カテゴリー「エッセイ」の43件の記事

2010/06/22

学生にお金を払う大学

先日Twitterで、現代美術家の村上隆氏が、大学准教授でマンガ評論家の伊藤剛氏と、「最近の大学生」をめぐって議論していました。ちょっとタイムラインの彼方に消えてしまっていて引用するのが大変なのでしませんが、俺の記憶で書かせてもらうと、村上氏が「最近の大学生は自主性がなく、社会常識が乏しくて、仕事を頼もうとしても使い物にならない」みたいなことを言ってて、伊藤くんが「自分の学生時代を振り返ってもこんなものだった。」と反論(?)をされていたところに、俺が横から割り込んで、しばらく俺と村上さんとで議論になったことがありました。その部分の俺のツィートを、少しだけ引用してみます。

                   ◆

@takashipom @goito 村上隆氏のツィートに伊藤剛君が返信する形で教育論議が続いている。村上さんは「今の大学生は社会常識がなっていない」と嘆き、伊藤君は「自分の若い頃を思い返せばこんなものだ」と返すのだが、どちらも同感。問題の立て方が両者ほんの少しずれている感じ。

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2009/12/17

タイガー・ウッズに見る“モテの魔”の恐怖

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1260934192/l50
↑【ゴルフ】タイガー・ウッズ、人気急落! 支持率85%→33%と大幅に落ち込み、特に女性の評価が厳しく

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1260780127/l50
↑【ゴルフ】愛人14人のタイガー・ウッズ、エロメール全開!「君の好きなところでF○○K」「あっという間にイカせてみせる」★2

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1260599754/l50
↑【ゴルフ】タイガー・ウッズに新愛人?今度は40代の熟女で長年にわたり関係

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1260628934/l50
↑【ゴルフ】性欲旺盛なタイガー・ウッズ、売春婦に530万円以上を支払って連日“隣の女の子”と3Pプレー★2

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1261004857/l50
↑【ゴルフ】エリン夫人、タイガー・ウッズとの離婚を希望 米報道[09/12/17]

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1260601289/
↑【芸能】警視庁、携帯メールを完全復元 押尾容疑者丸裸 浮気相手の数がタイガー・ウッズに引けを取らないことも明白に

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1260847916/l50
↑【ゴルフ】尾崎将司が石川遼にアドバイス「女に気をつけろ」…タイガー・ウッズを反面教師に

タイガー・ウッズさんの不倫騒動はますます加熱するばかりであります。先月の自動車事故がきっかけだったはずですが、なんでそれからプライバシーの暴露話になっていったか、よく覚えていません。しかし、イケメンでお金があって世界的有名人ですから、なにかあればこうなることもあるということで、日頃から身辺には気をつけておきたいものです。まあ、「上半身と下半身は別人格」であるとはいえ、タイガー・ウッズさんくらい「落差」の激しい人もいないかもしれません。押尾学先生の場合、ある意味で上半身と下半身は「一致」していますが。

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2008/02/16

70年代は変な時代だった

えと、以下書いた文章はおとといアップした「まんがエリートとおたくの間に(2)」のために書いた文章から、本筋から逸脱して長くなるのでカットした部分です。でも読み返したら、これはこれで発表する価値はあるかも、と思い直しました。本筋の「おたく」話からは離れているんですが、俺が中学から高校時代を過ごした70年代って、こういう時代だったよなあというあくまで俺の印象であります。補遺エントリとしてお読みください。

昔ライターの山崎浩一さんと話したとき、山崎さん(俺より6歳上。世代的にはサブカル=プレおたく世代に入る)が「73年くらいまでは60年代なんだよ」という話を俺にしたことがあるんですね。これはつまり、70年代に入ってからもけっこう長い間60年代的な意識をみんなで引きずっていて、それがだいたい73年で終わったということです。俺は子供だったけど、山崎さんはもう高校から大学くらいだから「政治からサブカルへ」という時代の変わり目を、リアルに目撃していたのだと思います。

それで70年代はのんびり・まったりした時代だったと前に書きましたが、一番そういうムードだったのが確かに74年から76年くらいでした。鈴木ヒロミツがCMで「のんびり行こうよ」と歌ってたりとかね(※註) ……あ、すいません。今調べたらこれ、意外と早くて71年だった。でも70年代中盤までの気分を象徴するCMだったと思いますよ。

http://www.youtube.com/watch?v=AWAqeKAZLz4
↑モービルガソリンCM「気楽に行こうよ」(1971)

※コメント欄で指摘されましたが、この歌を歌っていたのはマイク真木だそうです。CMに映っている太っているのがモップスってGSバンドやってた故・鈴木ヒロミツ。このCMに出たあたりから役者に転向したのかな。ちなみに高校時代のユーミンはモップスのおっかけやってたそうです。

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2007/11/29

独学に勝る勉強はない(2)

前回「独学に勝る勉強はない(1)」を書きましたところ、当コメント掲示板はじめ「はてなブックマーク」その他で反響が続出しまして、想定外のことで驚いております。別に挑発するつもりは毛頭なかったのですが、最後に「俺、高等学校は不要なのではないかということを、実はもう25年くらい前から考えてて」なんてことを書いたのが一部に議論と批判をまき起こしてしまったようです。

確かにこれは舌足らずな表現でしたので、お詫びの上一部訂正します。俺にとっての高等学校は、こと「文部省が決めた勉強」に関する限り、ほとんど無意味なものだったんですが、もちろん意味があったと思っている人も大勢いるでしょう。俺にとっても、勉強以外の部活動とか友達づきあいなら、確かに意味はありました。その人から勉強を教えてもらったわけじゃないんですが、人間的に影響を受けた先生もいましたしね。したがって「科目の勉強」以外では中学高校は俺にも意味があった、と訂正させていただきます。

あと、俺は学校の勉強は基本的に嫌いでしたけど、勉強が好きで好きで仕方がない、という人が存在することも承知しております。そういう人にとっては、中学高校の勉強も大学の勉強も大いに意味があるものでしょう。他人がそう思うことまで、俺は否定するつもりはありません。

