iPadにマンガを入れてみた
インターネット上に著作権の切れた書籍(主に小説)をすべてテキスト化して無料公開している「青空文庫」という有名サイトがありますが、これをiPhoneやiPadで読むための「i文庫」というアプリがあります(iPad用はi文庫HD)。アプリ自体は有料(iPhone用が300円、iPad用が700円)なんですが、一度入れてしまえば、夏目漱石や芥川龍之介など、青空文庫に登録されている死後50年を経て著作権(著作財産権)が消滅した小説データを、何冊でも無料ダウンロードして読むことができます。
実はこのソフト、自分でpdfファイルを登録して読むこともでき、当然マンガ閲覧にも対応しています。iPad上で、まるで紙の本をめくるようにしてマンガを読むことができるのです。
上の写真のように指の腹でパネル上を軽く撫でるだけで、ページをめくることが可能です。iPadの場合、デバイスを縦にすれば雑誌サイズとほぼ同じ大きさの画面になりますが、横に倒して持つとだいたい文庫の見開きと同じくらいのサイズになります。少し文字が小さくなりますが、解像度とコントラスト比が高く、指で画面を拡大することも簡単にできるので、閲覧にはほとんど問題ないでしょう。
実際、精華大学で特任教授の六田登先生にも見ていただきましたが、予想以上に画面表示が綺麗だったようで、「マンガ用アプリケーションとして、この表示レベルなら問題がない。見ようによっては紙以上に見やすいかもしれない」とお墨付きをいただきました。六田登先生は、商業マンガ家としてはかなり早い時期(91~2年頃)に、専門業者に特注してPC(当時はMac)によるコミック作画彩色システムを導入(約3000万円かけたとか)した、デジタルコミックのパイオニアの一人です。六田先生によれば、「仕事としてデジタルでマンガを描いたのは、寺沢武一に次いで自分が二番目」とのお話でしたが、すがやみつる氏など、他にもいらしたと思います。でも家一軒分の費用をかけたという意味では六田先生が一番かもしれません。
しかし90年代初頭で3000万円かけたよりも高度なシステムが、現在なら30万あれば整います。この話をされるときの六田先生の「遠い目」は必見であります。
今回はあくまで実験でいれたので、手持ちのデータをそのままpdf化しただけです。データサイズは最初24ページのマンガを7メガくらいのサイズで入れて見たんですが、これだと重いらしく、なかなかページをめくることができませんでした。これを3メガ以下に落として入れたところ、サクサク読むことができました。しかし半分以下のデータサイズの場合、描線にジャギーのようなドット感が出てきますので、気にする人もいるかもしれないです。このあたりはさらに研究する余地がありますが、今後はデバイス自体が改良されていくでしょうから、2年もすれば解決される問題ではないかと思われます。
実際にiPadで閲覧してみることで、これまで夢想するしかなかった紙の本に代わる次世代マンガを実感することができました。ビジネスとしては、課金システムにともなうアップル社の検閲など、いくつかの問題点はありますが、たとえば無料で配信する限りは、検閲をすり抜けることは可能だと思います。秋にはグーグルのアンドロイドOSを搭載したソニーのタッチパネルPCも出るようですし、アマゾンのキンドルもあります。今年後半からの各社入り乱れての電子出版競争は、ワールドカップ並みのフィーバー状態が予想され、かなりの見ものとなるでしょう。
紙の出版社・取次・書店にとってはいよいよ黙示録的状況(あくまでビジネス的な)に突入しますが、今後は電子デバイスに適応したマンガが必ず出るでしょうから、「表現としてのマンガ」の未来は明るいのではないでしょうか。
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コメント
たけくまサン
ぼくも購入してみました。
電子音痴の老人でして、ぼちぼちと体験を積みあげ
使えるようになりたいです。
フリーのサイトからの閲覧で
青空文庫で斎藤緑雨を見ますとルビがくっきり
文字級数も大きく、まさに老人向き。
絵本風のアリスは、カラーの絵がアニメとは
ちがった単純な動きもついていて楽しめました。
マーブル・コミックでは
『スタトレ』他をダウンロード、購入諸体験。
文句ない画像でした。
これを、いつか「日本セリフ」版で読めたら
もっと詠みたいですね。
日本のマンガぼ窓口も、いろいろ出るんでしょうが、
「英語セリフ」でも売るべきでしょうね!!
(そのためには、マンガ・セリフの英訳名人を
多数育成すべきです!!適当に英訳して手抜き
すれば<日本ではアメコミ(翻訳版)は売れない>
という、古来の考え方と同じ状況が、海外で起きる!
