イエス小池の『劇画蟹工船・覇王の船』
イエス小池さんの『劇画蟹工船・覇王の船』が送られてきました。実はこれ、たけくまメモでこの7月10日にイエスさんが安住紳一郎さんのラジオに出ることを告知したんですよね。その際、イエスさんには17年前、小林多喜二の『蟹工船』をマンガ化した作品があるんだけども、いくつか出版の話があったけど全部流れてしまっていて残念だ、ということを書いたんですよね。
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post_d661.html
↑イエス小池さんがラジオに。
そうしたら、直後に宝島社のSさんからメールが来て、『覇王の船』に大変興味があるので、イエス小池さんの連絡先を教えてくれとあったので、教えたんですよね。そしたらアレヨアレヨと出版が決まって、わずか2ヶ月ちょいで文庫になってしまいました。
それでイエスさんのマンガ版は100ページと単行本にするには短いので、最後に「付録」として多喜二の蟹工船も全文掲載されている豪華版です! これは多喜二の文庫を買うよりお得かもしれませんよ。
俺もオビに「34年もアシスタントをした苦労人・イエス小池以上に『蟹工船』のマンガ執筆にふさわしい人材はいない」と推薦文を書いたんですが、こうして本になった『覇王の船』を改めて読むと、まことに天の配剤とでもいいますか、この原作にしてこのマンガ家ありという感動がひしひしと押し寄せてきます。
原作に忠実かというと、必ずしもそうではないんですが、多喜二の怒りとイエスの怒りが合体して怨念の球となり、パワーゲージがあっちまで振り切れてます。原作の「浅川」という現場監督が、マンガでは罰河原赤蔵(ばつがわら・あかぞう)という極悪キャラクターになっておりまして、赤鬼みたいなこいつが、作業員を虐待してゲハゲハと嗤うばかりか、隙あらば美少年のオカマを掘ろうとする変態でもあり、最後まで夢とも希望とも無縁仏であります。
この赤蔵に虐待される蟹工船の作業員の憎悪が、極寒のオホーツク海の流氷の下に渦巻く氷点下のマグマとなってコマの隙間からブリザードが吹き付けてくるような作品であります。
『覇王の船』は1991年の『ベアーズクラブ』(集英社)に掲載されたものですが、当時はバブルの爛熟期であって、『蟹工船』のようなプロレタリア文学もイエスさんの70年代的な「濃い描線」も、一番時代から遠い、野暮ったいものとして避けられていたと思います。
この力作は歴史に埋もれて忘れ去られようとしていましたが、ここに来て『蟹工船』が数十万部も売れてしまうという「神風」が吹き、『覇王の船』も再び日の目を見ることになったのです。これはひとつの奇跡ですが、30年以上も葛藤を抱えながらも自分の信じるものを描き続けてきた作者の、執念が生んだ奇跡かもしれません。
イエスさんはアシスタントの傍らこの作品に2年もの歳月を費やしたとのことですが、その努力は実に執筆開始から19年目にして報われました!
イエス小池さんからは、竹熊さんのお口添えで本が出せまして、と感謝されましたが、俺は版元からの照会に答えただけして、俺から動いたわけでもなく、何もしていません。この本が出せたのは、ひとえに「時代の風」がイエスさんに吹いてきたということなのでしょう。そして、バブルに浮かれていたあの時期、時代遅れと言われようがなんだろうが、自分が信じる作品を一途に描いたイエスさんの勝利だと思います。
俺、つくづく思うんですが、せっかく「物書き」とか「作家」を志したからには、時流がどうあろうが自分が本当にやりたいと思った仕事は、石に齧りついてでもやっておくものだと思いますね。後にスポットライトが当たったりすることは、たぶんに「運」であるとはいえ、最初から諦めて何もやらなかったら、「運」も来ようがありませんから。
http://blog.goo.ne.jp/yes-de/
↑マンガ家アシスタント物語(イエス小池ブログ)
| 固定リンク
「アニメ・コミック」カテゴリの記事
- 「海からの使者」DVD、8月15日(夏コミ3日目)頒布開始!(2010.08.13)
- 本日21日、下北沢トリウッドで「海からの使者」上映&トークショー(2010.08.21)
- 田中圭一制作総指揮のマンガ作成ソフト、なし崩しで情報公開へ!(2010.10.05)
- コミPo!と私(1)(2010.10.17)
- 早速、コミPoで傑作が!(2010.10.27)