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2007/11/27

独学に勝る勉強はない(1)

※追記:最初にアップしてから少し書き足してあります。

今回書こうと考えているのは、「学校の勉強」についてです。俺は、自分が高卒だから言うのではないですが、「学校の勉強」というのは、本当は小学校の六年間で充分ではないかと考えてます。俺自身、胸に手を当ててみても、47年間の人生で本当に役に立った、と思えるのは小学校で習った「読み書きソロバン(算数)」だけで、これには感謝しています。

でも中学以降の勉強となると、因数分解なんてすっかりやり方を忘れてますし、英語も中二レベルくらいからだいぶあやしい。それ以外の学科の内容もほとんど忘れちゃってる。高校の授業も同様です。中学高校の勉強も、大学以降に本気で学問しようと考えたら絶対必要なんだと思いますけど、すべての人間が学者になるわけではない。俺ばかりでなく、ほとんどの人には「受験勉強」以外の意味はあんまりないのではないでしょうか。

でも学校をさぼった記憶はないので、出席はかなりマジメに出ていた方じゃないかと思うんですよ。それでも、中学高校で習ったことが何か役に立ったという記憶がない。中学高校で覚えているのはほとんどが趣味と友達のことくらい。9割5分はそっちの記憶しかありません。

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2007/07/24

みんななんで選挙に出るか

丸川珠代さんが自民党から参院選に出馬して、期日前投票やろうとしてはじめて「東京都の選挙権がない」ことが判明して大恥をかきましたが、丸川さんはじめ、どうしてみんなそんなに選挙に出馬するんでしょうね。

いや、薬害エイズの川田龍平さんとか、ああいう人が出るのは理解できるんですよ。社会的弱者の声を政治に反映させるには、自分で当選しちゃうのが一番てっとり早いでしょう。そういう人はいいんだけども、アナウンサーの丸川さんとか、行列ができる弁護士の丸山和也さんとか、プロレスの誰それさんとか、本業が別にあるタレント候補がなんで出るのかよくわからないですよ。

だって面倒くさいでしょう。本業も休まなきゃなんないだろうし。丸川珠代さんなんてさっさと本業(テレ朝)まで辞めちゃいましたしね。そこまで議員になることには魅力があるのか。

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2007/07/18

俺の“難民”時代(2)

X氏の部屋は2階で、1階にはヤクザが住んでいてたいへんでした。ちょっとでも物音立てると怒鳴り込んでくる。それ以上に困ったのは、土曜日になるとXの彼女が部屋にやってくるんですよ。「クマさん…次の土曜、悪いんだけどさ……」なんて言われると、こっちは部屋あけるしかない。

それでしかたなく毎週土曜には池袋の文芸座行って、1000円くらいのオールナイトで「大島渚5本立て」とか「タルコフスキー5本立て」とか見に行くわけですよ。サウナや安宿にとまるより全然安かったし。ビデオが普及してなかったから、当時は週末に一晩中、映画を見せる名画座がたくさんあったんです。それで20代前半は猛烈に映画を見てましたよ。年間200本は見てたな。だんだん彼女が欲しいとかいう気が麻痺して、「土曜は朝まで映画」というのがいつのまにか習慣になってた。完璧に喪男でしたね~。何やってたんだか。

X氏のアパートは三ヶ月が限界でした。向こうの態度にそろそろ出ていって欲しい感がでてきたし、こっちも肩身が狭いんだけど、行き場所はないしで、しばらく悩んでました。

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2007/07/17

俺の“難民”時代(1)

ええと、前のエントリ「フジでオマイラキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」(リンク→)で、「俺も昔はネカフェ難民みたいなものだった」みたいなことを書きました。ネカフェ難民のニュースを見ると、どうもそのことを思い出してしょうがないんですよ。俺の 『私とハルマゲドン』(ちくま文庫)にも出てくるエピソードなんですが(※注)、あの本は現在入手困難ですので、ミクシイ日記にそのことをちょっと書いたんですね。そしたらわりと好評でしたんで、加筆してあらためて「たけくまメモ」に掲載することにしました。

なんで俺が「難民」になったかというと、これはブログでも書いたと思うけど、直接的には親(母親)との確執が理由で、このままだと家庭内暴力に発展しかねないので自分から家を出たわけですね。1981年の初春、俺が20歳の時です。

でも家出た理由はそれだけではなくて、文筆とか編集のようなクリエイティブ方面に進みたかったというのもありました。普通はちゃんと大学出て出版社に就職するものなんでしょうが、俺の場合は高校時代から趣味(ミニコミ製作)にはまって学校の勉強を全然しなかったので、成績は惨憺たるもので、大学はどこも全滅でした。

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2007/06/24

「商材」で一攫千金?

何年も前から気になってるんですが、よくスパムメールなんかで、

どんな商売をしてもダメで、大借金を抱えて一時は自殺まで考えた私ですが、ある人との出会いで人生が変わりました! その人からノウハウとともに商材を購入しましたところ、3ヶ月で1千万もの借金が返済できたばかりか、その年の収入が4千万を超え、今では年収が億に達して、豪華クルーザーでセミリタイア生活の毎日です。この幸福を貴方とも分かち合いたくメール差し上げました。私がそうであったように、きっと貴方も信じられないことでしょう。そんなうまい話があるのか?って。でも、あるんです!今なら、たった5万円で商材とノウハウを伝授いたします。この商材に触れたとき、貴方はきっと、今までの自分の人生はなんと無駄だったのかと思われることでしょう! 必要なのは、ほんの少しの発想の転換、それだけなんです。さあ、私のように貴方も幸福になりましょう!

