニメ。
CGでは伝えられない、作... [続きを読む]
受信: 2008/07/22 13:24
» ポーニョポニョポニョ♪ (@Д@) 魚の子! [漫画家 森田崇BLOG★フラットランド]
ポニョ見た… 宮崎監督はやはり天才だと思いました。 一言で言うと「くるっとる」 あんなの誰にも作れない。 もちょっと言うと、あんなくるっとる映画が、曲がりなりにも最後まで見れちゃう作品としてまとまってるのが凄い。 めっちゃ引き込まれて感情移... [続きを読む]
受信: 2008/07/22 21:40
» 「異生物」「魚」「ヒロイン」を合わせ持つ異形のポニョ [梅ラボmemo]
ポニョ観た [続きを読む]
受信: 2008/07/22 22:28
» ポニョ [イクサス]
いつも新たな視点に気づかせていただいている『たけくまメモ』のサイトに、思わずワクワクするような『崖の上のポニョ』の感想が。宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢 より引用俺は思うのですが、日本で一番商業的に成功した映画監督である宮崎駿さんは、その圧倒的...... [続きを読む]
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受信: 2008/07/23 22:18
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・・・
面白いっ
なんなんだこれは・・・
なんというか、ルールがない・... [続きを読む]
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» 崖の上のポニョ~YouTube動画主題歌~ [Pocketworks : Idea Portal]
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... [続きを読む]
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» [アニメ][はてなエコー][映画]宮崎駿向き映画『崖の上のポニョ』 [N.S.S.BranchOffice]
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受信: 2008/07/27 14:39
» 崖の上のポニョ(ネタばれなし) [_lilacstone(ライラックストーン) クリエイターがオススメ情報からくだらないネタまでを厳選して紹介するブログ]
この映画はどこに価値を置くかで評価が変わりそうです。 ポニョはかわいいし絵の表現... [続きを読む]
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宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢 昨日の土曜日、宮崎アニメの新作『崖の上のポニョ... [続きを読む]
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いろいろと賛否両論あるみたいですが、
宮崎監督自身、子どもに向けてつくったとはっきり
断言しているので、オトナがとやかくいっても
しょうがないのかもしれません。しかし、
ポニョを、ネットの海に育まれた
美少女型人工知能として観れば、
共感できる大きいお友だちも多いのでは?
ポニョは宮崎駿版
「A・Iが止まらない!」
だったんだよ!!!
な、なんだt(ry
ごめんなさい。わりと本気です。
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8/1の金曜日、なんでも1000円で映画が見れるという事で「崖の上のポニョ」を観てきました。 朝8:30に映画館に入って、余裕で席をとります。良い席がとれました。 映画を見るのも久しぶりです。僕は映画館が苦手なので…。 で、映画の感想は「突っ込みどころ満載の名作」って... [続きを読む]
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世界とか世間とかの情報に、7歩くらい遅れて、かつ2割くらいしか摂取してないんじゃないかっていう、テレビ見ない、新聞見ない、ネットも見ない・・・というヤバヤバ生活が続いてた(ってまるで今はやばくないみたいだけど)、私。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 情報に踊... [続きを読む]
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□作品オフィシャルサイト 「崖の上のポニョ」□監督・原作・脚本 宮崎駿 □キャスト(声優) 山口智子、奈良柚莉愛、土井洋輝、長嶋一茂、所ジョージ、天海祐希、吉行和子、奈良岡朋子、矢野顕子■鑑賞日 7月20日(日)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★★(5★満点、☆は0.5)<感想> 来たぁぁぁぁぁ〜 メイちゃんがおさかなになって戻って来たぁぁぁぁ〜〜〜 4年ぶりに宮崎駿監督が手掛けた作品は原点に立ち戻り、素朴で且つ心温まるファンタジー。 そのベースに置いたのはアンデルセン童話の「人魚姫」だと... [続きを読む]
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» 崖の上のポニョを観てきた [ROCKET社長の日記]
と、いうことで観てきました。
会社のネタページはけっこうこれで入ってきてくれる人も多く、
そのときは辛口と言うか、「思った事を自分の価値観の世界で書くひと」
(読み物としてはおもしろい)のエントリーを紹介していたのですが!
個....... [続きを読む]
受信: 2008/08/15 22:28
» 実は介護現場の傑作ファンタジー、ポニョ [グレースケア機構/とんち介護教室]
崖の上のポニョ。
5歳の娘が、観たいみたいとうるさいので、3年生のお兄ちゃんも連れていっしょに観てきた。(※ネタバレ注意!)
知らなかったのだけど、これって海岸にあるデイサービスのお話なのね。
それも保育所併設、泊まりにも対応という、いま風のデイ。(小規... [続きを読む]
受信: 2008/08/15 22:52