WEBマンガの新展開・補遺
前のエントリのコメント欄で、何人かの人が最近のWEBマンガやデジタルマンガの例を教えてくださいました。コメント欄で埋没するには惜しい作品がありましたので、新たにエントリを立ててご紹介します。
●魔女っ娘つくねちゃん20話
http://www.sirius.kodansha.co.jp/webc2/tkn20.html
鶴見六百さんが教えてくださいました。講談社アッパーズや少年シリウスに連載されていたマンガのWEB版ですが、クリックするたびに次のコマが現れる構造が「これぞWEBマンガ」という感じで面白いです。展開も、ただコマが現れるばかりでなく、クリックにともなって前のコマ内が変化したりして、こういう作品は初めてみました。オチも決まっています。はっきり言って大爆笑です。
●ゲーム「Quartett!」
http://www.littlewitch.jp/home/special/quartett/
↑は、コメント掲示板では70番の名無し さんが紹介してくれたもの。LittlewitchというゲームメーカーのFFDシステムというものだそうで、何年も前にゲームファンの間では評判になっていたそうです。俺はゲーム方面には疎いので知りませんでした。
ニコニコのプレイ動画を見る限りでは、マンガのコマ構造に、コマやフキダシが時間差で出るなど、映像的演出と音楽を加えたもので、完成度はなかなか高いです。
前回紹介した萱島雄太さんの「HACK TO THE BRAIN」は、これらとも違う試みで、マンガにおけるコマ構造が本来内包している「フレームの不確定性」という概念をデジタルマンガの側から問い直した作品として、ユニークな試みだと言えると思います。これは夏目房之介氏もブログで指摘されていましたが、俺もそう思いました。
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2009/02/post-8107.html
↑夏目房之介の「で?」
「フレームの不確定性」というのは伊藤剛君が『テヅカ・イズ・デッド』で提唱した概念で、言葉で説明しようとすると難解なところがあるんですが、要するにマンガの「コマ」にはいくつかのレベルがあって、捕らえ方によって「コマ」のあり方で意味が変わってくるということです。
たとえば4コママンガの定型的なコマ割りもあれば、70年代の少女マンガのように、コマとコマが重なったり、コマの枠線が途中で切れて別のコマの絵と融合したり、あるいは枠線というものが消失していたり、というような構造としてはとらえどころのないコマ構造もあるわけです。
池田理代子の『ベルサイユのばら』のコマ割りを見ると、キャラクターの姿が枠線をはみ出ていたり、「コマ内の背景」と「枠外の紙面」が融合してしまっていたりします。70年代少女マンガには顕著でしたが、こうしたフレームの不確定なコマ使いは、少年マンガにも見られるもので、こうしたものを伊藤剛はマンガ表現に内在する性質だととらえたわけです。
話を「HACK TO THE BRAIN」に戻すと、この作品はマンガの「フレームの不確定性」そのものを作品の特徴として追求したもので、ここではPCによるデジタル表現ならではの、紙のマンガでは実現不可能なアイデアに満ちていて、大変に興味深い実験作品だと俺は思いました。
そう思って紹介したら、コメント欄では意外に不評な人が多かったのでちょっと驚いたわけです。いや不評な人が出ることはある程度予想していましたが。むしろ俺は、はてなブックマークでのコメントのような賛否両論ながらやや「賛」が優勢のような反応を想像していました。これは、はてブと2ちゃん型掲示板の性質の差があるのかもしれません。
ただ、「否」の意見で俺も「なるほど」と思いましたのは、画面のアニメーションが終了するまで読者サイドの一切の操作を拒絶する作りであって、これはかつて俺も、えんえん動画演出が続いてそれが終わるまで一切の操作を受け付けない大作RPGをプレイして、イライラが昂じて途中で投げ出した経験がありますので、こうした不満は理解できます。
まあ俺には「HACK TO THE BRAIN」程度の演出は許容範囲ですけどね。でも、この作品に肯定的だった知り合いも、「一時停止」や「巻き戻し」のボタンが欲しかったという感想を漏らしましたから、こういう読者による操作性の自由度をもっと許容する工夫があればいいのかもと思いましたね。
その意味では「つくねちゃん」の見せ方は「読者の時間調節における自由度の高さ」という点で、結構模範解答に近いのかも、とは思いましたね。一方の「Quartett!」は、プレイ画面を見ただけではそこのところがよくわかりませんでした。が、ゲームということなので操作性については考えられているんでしょう。
コメント欄でどなたかも書かれていましたが、俺が4年前にこのブログで「WEBマンガ」についてエントリをいくつか書いた時点では、WEBマンガという形式は一歩間違えるとマンガとアニメの「悪いところどり」になってしまう危険があると思っていました。また、PCディスプレイで読むマンガを突き詰めると、最終的にそれは「コマ」の概念がなくなって、アニメーションという形式に落ち着くのではないかとも考えていて、その流れから蛙男商会のFLASHアニメーションに注目していたわけです。
この考えは今も変わっていませんが、デジタルメディアによるコマという概念の拡張という考え方には抗しがたい魅力があり、この見地から、今後もデジタルマンガ・WEBマンガには注目していきたいと考えています。
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