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2007/03/27

2月の蚊取り線香

入院中のことなんですけど、まだこれ書いてなかったですね。実はNリハビリセンターに転院して間もない2月3日の夜、蚊が出ましてね。プ~ンと羽音がしたんで最初は脳梗塞の幻聴かと思ったんですけど。その後掌を刺されて痒くなったので間違いないと思い、看護師さんに蚊取り線香(正確にはべープマット)を焚いてもらいました。

いや~2月の、それもなったばっかりですよ。ビックリしました。地球温暖化はここまで来たか? と思いましたけれども、聞いたら、病院って1年中暖かいから蚊が越冬しているみたいですね。でも数日にいっぺんベープマット出してたので、「今年は異常」であったことは確かみたいですが。

それで退院してから無性に映画を観たくなって、『硫黄島からの手紙』を新宿で観た翌日に海老名の東宝シネマズで『不都合な真実』を観たんですよ。大統領になり損ねたアル・ゴアがライフワークとして取り組んでいる地球温暖化の危機を訴えるドキュメンタリー。話題になったから観た人も多いと思うけれども。俺が観たのがちょうど最終日でした。

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2007/03/23

川内康範先生の想い出(2)

Kawauti6 ←インタビュー中、赤田祐一編集長が撮影した川内先生(QJ創刊2号)

QJ川内インタビューのある意味での白眉は、戦時中先生が徴兵されて海軍に入ったあたりの話ですが、ここで先生は決定的な体験をします。そこは最近「森進一が怯える川内康範の知られざる履歴書」という記事を載せた「週刊新潮」ですら遠慮して書かなかった部分で、先生の秘書から「私も初めて聞きました」とまで言われた重要な話なのですが、先生が戦後、玉砕した英霊たちの遺骨収集活動に邁進され「憂国の士」となったきっかけとして、非常に納得できる話でした。

ずるいようですが、詳細はこの秋再刊される文庫本にゆずります。まあごく簡単に書くなら、先生には「病気除隊」して自分だけが生き残り、多くの戦友が死んだことに対する後ろめたさというか、贖罪意識があるわけです。その話をされたとき、先生は声をつまらせ、ふりしぼるように「俺は卑怯者だ!」と慟哭されたことが昨日のことのように思い出されます。

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2007/03/21

川内康範先生の想い出(1)

Kawauti1 ←ダンディな川内康範先生

齢87になって、再びマスコミをにぎわせておられる川内康範先生ですが、愛弟子であったにもかかわらず礼儀を失した森進一を破門したり、押しかけた無礼なテレビクルーに向かってステッキを振り回して一喝するなど、お元気そうでなによりです。ステッキの翌日はマスコミ各社にお菓子をふるまわれるなど、怒っても気配りを忘れないところもさすがといえます。

俺が川内先生に最初にお目にかかったのは1994年8月のことでした。当時仕事をしていた雑誌『クイック・ジャパン』(太田出版)で、俺は「QJ名物老人インタビュー」と呼ばれた連載をしていました。オリバー君を日本に呼んだプロモーター康芳夫氏・「怪獣図鑑」の挿絵画家・石原豪人先生に続いて、川内先生は三人目でしたが、なにしろあの『月光仮面』『レインボーマン』の原作者であり、お元気なうちにぜひお話を伺いたいと思っていたのです。

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2007/03/06

コレクター考(10)コレクターの末路

これは俺が直接会ったわけではないのだが、友人の友人に、こういうコレクターがいたという。その人は鉄道の時刻表を集めることが趣味で、しかも「世界中」のそれを集めていた。ところが住んでいたのは普通のマンションの3DKであり(一人暮らしだった)、当然のことながら、あっという間に玄関から風呂場まで、集めた時刻表で足の踏み場もなくなってしまった。それでも彼は時刻表集めをやめない。いや、やめられなかった。親や友人、誰が忠告しても耳を貸そうとはしない。彼の部屋は、世界中から届けられるぶ厚い時刻表が不気味に増殖するばかりだったという。

とうとう彼の家には寝る場所もなくなった。しかたなく彼は、駐車場にある自分の車で寝起きするようになった。風呂は近所の銭湯に通っていた。

……そのうち車の中にまで時刻表が置かれるようになった。誰の目にももはや「破綻」は見えていた。このままではどうにもならない。彼も、理性ではそのことはわかっていたようだ。でも、やめられないのだ。

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2007/03/03

コレクター考(9)男のコレクション、女のコレクション

今回は少し角度を変えて、引き続きコレクターについて考えてみたい。コレクションの「男女差」について、かねてからの考えを書いてみようと思う。

これまで書いてきたコレクション話は、主として「男」のそれについてであった。そこには、とてつもない濃度の「喪」(もてない男)パワーが渦巻いていたような気がする。本田透の「電波男」さながらの人間模様が、そこにはあった…ような気がするのだ。

世間的にも「コレクター」というと、やはり「男がやるもの」のイメージが強いのではないだろうか。確かに人生のすべてを賭けるような、気合いの入ったコレクションを築くのは男性が多い。ゴミ屋敷の主にはたまにバアサンもいるが、あれをコレクションと呼ぶ人は誰もいないだろう。

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2007/03/02

コレクター考(8)冥府魔道の収集術(二)

さて、俺が前回書いたようなこと(激レアモノをタダで譲ってくれる)が「現実にあり得るのか?」と若いマニアは疑問に思われるかもしれない。確かに、2000年代の現在、そんなことはありえないだろう。90年代にもあり得ず、80年代でも、レアケースであっただろう。しかし、70年代までを考えると、確かにあり得たのだ。

これはアニメも同様である。たとえば撮影に使用したセル画は、俺の子供の頃はスタジオ見学の帰りにもらえる「おみやげ」であった。虫プロも東映動画も近所の子供に「あげて」いたのである。余ったセル画はどうしたかというと、ゴミとして捨てられていたのだ。

俺は70年代の終わり頃、東映動画の名作『太陽の王子ホルスの大冒険』(1967)のセル画が、東京湾某所に大量に不法投棄されていたという「噂」を耳にしたことがある。あるマニアは、噂を聞いて潜水夫の免許を取得しようとしていたそうだが、その後見つかったという話は聞かない。まあ見つかったとしても、当時で十年以上も海水にひたされていたセルが無事だったとは思えないが。

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2007/03/01

コレクター考(7)冥府魔道の収集術(一)