大手版元、いまからしっかりと認識スベシデスね。
こうした、掲示板へのカキコもiPad
で出来ちゃうのにはビックリ。
キーボードも快適でした。
なれれば造作ない感じです。
(これはPCで書いてますが)
ひとつ、ラストにこう書いておきます。
「iPadで遊んでいたら、読書量が落ちた」
読むということだけに、集中出来る
「キンドル」がいいのかなあ。
貧乏人なんで買えません。
本を書かないと…。
投稿: 長谷邦夫 | 2010/06/17 10:27
何度読んでも汚れない、ボロボロにならない、
どんなに分厚い本でも厚さが気にならない。
これは電子書籍の「メリット」として
挙げられますが、「本」そのものの味を
失っている事にもなっているかも。
雑誌であればラーメンの汁の染みのある頁
そのものが「意味」を持っていたりする。
そもそもが再生媒体を必要としたレコード、
テレビゲーム、これらと「書籍」は、
ビジネスとしては同列の事例で語るべきでしょうが、
「意味論」としては全く別物。
そこにどんな解が出てくるかは、
>いよいよ黙示録的状況(あくまでビジネス的な)に突入します
に委ねる他ないのでしょうね、きっと。
投稿: はんてふ | 2010/06/17 11:04
>はんてふさん
僕は、まさに紙の味を求めるユーザーのために、紙の本はこれからも残り続けるだろうと思います。ただし、コミックが一冊2000から3000円になるなど、高価なものになるでしょう。しかしそれだけ出しても惜しくはない作品なら、購入する読者はいるでしょう。
要は、極端な薄利多売型商品だったマンガが、所有欲をそそる作りに特化した商品に転換していく時代の鳥羽口に、われわれはさしかかっているのだと思います。
投稿: たけくま | 2010/06/17 11:48
i文庫HDでPDFを読むとページめくりごとに拡大画像がリセットされるのが気になるので、わたしはCloudReadersを使用してます。実際にこれで5000ページくらい読みましたが、なかなか快適です。
投稿: 漫棚通信 | 2010/06/17 12:32
デジタルコミックのパイオニアとして認識していたのは
モンキーパンチ氏でしたが・・・
まあ、氏の場合コミック本体よりイラストがメインだったですが
思い返すと3D画像の背景とルパン三世は、
やっぱりミスマッチだった・・失礼。
投稿: ぬるはち | 2010/06/17 15:05
>極端な薄利多売型商品だったマンガ
これからの出版社は、
「極端な薄利多売型商品」を
デジタルに供給シフトしていく事に
なるんでしょうね。
投稿: はんてふ | 2010/06/17 17:10
私は1983年に商業誌でコンピュータONLYで描いた漫画を発表した者ですが、これって世界初になりませんかねえ?
http://www4.airnet.ne.jp/mor/olion/appendix.html
投稿: 名無しさん | 2010/06/17 23:34
「紙の本をめくる感覚で」という、
本の代替としての電子書籍ではなく、
電子書籍ならではのフォーマット
なんてのを考えるのも面白そうですね。
画面の真ん中からビリッと突き破られるような演出で
次のページが出てくるとか、
紙で作るなら長さ数十メートルになりそうな絵巻物を
スクロールで見るとか…
ワシの凡庸な頭では
たいしたことが思いつきませんが、
いろいろ工夫のしがいがありそうです。
投稿: たみぃ | 2010/06/18 02:26
iPhone/iPadでは画像データはPDFだと閲覧性が悪いです。
JPEGファイルにしてZIPでまとめた方が何かと快適ですよ。
投稿: ddc | 2010/06/18 03:06
そうなんですか。zipの状態でそのまま読めるんですね。
投稿: たけくま | 2010/06/18 08:44
ぼくの場合、MSXやPC-6001で「マンガもどき」の絵を描いて雑誌に掲載してもらったことはありますが、コマを割ったマンガは以前にも紹介させていただいた「週刊ポスト」のMacで描いたマンガでした。256Kのメモリーしかない最初のMacで、マウスしか使えないので、絵を描くのが、実に大変でした。1984年のことです。
85年に自分でもMacを買って、レーザーライターIIで出力したものを原稿にしたマンガを「日経パソコン」にしばらく連載しました。この頃はMacもモノクロのみで、カラー化のことなど考えてもいませんでした。
パソコンとネットのおかげで文章を書く面白さにめざめ、マンガからは離れていきましたが、90年代はじめに石ノ森章太郎先生から頼まれて、某コンピューターメーカーが作ったというマンガ製作システムを見学に行ったことがあります。ワークステーションをベースにしたものでしたが、当時、マンガ家が使いはじめていたMac IIのシステムの方が使い勝手がよく、なによりもシステム一式(たぶんハード別)の値段が1,000万円とのことで、いかにマンガ家が貧乏な職業であるかを説明しなくてはなりませんでした(いまなら『ゲゲゲの女房』で説明しやすいかもしれません)。
実は、このマンガ製作システム、友禅染めの図案作成用システムをベースにしていたそうですが、たぶんそちらの世界では、こんな値段が当たり前だったんでしょうね。
Macで作画といえば、やはり叶精作氏を思い出します。
http://ameblo.jp/kanouseisaku/
平田弘史先生も、一時はMac使いでしたが、先生が最初にMacに触れたのは、ぼくの仕事場でした。
投稿: すがやみつる | 2010/06/18 10:30
はい。僕もすがやさんが80年代にPC作画のマンガを発表されていたと知っていました。84年というのは突出して早いですね。
まあしかし、PC作画で週刊連載したということになると、六田先生の言うように、最初に寺沢武一先生、二番目グループが六田先生、叶精作先生、といった人々ではないかと思います。90年代後半にはかなりの人がやり始めたという印象です。
投稿: たけくま | 2010/06/18 10:57
ぜひPDFでの通販をお願いしたいですねー。
エンジニア向け書籍を発行しているO'Reillyという会社があるのですが、PDFでも"書籍"を販売しています。
特にアクセス制御やコピー制御などは行わず、PDFに購入者のメールアドレスを埋め込むだけの対策を行っているのですが、同様の手法をとれないですか?
