「シニフィアンの過剰」

昨日、無事にＴＢＳラジオ「ヱヴァンゲリヲン・破」深夜の緊急鼎談の収録を終えました。放送は今夜、日付変わって深夜１時半から４時まで放送されます。週明けに、ポッドキャストでもネット公開されますので、地方の方はそちらをお聞きください。

http://www.tbsradio.jp/life/2009/06/post_119.html
↑ＴＢＳラジオ公式ページ

氷川竜介・宮台真司・俺の三人が雁首揃えて正味２時間のトークをしましたが、映画の中身について具体的なことは何ひとつ触れていない（触れられない）という、異様な鼎談になりました。まあ僕と宮台さんに関しては、試写会すら見ていませんからもともと「知らない」わけなんですが、今回はインサイダー的位置にいる氷川さんの口からも、具体的な情報はまったく出ていません。プライベートでの会話においてもそれは同じでした。

普通、公開前の作品について関係者と話していると、うっかり口が滑って「あ、今のは公開までは伏せておいてください」ということがあるものですが、今回はそれは一切ありませんでした。ただ氷川さんの「察してくれ」と言わんばかりの表情から考えるに、どうやらかつてないレベルの箝口令が敷かれている模様です。ここまで関係者の口が堅いと、かえって胸騒ぎがしますね。

それで宮台さんの口からは「シニフィアンの過剰」という言葉が出ました。えーと、シニフィエだったかシニフィアンだったかうろ覚えですが、シニフィエが「意味される内容」でシニフィアンが「意味を示す文字や音声」という意味なので、たぶん「シニフィアンの過剰」でよかったと思います。

http://ja.wikipedia.org/wiki/シニフィアンとシニフィエ

それで、宮台さんによれば『エヴァ』という作品は「シニフィアンの過剰」の代表的な作品なのだと。つまり、多くのマニアがはまった「人類補完計画」とかカバラ思想の言葉などに始まって、「思わせぶりな言葉」が無数にバラまかれていて観客を幻惑しましたよね。深い意味があるのかどうかわからない無数の「意味ありげな言葉」。これが今回の新劇場版でも健在なので、基本的にエヴァンゲリオンという作品の作り方は、まったく変わっていないという意見でした。

確かに、今回劇場で配られている「破」のチラシを見ますと、文字でビッシリと「意味ありげな言葉」が書き込まれています。

http://listen.jp/store/musicnews_26365_1.htm

↑ちょっと画像が小さいですが、今回のチラシも「偽りの神」「真のエヴァンゲリオン」「捕食」「ベタニアベース」とか、どういう意味なのかにわかに判断できない言葉のオンパレードです。

特に俺が注目したのは

アスカ「そっか。私、笑えるんだ」
シンジ「僕はもう、誰とも笑えません」

というセリフでして、こんなセリフ、旧作にはないですよね？　これはどういう意味なのか？　もしかするとただの宣伝用のハッタリで、意味なんかないのか？　と、そういうことをいろいろ想像させて邪推させるのが、いかにもエヴァンゲリオンであります。

それで、これを見て宮台先生が「シニフィアンの過剰だな」と。こういうよくわからない言葉で観客をそそる戦略は、宮台さんによれば「エヴァンゲリオン」から始まったのではないかということでした。まあ厳密に考えると、エヴァの前に流行したデビッド・リンチの『ツイン・ピークス』もそういう作品でしたね。意味不明な言葉だけでなく「伏線の張り捨て」的なストーリー展開も、『エヴァ』を予言した作品と言えるのかもしれません。

ラジオを聞いただけでは、「破」がどんなストーリーになるのか、さっぱり分かりませんので、ファンの皆さんは安心してお聞きください。

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