今回は微妙な領域の話である。つまりこれまで紹介してきたような「超コレクター」が、いったいどのようにして驚愕のコレクションを築くことができたのか……という話だ。今回はそこを推察してみたい。「推察」と書いたのは、当のマニアに尋ねたところで、どういうルートで誰から手に入れたのかという詳細など、まず教えてはくれないからだ。それが普通の店には置いていない「一点モノ」であればなおさらのこと。正直、俺にもよくわからない「謎」が、そこにはあるのである。

これはプロの古物業者であってもそうである。所有者がアイテムを手放したり、人から人へ流通する背景にはさまざまな事情があり、古物商はそこをいちいち詮索したりはしない。それがこの世界の仁義なのだ。たとえばの話、万一それが「盗品」であったとしても、相手と自分との間に正当な「商取引」が成立している限りにおいては、古物商の立場としては「知ったことではない」のである。(Z氏やX氏のコレクションが盗品だといっているわけではない)

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2007/02/27

コレクター考(6)俺が出会ったコレクター達(四)

Z氏のコレクションは「質」において究極と呼べるものだったが、次に紹介するX氏は「量」において究極だった。いや、別に「質」が劣っていたわけではない。Z氏が凄すぎるだけだ。もちろんX氏のコレクションも超Aクラスであることは間違いない。しかも広大なコレクションルームを持ち、整理も完璧だった。その意味ではZ氏を凌駕していたともいえる。

X氏に関しては、じつは仮名表記するかどうか迷った。特オタの世界では、X氏が某地方都市で経営しているマニア向けショップは有名である。「ああ、あそこの店長ね」といえば、若い特オタでもすぐわかるはずだ。しかもこの店は古物取引だけではなく、昔のソフビや撮影用小道具などの復刻も手がけており、コレクターズ・アイテムを自ら製造販売していることでも特異な存在である。マニア界では、ある意味「公人」に近いともいえる。(ただ本人が積極的にマスコミに出るタイプではないので、仮名にした)

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2007/02/25

コレクター考(5)俺が出会ったコレクター達(三)

と言って彼が取り出したのは、経文折りにたたまれた厚手の和紙だった。相当の年月が経っているのか、全体が茶色く黄ばんでいる。

「なんでしょう? 崩した筆文字でビッシリ書かれていますね。お経かなんかですか?」
「いやお経ではなく、神道の祝詞(のりと)。昭和29年の『ゴジラ』第一作で、ゴジラが最初に出現した大戸島の神社の神主が、伝説の海神(ゴジラ)の怒りを鎮めるために、映画で読み上げた実物ですよ。撮影用の小道具だね」
「…………」

もしかして内容がディープすぎて、ピンとこない読者もいるかもしれない。そういう人は、どうかレンタルででも『ゴジラ』第一作を見直して欲しい。ここに書いた通りのシーンがあるはずである。祝詞も、紙の一部だが映画に映っている。まさかこんなにしっかり書かれてあったとは知らなかったが。ともかく、Z氏のコレクションはすべてがこんな調子なのだ。

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2007/02/24

コレクター考(4)俺が出会ったコレクター達(二)

Z氏が自室のスチルの山を「2億円」と算定した基準は何か。おそらくは出版社が制作会社から写真を借りる際の著作権使用料を基準として計算したのだろう。80年代末で東宝特撮の写真版権使用料は一点につき2万円が相場であった(今は知らないが、おととしある仕事でロマンポルノのスチルを日活本社から借りたら、ちょうど1点2万円だった)。

Z氏がその金額で価値を査定したのだとしたら、目の前のスチルの山はちょうど1万枚あったということになる。マニア間の売買金額では一点ごとに査定するので、まったく違ってくる。中には数万以上のものもあるだろうが、多くは数百円といったところだ。Z氏が全部を2億円かけて集めたわけではあるまい。まあ、初対面の俺に対してややハッタリをきかせたというところか。それにしても、あのスチルの山を眺めただけでも、明らかに通常のマニアを超えていたが。

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2007/02/23

コレクター考(3)俺が出会ったコレクター達(1)

前回やや特殊事例をあげてしまったので、今回はまともな、というか本格的なコレクターを紹介するとしよう。

 俺の世代でコレクションというと、やはりマンガ・アニメ・特撮といったオタク系が主流となる。広い意味でのサブカルチャー領域で言えば、たとえばビートルズやストーンズなどのレコードコレクターが、上の団塊世代にはわんさといた。マンガも、貸本収集などになるとやはり団塊世代が多い。

50年代後半から60年代前半生まれの、オタク第一世代が本格的にコレクション道に参入するのは70~80年代以降であるから、オタク系以外のサブカル・アイテムはとうに先人に漁り尽くされていて、入るスキマがなかったといえる。まあビートルズなどは団塊世代に比べれば思い入れが希薄だったこともあるが。ゆえに、俺たちが物心ついてから最初に熱中したマンガ・アニメ・特撮がフェティッシュの対象となったわけだ。コレクションの流行が昔ながらの書画骨董の世界から、ここ40年でサブカル=オタク領域へとシフトしたのは、団塊の世代に始まり、オタク第一世代にいたる嗜好の変遷とシンクロしている。

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2007/02/21

コレクター考(2)コレクションは病気である(二)

「何が危ないのですか?」と俺が問うと、シャイニング氏はニタリと笑って引き戸を開け、部屋の隅を指さして、「不審者が部屋に侵入した瞬間、赤外線センサーが感知して、あそこからタタミ針が発射される仕掛けになっているんです。死にはしないですが、針先には煮詰めたニコチンが塗ってあるので、とても痛いうえ、傷口がなかなか治らないようにしてあります」
「ものものしいですねえ。なぜこのような仕掛けを?」」
「もちろんコレクションを守るためですよ!」

と彼が示した部屋の内部を見て俺は息を呑んだ。部屋は六畳間くらいだろうか、そんなに広くはなかったのだが、中央に万年床が敷いてあり、布団の四隅に沿ってビッシリと天井までマンガが平積みされているのだ。冬の豪雪地帯で、道路だけ除雪されて道の両側が高さ数メートルの「雪の壁」になっている風景があるが、あのような感じで、まさに「マンガの壁」である。よくも床が抜けないものだと思った。