投稿: tkr | 2010/06/19 02:49
>tkrさん
その社のことは、以前このブログでも紹介したことがあります。PDFデータ販売については今後の検討課題ですが、すぐにはやらないと思います。
投稿: たけくま | 2010/06/19 07:01
板橋区立美術館で今やってる「日本の美術運動」展で
初代マヴォが展示されてますよ。6/27までです。
投稿: 通りすがり | 2010/06/19 17:50
ツイッターをそのまま転載するより
まとめた方が読みやすいですね。
投稿: 忍天丼 | 2010/06/20 20:26
やっぱり、i文庫HDは重いみたいですね。たった7Mで。値段も高いし。
わたしは、捲りアニメは要らないので、CloudReaders
で充分だとおもいます。
投稿: ぽんた | 2010/06/21 11:57
たけくまさん、
ポッドキャストでepub(電子書籍のファイルフォーマット)も送れるそうです。
iTunes経由で書籍の配布ができます。
流通チャンネルの選択肢の一つにいかがですか。
http://www.mycupoftea.cc/archives/2010/06/19/what_is_podcast.html
投稿: SPQR | 2010/06/21 22:56
i文庫HDは縦にしたり横にしたりして読んでいると見開きのときに1Pずれることがあるんです(縦にして奇数ページ数読み進めて横に戻すとそうなる)。あの動作を改善して欲しいと開発元にメールを送っています。
ComicGlassはPDF非対応、zipオンリーのコミックビューアですが、これもi文庫HDと同じように1Pずれる。
CloudReadersは横向きでもページ進行が1Pずつなので1Pのずれはどうでもいいのですが、横向きのとき左右ページがくっつかず、隙間が空いてしまうので見開きで大きな絵を描いてある漫画はちょっといやな感じになります。縦横比をiPadの画面にあわせてデータを作成すればぴったりっくっつくの可と思いますが。B5などの用紙の縦横比だと結構太い黒が真ん中に
海外アプリのGoodReaderは左右ぺージをきちんとくっつけ、見開きの時に1Pずれることもなく、PDFの埋め込みリンクも動作するというすごいソフトですが、残念ながら右綴じに非対応。
なかなか「これ!」というアプリが見つかりません
投稿: 後藤寿庵 | 2010/06/25 11:38
MangaMeeya
とか
PCでしたらいろいろあるのですが
投稿: もももんが | 2010/06/27 01:05
GoodReaderは、Text読むために私も買いました。
なかなかコストパフォーマンスは高いと思います。
むしろ、標準のiBookが何のために有るのか判らない。日本のepubは無いし、アップルで変換ソフトを用意してないし、epub買うならPDF買いますよ。と言うわけで、使い道無いので消しちゃいました。
投稿: ぽんた | 2010/07/01 16:59
そこでscansnapで自炊生活ですよ
http://scansnap.fujitsu.com/jp/
これで部屋の積読状態の雑誌がPDFになってとても助かってます
OCRでちゃんと文字として識別できるようにしてPCで検索もできてとても便利
でもやっぱり紙の方が読みやすいから積読整理用ですけどね
投稿: なまえ | 2010/07/12 20:31
iPad専門の電子新聞
iPad Times
http://ipadtm.com/
創刊しました。
よかったら、活用下さい。
投稿: iPad Times | 2010/08/13 21:15