学会で発表した俺のレジュメ
※昨日の第9回日本マンガ学会における私の基調講演は、以下に掲げるレジュメをもとにおこなった。厳密にこの通りの内容を話したわけではないが、大意は伝わるのではないかと思う。
■マンガ学会レジュメ「研究と実作をつなぐ」
●学生作品に見る「絵のないマンガ」
現在、大学におけるマンガ教育は大きく「実作指導」と「理論研究」に分かれている。両者は今のところ目的がまったく異なるので、ふたつを融合させることは容易ではない。だが、たとえば以下のような作品が大学からは生まれつつある。
多摩美で私は6年前から漫画史を教えているが、毎年課題でマンガを描かせて提出させている。課題は「時間の流れを扱った視覚表現」というおおざっぱなもので、通常のマンガでもよいが、時間の流れさえ扱っていればアニメや油絵、彫刻でもよいという自由度の高い課題に設定している。
最初の講義の年(2003年度)に提出してきた学生作品が小沢郁恵の「♪」である(図版左)。これはコマと音符、そして男女の台詞のフキダシのみという実験的な作品だったが、「最低限コマと文字があるなら、絵のないマンガが成立しうる」という事実は個人的に衝撃であった。
※小沢郁恵「♪」は「マヴォ」第二号に掲載予定
以降、「絵のないマンガ」は毎年のように学生から提出されている。その中には傑作もあり、マンガ表現を原理的に考察する研究者的立場から見ても興味深いものである。
重要なことは、こうした原理論的マンガ表現は、まず商業マンガからは出てこない発想だということである。大学という場であるがゆえにこうした表現は生まれたわけで、まさに理論と実作をつなぐ表現の代表例と言えるのではないか。
※「絵のないマンガ」については次回エントリで詳しく紹介予定。
●デジタル時代を予見する「マルラボライフ」
「研究と実作をつなぐ」ということでは、デジタル時代のマンガを研究することは大学の重要なテーマになるのではないか。東京工芸大学出身で、2005年にジャンプデジタルマンガ賞を獲得したふかさくえみの「マルラボライフ」は、「PCモニターで読むことを前提としたマンガ」の代表例。画面はすべてFLASHで作成されており、マンガ・アニメ・ゲームの折衷形式というべきユニークな作品である。
ジャンプデジタルマンガは、大手出版社が未来のマンガを模索した先行投資の例として特筆すべきものだが、残念ながら2007年で更新停止、2009年5月にサイトは消滅してしまった。ビジネスモデルが構築できなかったというのが理由と思われるが、本来、こうした研究こそ大学がやるべきであろう。現在の出版社に「未来」を研究する余裕は、残念ながら無いと思われる。
※ふかさくえみの「マルラボライフ」は、現在集英社のサーバーからは削除されているが、最近別の会社が権利を獲得し、ネット配信の形で近く再公開される予定だという。詳しいことが判明したらこのブログでもお知らせする。
●「マンガ編集研究」の確立を
「実作系」においては、プロ作家を輩出することを目的とした場合、作家的視点のみによる指導だけではなく、「編集者的視点」による作家指導も合わせて必要ではないかと思う。
「作品」の描き方を学ぶことについては、作画技術指導は編集者には困難で、これに関してはマンガ家の指導によるほかはない。一方の編集者的視点には、作品と読者とを繋ぐメディア運営の視点・商業ルートで販売するためのテーマや内容の検討などがあり、商業作家になるための必要な指導が期待できる。
私は「作品と読者とを繋ぐ」ための努力が、大学における作家育成においても必要ではないかと言いたいのであり、そのためには、積極的に大学外へと発信するメディア(雑誌およびウェブサイト)の発行・構築が不可欠だと考えている。
私は2008年から多摩美・武蔵美から選抜した学生を中心に「マヴォ」という雑誌を発行している。これが一般の大学発行の雑誌と異なるところは、参加作家はほぼ学生だが、大学からの出資を受けておらず、竹熊の自費出版によるメディアであることである。同時に、外部の読者を意識した商業誌と変わらぬ編集(作家の選抜・企画打ち合わせ・ネームチェック・進行管理)を加えていることだ。
8月には第二号を出す予定。こうした即売会や通販中心のメディアを軌道に乗せるには、ウェブサイトとの連携が不可欠である。「マヴォ」の場合、私の個人ブログがその役を果たしている。「マヴォ」は今のところ即売会・ネット通販・一部書店のみで販売しているが、こうした同人誌であっても、商業誌に比して内容的に遜色がないメディアが運営できるかという個人的興味から始まった雑誌である。同時に、来るべき大学を拠点としたメディア構築・運営のための実験という側面もある。
マンガ編集者の養成は、マンガ実作者養成と同じくらい重要ではないかと思われる。私の勤務する京都精華大学には「マンガプロデュース科」があるが、未だ本来の「編集者養成」が機能しているとはいえない。マンガ家育成のノウハウ以上に、「編集者育成」のメソッドは確立していない。
従来、編集者になるための第一歩が「出版社への就職」であったので、「アマチュアのための編集入門」などが成立する余地はほとんどなかったともいえる。しかし昨今の出版不況を奇貨として、フリー編集者が業界の中心になっていくことが予想される。その時には編集者もマンガ家と同じ競争原理に晒されることになる。
今後は、編集者(プロデューサー)養成に特化させたカリキュラムを研究・用意する必要が出てくると思う。
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