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2007/02/20

コレクター考(1)コレクションは病気である(一)

よく誤解されるのだが、俺はコレクターではない。吉祥寺にいた頃、蔵書が段ボールで250箱あったと以前書いたが、それはたんに「本が多い状態」なだけであって、断じてコレクションなどではなかった。その後、200箱近く古本屋に売り払ったが、そのときも「惜しい」とはあまり思わなかった。むしろ積年のアカがとれたようでせいせいしたくらいだ。もし俺が真性コレクターだとしたら、決してありえないことである。

真性コレクターにとって、コレクションはアイデンティティそのものであり、自分の生命である。手放すなんてとんでもない。非コレクターには決して理解できぬ絶対の価値意識が、そこにはあるのだ。

20代から30代にかけての俺は、たしかに無闇やたらと本を買い、映像ソフトを購入していた。たぶん新築の一戸建てが1軒買えるくらいのお金は使ったと思う。その中には60年代から70年代初頭の「少年マガジン」のように、東京中の古書店を駆け回り、バックナンバーを数百冊コンプリートしたものもある。俺にとって「コレクション」と呼べたのは、唯一あれくらいだったろう(その「マガジン」も、数冊を除いて今は手元にない)。

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2006/04/08

俺のオタク時代(写真あり)

Takekuma21sai01  こないだ実家に立ち寄りましたところ、父親が「おい、お前の写真が出てきたぞ」と申しますので、なにかと思ったらゲゲ~! これは俺の21歳当時のアレではないか!

 21歳というと、1981年。俺はもうオタクまっ盛りですよ。今より全然、見るからにオタク。つか、オタクなんて言葉は影も形もない時期からオタクだったわけです。この頃はまだデザイン学校に通っていたときだと思いますが、ぼちぼち編集とかデザインのバイトを始めていた時分でしょうか。

 この写真は見ればわかるでしょうがテレビスタジオで撮られております。横に写っているのが桂三枝師匠とあべ静江さん。「桂三枝のザ・恋ピューター」というお見合い番組に出たんですよ。『パンチDEデート』のパチモンで、一人の女の子をめぐって野郎が5人くらい出てきて争奪戦を繰り広げるというやつ。

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2006/03/13

「名声の口座」としての「実名」(2)

さて、一方の匿名発言も、じつは同じことが言えるんですね。匿名にもそれなりの「責任」が存在し、それはさまざまな形で決済を迫られることがある。悪意のある匿名発言の場合、たとえば誰かに実名をばらされるなんてことも「決済」のひとつでしょうし、最悪、IPアドレスから本人が特定されて逮捕、なんてことも最近では珍しくなくなりました。

でもまあ、ほとんどの場合はそこまで行きませんわね。そういう形で露骨に決済しなくとも、多くの匿名発言は、それがいいものでも悪いものでも「その場限りで読み流される運命にある」ということです。小飼氏が言うところの「匿名での発言には流動性がない」とはこのことでしょう。

匿名のまま、自分の発言に現実的な効力を求めようとしても、それは虫がいい以前、に矛盾した行為だといえます。それが分かっているから、ほとんどの匿名発言者は自分の発言が「その場(ネット内)限りのもの」になることで満足しているわけでしょうし。また、ひとつひとつの姿なき声が、時に状況を動かす(「のまネコ」問題など)ことだってあります。匿名の報酬といいますか、たまに起こるそうした「祭り」に参加するカタルシスだってあるわけです。

匿名発言の「有効距離」にはおのずと限界がある。これが匿名のデメリットです。よほど論理的な説得力がない限り、発言の内容以前にギャラリーに「聞き流される」ことを覚悟しなくてはならない。読む側に回ることを考えれば、誰だってそうしているんじゃないですか。それを誰かに伝えるとしても、ソースが匿名カキコなら、なかなか「ウワサ話」以上のものにはならない。もちろん、それはそれでいいわけですよ。

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2006/03/12

「名声の口座」としての「実名」(1)

「404 Blog Not Found」の小飼弾さんが、この間から自身のブログで面白い議論を展開しています。3月9日付の「実名は振込口座?それとも振替口座?」から始まる一連のエントリがそれ。

▼実名は振込口座?それとも振替口座?
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50406879.html
▼芸名口座
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50409913.html
▼別名(alias) vs 別人格(alter-ego)
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50410279.html

小飼氏も書いているように、「実名・匿名」問題そのものはネットではありふれた議論です。インターネット以前の、それこそパソコン通信の時代からありましたし。その度に激烈な議論が巻き起こり、「決着」がついたと思われても、なにかの拍子に蒸し返される。ということは、本質的には決着がついていないことでもあるわけです。

この問題、物書きとしての俺にも無縁ではないので、昔から折にふれて考えていたことでもありました。いろいろ考えて、結局のところ実名・匿名にはそれぞれメリット・デメリットがあり、そのこと自体はいいことでも悪いことでもない。実名でも匿名でも「いい発言はいい」「悪い発言は悪い」のであって、時と場合に応じて使い分けるべきだという、いささか身も蓋もない結論に達しておるわけです。

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2006/03/11

必殺技ひとくちメモ

Amazon.co.jp:荒川静香 Moment ~Beautiful skating~: DVD

こないだオリンピックで金メダルとった荒川静香選手の番組見てたんです。それまでフィギュアスケートなんて全然興味なかったんですが、荒川さんの演技見ているうちにすっかりハマッてしまいまして。うっかりDVDまで注文してしまったくらいです。

