『ヤッターマン』には困った
三池崇史監督の実写版『ヤッターマン』を見てきました。見たら、感想を書こうと思っていたのですが、正直、困りました。
http://www.yatterman-movie.com/
↑実写版『ヤッターマン』公式サイト
三池崇史は好きな監督です。俺と同い歳ですが、年に5~6本は監督すると言われる通り、すでに膨大な作品があって、すべてを見たわけではありませんが『極道恐怖大劇場・牛頭』は映画史に残る傑作だと俺は思いました。
アウトローを主人公にしたハードボイルドな娯楽作品が多いですが、ノリが良すぎる演出で暴走することが持ち味で、ひとたび暴走するとあり得ない超現実的な領域にまで突っ走るので、カルトなファンも獲得している監督です。時に「やりすぎ」と思えるサービス過剰な演出が、マンガ的だったりアニメ的だったりするので、『ヤッターマン』のオファーも来たのでしょう。
三池監督はかつて『ゼブラーマン』という「ヒーロー物」を撮っています。俺も見ましたが、いつもはカッコイイやくざ役の哀川翔が、気が弱くさえない教師を演じて、これが正義のヒーローになってムリヤリ怪獣と戦うというヒーロー・パロディ。たいへん面白かった覚えがあります。
そんなこんなで『ヤッターマン』ですけど、まずは感心した部分を褒めます。見ていて、とにかく徹底してアニメそのままの撮影・演出であることに驚きました。どこまで原作に忠実かというと、開いた口がふさがらないレベルです。映画版『20世紀少年』を見ても思ったのですが、映画界が完全に世代交代していて、マンガやアニメに親しんだ世代が作り手に回っていること、CGの発達でどんな荒唐無稽な映像でも「実写」として制作可能になったことがあるのでしょう。
これは日本だけの傾向ではなく、マンガ的CG演出で話題になった『少林サッカー』(2001)あたりから世界的に出てきた流れです。昨年公開の『スピードレーサー』(ウォシャウスキー兄弟)も、原作アニメ(マッハGO!GO!GO!)に忠実な映像を、スピード感だけ倍増させて実写+CG合成で実現したものです。『スピードレーサー』、俺は傑作だと思ったんですが、おそらく宣伝の失敗もあって日本では大コケしました。
話を戻しますと、『ヤッターマン』も同名のタツノコ・アニメが原作ですが、よくぞここまで原作イメージにぴったりな役者を見つけてきたものです。特にボヤッキーを演じた生瀬勝久は、コスチュームやメイクのせいもありますが、あまりにもアニメに似ていてビックリします。
原作そっくりといえば、『20世紀少年・第二章』に登場する小泉響子役の木南晴夏もマンガそのままで仰天しました(木南は衣装やメイクだけではなく、明らかに演技で似せていた)。もしアカデミー原作そっくり賞があったとしたら、俺はそっくり女優賞を木南晴夏、そっくり男優賞を生瀬勝久にあげたいと思うくらいです。
ただドロンジョ役は、俺は杉本彩が適役だと思ったんですが、ドロンジョ様は事実上の主役ですからねえ。そりゃ、客を呼ぶことを考えたら深田恭子になりますわね。フカキョンのボンデージ姿や「スカポンタン」等のセリフも、可愛くて悪くはないですけど、見て「あ、ドロンジョ様」と思うより、どうしてもフカキョンに見えてしまうところが、ソックリ映画としては分が悪いと思いました。
とにかくその、まあ、「アニメ(マンガ)ソックリの映画」を作ることに関しては、現代はどんな原作であろうが可能ということがよくわかる映画です。ドクロベー様の声がアニメと同じ声優さんだったり、アニメのドロンジョ一味 ドロンボー一味の声優が実写で登場したり(声でわかる)、オールドファンなら思わずニヤリとするギミックが随所に仕掛けられています。
ということで、「原作そのまま」を求めるファンであれば、大満足の映画でしょう。しかし、唯一の問題は、中で繰り広げられる原作に忠実なギャグのことごとくが俺には笑えなかったということであります。
正直、俺は上映の間中、いかに原作に忠実であるかをひたすら「点検」しているだけで、上映時間が長く感じられて仕方がなかったです。三池監督作品でこういう気分になるのは珍しい。いや、原作に忠実という意味では、本当によく出来た映画なんですけど。
作品のテイストとして似ている『スピードレーサー』が俺には面白く感じられたのに、同じくアニメ再現に命を賭けたかのような『ヤッターマン』がなぜ退屈に感じたのかといいますと、たぶんアニメギャグの実写化だからだろうと思いました。
『ヤッターマン』ってある意味、吉本興業のお笑いに通じる「マンネリ・ギャグ」が身上じゃないですか。毎度おなじみのキャラクターが、毎度おなじみのシチュエーションで、毎度おなじみのボケやズッコケを演じる。それが毎週繰り返されることが、あのアニメの売りでしょう。
三池監督版『ヤッターマン』も、当然アニメのマンネリを踏襲しています。「お仕置きだべえ~」とか、ドクロのキノコ雲があがって、ススで真っ黒になったドロンジョ一行が三人乗り自転車をギコギコ漕いで逃げるところまで。もう、あのまんまなんですけれども、「ああ、やってるやってる」と冷静に見ている俺がいるんですよ。場内は平日なので3割程度の入りだったんですが、中に一人、やたらケタケタと笑っているお子様がいただけで、その笑い声が静まりかえった館内に響くのがかえって空しかったです。
これが『スピード・レーサー』の時は、荒唐無稽なCG映像の渦に、つまらないとは全然思わなかったんですけどね。あれは一応シリアスなドラマでしょう。役者は全員大まじめに演じているんだけど、演出や映像はマンガそのものなので、見ているうちに段々ドラッグを決めているかのような変な気分になってくるんですよ。ナチュラル・トリップ映画として、俺は傑作だと思ったんですね。
『ヤッターマン』の場合、ドラッギーなCG映像と、ベタなギャグの兼ね合いがしっくり来ていない。むしろ原作そのままのギャグを一切止めて、シリアスなトーンで「今週のビックリドッキリ・メカ」がぞろぞろ出てきたほうが、気が狂った映像が強調されて面白くなったんじゃないかと俺は思うわけです。
または、往年の『奥様は魔女』とか『ドリフ大爆笑』のように、画面にエキストラの笑い声をギャグのたびにかぶせるとか。さあ、ここが笑いどころですよ! とお客に示した方が親切でしょう。たぶん、土日の満員の劇場で見ればお子様の笑い声がもっと聞こえてきて良かったと思うんですよ。
あるいは、この映像とベタギャグの応酬は、大麻でも決めて見れば大爆笑かもしれません。もちろん、映画館でそんなことやったらお巡りさんに捕まりますから、絶対にやめましょう。ただ、映画が始まる前に流れたCMによると、映画館にビデオを持ち込んで画面を盗撮すると10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金だそうですから、盗撮より大麻のほうが確実に罪は軽いですけど。
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