それはともかく、荒川さんといえばイナバウアーなんですけど、番組でアナウンサーがですね、「出た必殺技・イナバウアー!」って叫んでいたわけです。確かに

「イ~ナァ~・ヴァゥウ~ワアアアアアー!」

とか絶叫すれば必殺技っぽいんですが、実際はそういうわけではなくて。

普通に「必殺技」って言ってる。これに違和感がありましてね。細かいことかもしれないですが、別にイナバウアーって人を殺すワザではないでしょう。せめて「必勝ワザ」と言えばいいじゃないですか。いや、イナバウアーって実は得点にならないそうなので、しいて言えば「得意技」ってだけ。「印象技」とかね。なのになんで必殺技なのか、と考えてみたんですが、たぶん何も考えずにこの言葉を使ったとしか思えない。そのほうが格好いいから、なんとなく言っちゃったんでしょう。

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2006/03/06

忘れえぬ君(1)イッサクさんの巻

(1)、なんて銘打ってますが発作的に書いてるだけなので続くかどうかはわかりません。

ある時期、ほんの一瞬すれ違っただけで、友人とも呼べぬ関係なのですが、なぜか心に残る人というのがいます。俺の人生にとって利害関係が何もなく、特にこれといった影響を受けたわけでもないのですけれども、強烈なオーラだけが残る。そんな人のことをふと思い出したので、せっかくなので書こうと思います。

昔むかしの80年代前半、俺が群雄社というエロ本出版社で仕事をしていたときのことであります。ここにイッサクさんという編集者がいました。正社員だったかは知りません。だいたいこの会社、社長(故人)が元全共闘の過激派で、社員の多くがヒッピー、営業部長がヤクザ、編集局長がお坊さんでポルノ小説家と、なんというかまともな人が誰もいないのがナイスでした。イッサクさんは、まだまともなほうだったと思います。

俺はその頃22,3だったんですが、家出して2年目くらいで、ド貧乏ながらカツカツなんとか生きていたという感じ。ここで、こないだ復刻された『色単』を作っていたわけであります。

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2006/01/19

宮崎勤の死刑判決に思う

最高裁で宮崎の死刑判決が確定した。たぶんそうなるだろうと思っていたから、淡々とニュースを聞いた。まあ17日はヒューザー証人喚問とかホリエモン強制捜査とかたて続けだったので、そのせいもあったと思うが。

宮崎事件や、裁判に関して今更俺から付け加えることはあまりないが、裁判を終えての報道記事や識者のコメントを聞いて、気になることがひとつあった。

それは「動機がついに解明されず、心残りです」というものだ。なぜああいう事件が起こったのか、その原因を究明してほしいというのはもっともだが、俺は事件の種類によっては「動機が解明できるものと、できないもの」があると思うのである。

たとえば自分自身の過去を振り返っても、なぜあのとき、あんなことをしてしまったのか、自分でも不可解な行動はある。もちろん表面的な理由をつけることはできるのだが、それが本当にそうなのかは、自分だってよくわからない。

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2005/12/30

数学が苦手です

年の瀬にこんなことを書くのも何なのですが、数学が苦手でたまりません。一応できるのは、加減乗除くらいのもので、せいぜいが小学5年生レベルの算数でしょうか。中学レベルだともう怪しいです。中学2年くらいで習った因数分解は、たしか高校に入ったあたりでようやく理解できましたが、もう忘れました。微分・積分などは、最初からわかりませんでした。

だいたいかけ算の九九にしたところで、1×1~6×9までしか覚えていないのです。7のケタからの計算は、必ず頭の中で7×4=4×7と一度ひっくり返して計算します。また足し算にしても、大人になった今でも指を使ってしまうのです。つまり小学校低学年の時点で、算数が苦手であったわけですから、中学・高校ともなると数学の時間は地獄であったといえるでしょう。

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2005/12/12

人間のタイプでいうと…

昨日の朝のテレビになぎら健壱さんがでていた。それで久しぶりにしげしげとこの人の顔を見たのだが……

B00077DBI4

takekuma-P1000733 やはり、似ているような気がする。

昔から「たけくまさん、なぎら健壱さんに似ていらっしゃいますね」と言われ続けていたが、顔のツクリもさることながら、人間のタイプとして同類なのかもしれない。

なぎらさんも下町の子供文化に執着して昔のメンコの類を集めていたりとか、オタクっぽいところも共通するものがあるし。オシャベリなところとか。まあ話芸は向こうが百倍はウマイのだけれど……。

ところで俺が本格的にヒゲをたくわえ始めたのは、『サルまん』の少し前からだけれども、それ以前は「西田敏行さんに似てらっしゃいますね」と言われた。あれも人間のタイプとして一緒なのだろうか。俺は、西田敏行とダチョウ倶楽部の上島竜平が似ていると思うのだが、そうすると上島とも同類であるのか。

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2005/10/23

マンガ専用フォトライブラリー構想

 一連のエントリのまとめとして、エントリやコメント欄でも話題になった「マンガ家用のフォトライブラリー」について、再度書いてみたいと思います。

 現代のマンガ表現において、マンガ家が作画参考用に写真を使用することは、ごく当然の行為になっています。まあ『フリテンくん』とか『ぼのぼの』のような作品でどれだけ使うかは疑問ですが、リアリスティックな描写を要求する劇画やストーリーマンガでは、写真は、まず必須の作画資料と言っていいでしょう。

 さてこうした写真を作家がどう調達するかというと、たいていは、あらかじめ用意しておいた雑誌写真のキリヌキや、写真集などを使うことが多いわけです。ここで写真はあくまで参考にして、十分な程度のアレンジを加えることができれば、著作権的な問題は生じにくいわけですが。

 しかし「単純トレース」から「創作性を持ったアレンジ」までの間には巨大なグレーゾーンが存在するのは確かで、本人はアレンジしたつもりでも他人はそう思わないケースもあり、これこそがまさに、マンガ家がしばしば写真家などから訴えられる土壌になっているわけです。ちなみに資料が写真でなく絵画であった場合でも、考え方としては一緒です。

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2005/10/21

許される模倣・許されない模倣

 前エントリで、「竹熊はトレースと模写の違いを混同して議論している」というような疑問が寄せられました。具体的にはおがたさん、fineさん、ニュー速+住人さんなどからの書き込みです。まずおがたさんが、

《どうも竹熊さんの論旨に違和感を覚えるのですが、

  A) 元絵を下に敷いてトレースして描く
  B) 元絵を隣において描く
  C) 元絵を思い出しながら描く

の3つは分けて考えるべきではないでしょうか?

今回の事件はAですよね。竹熊さんが論じているのは主にC、ひょっとすればBも入る程度で、Aは入っているのかな?
 もちろん、じつはこの3つ、境界線は曖昧であったりするのですが、
すくなくともBとCの地点から見れば、これらとAとの距離は非常に遠いものがあるように思います。》

と書き込まれ、ついでfineさんが、

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2005/10/20

マンガ家の描写盗用問題についての私見

 例の少女マンガ家による「スラムダンク」の構図盗用問題について、「竹熊の意見が聞きたい」という声があちこちから寄せられるようになりました。著作権問題についてはかねてから関心のあるところであり、この際「報道から知りうる範囲」を材料にして、自分の意見を述べてみたいと思います。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0510/18/news099.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20051019k0000m040140000c.html
http://www.kodansha.co.jp/info.html(←講談社お詫び文/現在削除)
http://www.kodansha.co.jp/betsufure/(←編集部&著者お詫び文)
http://cabin.jp/k55yuki/(←ネット上で設けられた検証サイト)

 意見を述べる前に、最初に確認しておきたいことは、今回の問題、現時点では「著作権侵害事件」ではないということです。というのは、著作権侵害は「親告罪」ですので、著作権者、すなわち今回の場合は「スラムダンク」の著者である井上雄彦氏が「エデンの花」作者である末次由紀氏を裁判所に訴え出ない限りは、罪を構成しません(※)。

※この文章を読んだ法学部の学生さんから指摘があり、「親告罪で告訴がなくとも、理論的には犯罪を構成する」とのこと。が、「現実に告訴がない限り、裁判にはならない」のだそうである。

 これを書いている時点で、井上氏が末次氏を公式に訴えたという話は聞きませんから、今回の末次氏の謝罪、そしてそれを受けての版元の「全作品絶版回収」は、あくまでも「道義的な責任」を感じての「自主的な行為」だということです。これを最初に確認したうえで、以下、私見を書きたいと思います。

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2005/09/04

電車内でのベッキー対策

だいたい俺、昔から電車内の手持ちぶさたな時間というのが苦痛で、たいていは本を持って乗り込むんですが、たまたま何も持たずに乗ると後悔するんです。で、しかたなくそういうときは電車と平行して走る忍者のことをよく妄想していたんですが、最近はもっぱら、こういう妄想で気を紛らわせることが多いです。

あの、これから書くことは本当にバカバカしい内容なんですけど、俺が暇なときにどんなことを考えているのかがよくわかると思いますので、笑わないで読んでください。あ、いや別に笑ってもいいですが。

よく考えるのはタレントのベッキーのことなんですけどね。この人のトークの持ちネタが「電車で痴漢を撃退する方法」というやつなんですよ。「徹子の部屋」を始め、もう3回くらい同じ話を聞いてます。

それでベッキー、電車内で痴漢に会ったらもう絶対に泣き寝入りはしないと。とにかく相手の腕を捕まえて、大声で「この人チカンです!」と叫びながら駅員に突き出すそうですよ。最初のうちは、腕の取り方が悪かったのかよく逃げられたそうですが、最近では研究を重ねて、簡単には腕が抜けないようにできるんだそうです。

まるでヒョードル顔負けです。

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2005/08/20

団塊の世代とプレおたく世代とおたく第一世代

saruman-bigold ちょっと覚え書きのメモを書いておきます。2007年問題というのがありますな。いわゆる団塊の世代で一番数が多いのが1947年(昭和22年)生まれなのだそうで、それが定年(60歳)を迎えるのが2007年なのであると。一度に大量の退職者が出るので、退職金の支払いで企業経営が悪化するのではないかとか、現場での仕事ノウハウの継承がうまくいかないのではないかとか、キオスクで売れているおじさん向け週刊誌の売上げが激減するのではないかとか、特に「ビッグコ●●クオ●●●ル」なんか、読者の大半がその世代らしく、今から戦々恐々としているみたいですよ。

もっともこれには正反対の読みもあって、膨大な退職金がその層に一度に集中するので、これを新たなビジネスチャンスだととらえる向きも多い。まあこの不景気に楽観的な見方に過ぎるかもしれないが、要するに団塊の世代は数が多いうえに戦後最初のレジャー世代、サブカルチャー世代であるので、定年で出来たヒマと退職金を趣味に使う人がそれなりに出るのではないかというわけです。

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2005/04/16

【告知】「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」は

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教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書

5月9日刊行だそうです。こないだ編集者さんから書影のメールが来たので、こちらでも紹介。

う……オビの俺の名前がこんなに大きく? これじゃまるで俺が著者に見えてしまう…ってことはないか。もちろん俺は中身にはまったく関係しておりません。著者はばるぼらさん、解説は大森望さんであります。

それにしても、こと日本のインターネットに関することならなんでも載っている印象です。WAREZ、いわゆる「割れ物」(不正コピーのプログラム等)の歴史まで載っているのには感動すら覚えます。ボリュームもすごいです。A5版で500ページにビッシリ!

ちょっと気になるのは、定価が改定(予告より値上げ)されているので、アマゾンなどで予約されている人は注意してください。俺はオビ書いただけですので、文句は翔泳社にお願いします。

あと詳しい内容はこちらを参照(担当編集者氏のブログです)。

http://d.hatena.ne.jp/mohri/20050414

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2005/04/11

【蔵出】肩書きは大事

んーと、まだいろいろ忙しいので昨年のmixiの書き込みから、蔵出しシリーズでお送りします。今週の水曜日には多摩美の講義も始まるし、なんやかんやで大わらわなんですが、今年の俺は「たけくまメモ」に賭けておりますからね! 今後、いろいろ新企画も考えておりますので見捨てないでくださいネ。

昨日、某新聞の原稿を入稿したら、先方から電話があって「肩書きをどうしますか」と言われた。こういうの、俺の場合すごく多いんですよ。

いつもは「編集家」というのを使っているんですが、たぶん日本で俺しか使ってない肩書きなので、新聞社のような堅い仕事先の場合、「もう少しわかりやすいものを」と必ず言われるわけです。「編集者」の誤植と間違われるからと。

俺がなぜ「編集家」かというと、俺の仕事の原点が編集者であり、今でも心の底では自分は編集者だと思っているからです。しかし現実の編集仕事はもう何年も開店休業状態でありまして、仕事の9割は普通のライター仕事になっている。最近はこれに大学講師も加わりましたが、別にこれだけで生活ができるわけではないので「講師」と名乗るもおこがましい。非常勤だし。

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2005/04/05

【蔵出】アサノのカツカレーについて

【はじめに】ええと、ちょっと忙しくなってきたのでしばらく蔵出しシリーズでお茶を濁します。といっても今回のは11月にmixiの自分の日記でアップした文章なんですけどね。「たけくまメモ」を始めるまでは、mixiにもこういう長文をけっこう上げていたんですけど、最近はすっかりいいかげんな更新になっております。マイミクの皆さんには申し訳ない。

町田に「アサノ」というカレーショップがあるんですよ。
駅から東急ハンズ近くまで歩いていって、ちょっと説明しづらい路地を入った途中にある。カウンター席しかなく、6人か7人でいっぱいになるような小さい店です。

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2005/04/03

【蔵出】幻の『色単』について

Amazon.co.jp: 本: もえたん[新装版]もえたん[新装版]

本田透さんのインタビューを読んでいたら、なんですか『電波男』の担当編集者の斎藤氏って、あの『萌える英単語~もえたん』の編集者でもあると知ってビックリ(※註)。同時に、なるほど!とヒザをうってしまいました。なにが「なるほど」なのかはわかりませんが、なんとなく。

http://media.excite.co.jp/book/interview/200503/

※註 三才ブックスの斎藤氏から、「自分は『もえたん』には一スタッフとして参加しただけで、企画は第二編集部編集長の村中が行った」旨、メールがありましたので、ここに報告しておきます。

「萌え」については、俺は基本的によくわからないんですが、俺の心の中をサーチして、なんとかそれっぽい感情を現在引き出している最中です。引き出しが終了しましたら、改めてエントリーしてみたいと考えているところ。今回は「萌え」ではなく「単」について、もう少し書きます。

『もえたん』がヒットして以降、『○○単』みたいな本が雨後の竹の子みたいに出ました。とうとうホリエモンまでもが『ホリタン』を出したのは、前々回にもご報告した通りです。でも、ちょっと待ってください。ほとんどの日本国民は知らないと思いますけど、はるか昔、この俺様も、こういう本を一冊作っているんです。いや『奇跡のマサイ語』ではなくて。アレは表紙だけでしたが、これは中身もバッチリ詰まっている本なんですよ。詰まりすぎ、というか。

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2005/03/23

[電波女]男は宇宙のカス

solanas-2先日のエントリー「本田透君が心配だ(2)」で、俺、次のようなことを書きましたよね。

>本田君が夢想するようにすべての男性が萌えるなら、世界は確かに平和になるだろうが、
>人口も激減するだろう。
>そのとき資本主義社会は崩壊し、同時に萌え産業も崩壊するのではないだろうか。いや、
>それ以前に人類が滅亡するかもしれない。

これに対して、直後に本田君からメールで返事がありました。内容は「子供いなくなる問題のほうはそのうち小説という形で解決策?を書いてみたいと思っていますが、実際に書くチャンスがあるかどうかはまだ判りません。サイトのほうでも、今後の大きな課題として扱っていきたいと思います」というものであります。

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2005/03/18

本田透君が心配だ(2)

俺も、基本的にはイケテる連中に対するルサンチマンで生きてきたといっていい。そして本田君同様、それは文筆のモチベーションを駆り立てる原点でもあった。たとえば95年に書いた『私とハルマゲドン』などは、その基本的な問題意識において、本田君の『電波男』と重なる点が多い。本田君ほど徹底できなかったが……。

しかるに、私が心配するのは、これだけの熱い傑作をものしてしまった本田君の、これからである。大きなお世話かもしれないが、老婆心ながら忠告させてください。

本田君の萌えたぎるオタクマグマは本物である。それは「愛」への渇望が満たされないことの代償行為といってしまうと身も蓋もないが、しかし少なくとも、それが「萌え~とかキモイ事を言わずに心を入れ替えればモテルわよ」というほど簡単なものではないことは、本田君が数百ページをかけて論じた通りであろう。

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本田透君が心配だ(1)

Amazon.co.jp: 本: 電波男電波男

本田透君が心配だ。

いや本来なら、他人を心配している場合ではないのである。なぜなら、俺の本もぼちぼち書店に並ぶからで、遅くとも週明けには店頭に並んでいるだろう。部数が少ないので並ばない本屋もあるかも知れないが、アマゾンではそこそこ仕入れていただいたので売れてもらわないと困る。

しかるに本田透君の『電車男』、じゃなかった『電波男』、これが売れているようだ。これを書いている現在、アマゾンで18位。ご同慶の至りであるが、反面、気が気ではない。それというのも俺の本は予約がいまひとつ伸びず、これを書いている現在、まだ8700番台にすぎないからだ(一瞬、570番に行ったのが最高で、昨日は2800番くらいだった)。

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2005/02/10

【蔵出】中央線・夢のトーマス化計画

tomas-1【はじめに】電車男つながりということで、俺が昔「クイック・ジャパン」という雑誌に書いた「中央線トーマス化計画」をそのまま再録します。今後、旧作も「お蔵だしシリーズ」として掲載する予定です。ではでは。

デス渋谷系のよい子の皆さん! 皆さんは電車の中で退屈な時、どのようにして気を紛らわせますか? 本を読もうにも本がなく、居眠りをしようにも座席が満杯、そのくせ痴漢をするほど混雑もしていないアンニュイな昼下がりのJR。

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